1.いきなり断罪シーン(プロローグ)
「おい、いい加減に目を覚ませ」
太い男の声と太い腕に揺すられて、急激に覚醒した私は目を開けた。
筋肉質の逞しい腕に支えられている。
暖かい体温に包まれているが、どことなく冷たい雰囲気である。
そして、どういう状況なのか、私自慢のロングストレートの金色の髪の毛から冷たい水滴がポタポタと床に落ちていた。
ドレスもずぶ濡れになっており、私の肌がいくらか透けている。
いったいどういう状況なのか困惑していると、先ほどの太い声とは別の透き通った気高い声が説明してくれた。
「ヘーゼル嬢、君は一時的に気を失っていたんだよ。だから、レックスの水魔法で気付けをしたんだ」
この声はアーロン王子かしら。
私の婚約者様。
どこかよそよそしい。
離れたところから、側には聖女候補ロアーナさんが立っている。
まだ頭がぼうっとしている。
「さあ、剣を拾え。決闘の続きだ」
アーロン王子、いったい私に何を言っているの?
「身の潔白を証明する為に剣を取れ。それとも決闘を辞退して大人しく罪を認めるか」
私を抱き止めている背後の野太い声、これは騎士団長の息子のバリーかしら。
生まれて初めてお父様以外の男性にダンス以外で触れられているというのに不思議と心は冷たいままだわ。
身の潔白の証明……?
私が決闘……?
「ロアーナに謝れ」
「ロアーナが許しても僕がゆるさないぞ」
「ロアーナ様を苛めた罪を償え」
「ロアーナと同じ気持ちを味わえ」
アーロン第一王子、アルフレッド第二王子、魔法の秀才レックス、私の兄ジェレミーが次々と私に激しい言葉を投げつけてきた。
そして、将来の騎士団長バリーと聖女候補ロアーナさんの6人が私を取り囲んでいるようだ。
ロアーナさんは若干後ろ目に位置して隠れているが特徴的なピンク色のふわふわヘアーが見えたので間違いない。
「ヘーゼル嬢、お前をここで断罪する!」
アーロン王子のそのセリフを聞いたときに、完全に意識を取り戻した私は、同時にこのシーンについても思い出していた。
"ああ、これ『君スキ』の断罪シーンだ"と……。