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英雄の詩  作者: 山猫幸男
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第四話

「何があったのか、聞いてみてもいい?」


 帰ってきた蒼汰は、それはそれはグロッキーな感じだった。

 影の方で寝かせて、持ってきていたうちわで風を送ってあげながら、やっぱり何があったのか気になったので聞いてみる。


「ああ、激しい戦いだった」


 答えたのはジンリュウの方。体があったら遠くを見て語り出しそうな雰囲気。

 だけどなんか蒼汰は凄い不服というか、恨みがましい目線を向けてた、気がする。


「まず、あの後我々はスクラップ場に向かった訳だが、まあ結論から言うと、そこにメタルドラスは潜伏していたんだ」


 と、何も言わない内から語り始めたジンリュウに耳を傾ける。

 まあなんか面白そうだし、蒼汰の反応も見てみたいのでとりあえず聞いてみよう。



 確かにメタルドラスはそこに居たのだ。ただ、私の知っている姿とは、まるで違うモノになっていた。


「無理、あれは無理!!」

「おい、ソウタ! さっきいい感じに決意を固めたじゃないか! どうして肝心なところで!」


 恐らくは擬態の為だったのだろうが、まあどうにもサイズ感を奴はつかめていないようでな。いや、それともこちらへの威嚇だったのか、とにかく見上げるほどに大きかった。


「いくら何でもあれは無理だ! なんだよあの巨大蜘蛛! 俺、虫駄目なんだよ!」

「落ち着けソウタ! あれは虫じゃない。金属がそれっぽい姿になっているだけだ!」

「デカくなったらグロ過ぎる! 見た目で無理!」


 しかし蒼汰にとっては初めての戦場だ。緊張、恐怖。動けなくなるのも仕方がない。


「仕方がない、あまりやりたくはないが、強硬手段だ!」

「え、なに? 重ッ! 盾?! なんで腕輪が盾になってんの? ていうか体が、自由が利かないんだけど!」


 ここは私がやるしかない。快く体を貸してくれた蒼汰に代わって私が前に出る事になった。


「なんだよ! おい、どうなってんだよ!」

「変ッ身!」

「ふぁっ?!」


 秘めていた私の力を、剣を抜くと同時に解放し、真の姿へと変わったのだ。


「……なんだこの姿は。鎧が、青い? それに、いつもより力も出ない……どうなっている?! あっソウタ、君がギリギリで変身を拒絶したな?」

『知るか! そんな急に対応できるわけないだろ! それより前! 前! あいつ来てる! なんとかして!』


 まあ、何かとエネルギーを使っている状態の私だ。変身こそ、不完全なものだった。が、しかし、そこは経験で元と変わらぬ俊敏な動きで奴を翻弄し……


「ああ、動き辛い! ソウタ、もうちょっとやる気を出してくれ! 体は動かせるが、芯である君がやる気を出してくれないとうまく動けないみたいだ!」

『そんな事言われたって! って言うかそんな事言ってる場合じゃないって!』


 華麗に身を翻して敵の攻撃を避け……


『いったぁ……頭くらくらする……』

「大丈夫か、ソウタ?」

『うーん、なんとか……』


 そして、強烈な反撃を食らわせたのだ。


「あれ、剣がない!」

『さっき落としたんじゃないか? って、それどころじゃない、また来てる!』

「なにっ、おのれ! このぉ!」

『うわすっげぇ、あんなでかいの投げ飛ばせるのか……』


 とまあ難なくピンチを切り抜け、トドメを刺したわけだ。


「あ、あったぞソウタ! こんな所に落ちていたのか」

『言ってる場合か! あいつ起き上がったぞ。あの巨体でカサカサ動かれるのはキモい! 早くトドメ刺して!』

「任せろ。……ハァッ!」



「とまあこんな感じだな」

「嘘つけ!」


 ジンリュウの大分誇張の入った回想に、思わず突っ込まずにはいられなかった。




 本当の事を話したら、優花は腹を抱えて笑い転げました。



「大変、だったんだね。お疲れ様」


 表情こそ真顔だったけど、口の両端は広がりそうになるわ、肩は震えるわで今もまだ収まってないらしい。器用なことする奴だ。


「ほんっと疲れた。ヒーローって楽じゃないわ」

「みたいだね」

「あ〜腹減った。お昼どうする?」


 いつの間にやら太陽は真上。

 いつになく体を動かしたのもあって、腹の中は空っぽだ。


「あ、それなら……」


 待ってましたと言わんばかりに鞄の中を探り出す優花。

 すると中から何やらアルミっぽい袋に包まれたものが二つ。


「じゃじゃーん! 気の利く優花ちゃん、お弁当を作ってきたのでした!」


 と、一つを俺に差し出した。


 優花が、料理?

 イマイチ結び付かない二つのワード。少し疑ってしまう俺が居る。


「あのねぇ、なんだねその疑り深い顔は。ちゃんと味見だってしてるし大丈夫ですぅ。保冷剤も入れてるから痛んだりもしてないはずだし」

「いや、うん。別に疑ってたりはしないんです」

「あ、そう。じゃあ食べてみてください!」


 と弁当箱をとりだすと、優花は俺の頬をつまむ。

 そして卵焼きを一つ取って口の中に突っ込んでくる。


「あ、美味しい」

「でしょう?」


 卵焼きは甘めの味付けだった。出汁巻の方が好きだけど、それでも美味しい。

 疑ったことが申し訳ない。


「なんか、ごめんな」

「分かればいいよ、ほら食べて。梅干し大丈夫なら、おにぎりもあるよ」

「大丈夫大丈夫、サンキュー」


 鞄からもう一つ包みを出してきて差し出される。こっちにはおにぎりが入っているみたいだ。

 卵焼きに、生姜焼き、それに刻んだ野菜。シンプルだけど、男の子って感じの弁当だ。


「もうちょっと凝ったの作りたかったけど、時間なくてさ」

「いいっていいって、こういうの好きだし。じゃ、いただきまー……」

「あっ!」


 食べようとする寸前、急に大声を上げた優花。


「ごめーん! 飲み物持ってくるの忘れた!」


 何事かと思ってみてみれば、頭を下げて両手を合わせている。


「そこの自販機で買ってくるね」


 弁当作って貰ったし、それくらいの事は俺が、と思って立ち上がろうとしたけど、優花に座るように押し止められた。


「いいから休んでなさいって。すぐ戻るから。何か飲みたいのある?」

「じゃあ、お茶で……あ、お金渡しとくよ」


 流石にこのまま何もしないのは沽券に関わるので、少し多目に渡して自分の分も買うように伝えた。


 優花が飲み物を買いにいった後、作って貰ったものを一人で食べるのもどうなのかと、思いはした。

 けど、空腹には敵わず、もくもくと食べ始めることにした。


 どれも美味しい。急いで作ったみたいだけど、そんな事感じないくらいに、しっかり美味しい。

 ちゃんとお礼言っとかないとなあ。


「ソウタ、それは残すのか?」


 ジンリュウが言ってきたのが、何の事か分からなかったけど、どうやら梅干しの種の事を言っているらしい。


「ああ、これは食べる人居ないって。硬いし、飲み込めないしな」

「食物の中にあるのに、食べられない部分があるのか」

「そりゃあね。ジンリュウ、普段何食べてんの?」

「私か? 私には君達のような食事という行為はなくてな。太陽のエネルギーで生きていける」


 なんというハイテク。流石は宇宙人だ、俺達とはレベルが違うわ。


「食事は必要ない私だが、これまで様々な星を巡って来た。その中で、それぞれの星に住む人々の食事も見てきたよ」

「へぇ、他の星の人達ってどんなの食べてるの?」

「そうだなあ、本当に様々だが、君達の様に植物や動物を食べる所もあれば、それ以外であると、岩石を食べる種族も居たな」


 岩石。


「中には、本当にそんなものを食べるのかと思う種族も居たな、例えば……」

「いや、いい。もういいです」


 これ以上は聞かない方がいい気がする。

 あまり話を聞いていると、せっかくの弁当が不味くなりそう。


「そうか? ただな、食べる物は種族によって違いこそあれど、『食事』をする者達には、共通する事があるよ」

「共通する事?」

「ああ、誰もが食を通じて充実している時は、とても幸せそうだ。食事の出来ない私には、それが羨ましい事に思うよ」


 なんだか、いい話だな。少しじーんと来た。こいつの話で初めてだ。


 ただ、その話を聞いて一つ気になることが。


「メタルドラスは、星を食うんだよな。そういう生き物なのか?」

「いいや、奴は言うなればブラックホールだ。ただ吸い込み、何も残さない。自然現象ならば手を出すことはないが、奴には際限がない。放っておくには、危険な存在だ」


 メタルドラスの話になると、陽気だったジンリュウの声は途端に低くなった。それだけ、真剣なんだろうな。


「そんな奴を、ずっと追いかけて来たのか? どうして?」

「元々宇宙の平和を守るのが、私の使命だ。……とは言え、メタルドラスを倒せなかった事で守れなかった星と、そこに住む人々……今の私は、使命など関係なしに、ただ、奴を倒すということに躍起になっているだけかもしれない」


 ジンリュウは、顔も、姿も見えない。

 だけど、話を聞くだけで、悔しかったんだなって分かる。

 俺の体を無理矢理使った事は、正直ふざけるなって思ったけど、こいつは、必死だったんだな。


「でもまあ、倒せて良かったじゃないか。助けられなかった星の人達も、浮かばれるんじゃないの?」

「いや奴は、まだ……」


 言いかけて、そこで口を閉ざした。


「倒して、ないのか?」

「……ああ。アレは、恐らく分身。我々の、私の目を誤魔化すための」


 分身? あれだけ、苦戦したのに……


 本体はもっと強いんだろうか。

 メタルドラスを倒したいジンリュウが、俺なんかに憑いてて、いいんだろうか? 分身にも、苦戦するような俺に。


「なあジンリュウ。メタルドラスを倒しに行った方が、いいんじゃないか? 俺なんか、放っておいて」

「君を巻き込んでしまったのは、私の責任だ、だから……いや、結局、戦いにまで巻き込んでしまって、より危険な目に遇わせているだけ、だな」


 今までの陽気な態度が嘘のようだ。

 もしかすると、俺達と接するために演じていただけなのかもしれない。

 生真面目で、背負い込みがち。それが本当の彼なのかな。


「もっと早く、君達の元に駆けつけられていれば、そもそも、巻き込むこともなかったんだ。本当にすまない」

「いいって! ジンリュウのお陰で、俺達、助かったんだしさ。それより、俺みたいな凡人に付いてなきゃいけない方が、悪いっていうか……」


 本当ならジンリュウ一人……あるいは、もっと適切な人間がいた筈だ。

 宇宙を守る。なんて、大きな使命を背負うには、俺は力不足だ。


「それは、違うぞソウタ。確かに君に憑いたのは君を治癒するためだ。だが、君に協力を頼んだのは……」

「似た者同士だね、お二人さん」


 戻ってきた優花が、俺達の間に入ってきた。


「ほい、お茶」


 俺にお茶を差し出しながら、隣に座る優花。


「サンキュー。ていうか、なんだよ、俺達が似てるって」

「そりゃあ、だってあなた達? 自分が悪い、いや自分がダメだって、そんな事ばっかり。似た者同士じゃない」


 言われてみれば、そうかもしれない。

 ふと、ジンリュウに視線を落とす。腕輪だけど、なんだか、目が合ったような気がした。

 そしたら、なんだかおかしくなってきて、思わず笑いだしてしまった。


「やめようか、この話。多分終わらないわ」

「そうそう、せっかくあたしが作ったお弁当あるんだから、食べちゃってよ。残したら、許さないから」

「それは怖いな。ソウタ早く食べた方がいいぞ」

「ああ、メタルドラスより怖いかも」

「なんだとこの〜」


 なんてふざけあいながら、時間は過ぎていった。

 重たくなっていた空気は、一気に和やかになった。優花のお陰だな。



「さて、と。それじゃあどうする? もう少し、辺りを探してみる?」


 食べ終えた弁当箱を片付けた優花が、俺達に話しかけてくる。


「しかし、分身体で私の目をごまかしたとすると、もっと離れた所に逃げているかも」

「となると……流石にここから先はバス移動の方がいいんじゃ」

「まあ流石にね。あんまり遠いと帰るのも大変だし」


 恐る恐るの提案だったが、今度は白い目で見られずにすんだ。タイミングは大事だな。


 そこで、スマホを取り出した優花。


「なにしてんの?」

「一応調べてみようかと思って。また何か手がかりが……あれ、なんか急に暗くなってない? 雨?」


 などと言い出したが、今も焼けるくらいに日差しが刺さる。

 きっと雲がかかったか、何か……そう伝えようとして、一度空を見上げた。その時、そこには……


「ソウタ危ない!」


 無意識に(恐らくジンリュウによって)左腕が胸の前まで動く。

 腕輪が盾に姿を変え、ズシン……と重くなる腕を右腕が支えた直後に感じた、強い衝撃。


 俺の体は後ろに大きく吹き飛ばされて、受け身もとれずに背中から地面にぶつかった。


「え、蒼汰? ……きゃあっ!」


 衝撃と痛みで、飛びそうになる意識が、その叫び声で一気に揺り戻される。


 半身だけ起き上がらせ、優花がいた筈の所を見てみるも、そこに姿はない。

 直後、頭上を過ぎていく影……見上げれば、そこには大きく翼を広げた人型と……それに捕まれた、うなだれる優花の姿。


「待てっ……うっ」


 追いかけようとして体に力を入れるも、全身に激痛が走る。


 耐えながらも起き上がった時には、その姿は遠くへと離れていた。


 はやく、追いかけなきゃ……体に鞭を入れてでも……!


「待てソウタ! そんな体で無茶だ!」

「優花が拐われたんだぞ!」

「落ち着くんだ。ユウカを助けたいのは、君だけではない」

「え?」


 頭に上っていた血が、少し引いていくのが分かる。


「一人じゃ、無いって……」

「私も、気持ちは同じだ。だが、思いだけでは駄目なんだ。私一人では駄目なんだ。君の勇気を、貸して欲しい」

「俺の、勇気」

「そうだ。君に限界を超える覚悟が、あるのなら」


 迷う必要なんてない。優花を助けるためなら、答えは一つ。


「行こう、ジンリュウ!」

「ああ、分かった、行くぞソウタ!」

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