第三話
「うわあ、凄い人……」
支度を終えた俺達は、まずは最初の現場から。という事で昨日来た小学校まで行こうとしたのだけ、ど……
学校へと繋がる通学路は校門から少し下ったところまで埋める人、人、人。
思わず声も出てしまう。こんな田舎のどこにこの人口が居るっていうんだ。
と、唖然としていた俺の脇をつつく人が。
「優花、脇腹はやめて欲しい」
「それよりほら、これ見て」
と、俺の抗議はスルーされ目の前に突き出されるスマホ。
そこには『小学校に落下物、隕石か?』といった感じの見出しの記事が。
「有名になっちゃったみたいだねえ」
と優花は困ったように笑う。
まあよく考えたらそうか。普通に考えれば、昨日は落下の衝撃もあればクレーターも出来た。話題にはなるよな。しかも、それが一晩の内に無くなったとなれば。
そりゃ足が生えて自分で歩いてどこかへ行ったとは、誰も思うまい。
とはいえ、そんな事はこっちとしてはどうでもいい話。
「こりゃあ、学校には行けそうもないなあ」
「だねえ、どうすんの?」
と、俺達の視線は腕輪……ジンリュウに向けられる。
「ほう、それはあっという間に情報を調べることが出来るのか! 凄いじゃないか、この星の情報技術は! 他には、何が分かるんだ?」
この宇宙人、人の話も聞かずにスマホに興味が向いているようである。
「いやいや、今スマホを気にしてる場合じゃないだろ。これからどうするかって聞いてんのに」
「そんな事はないぞソウタ。大事な事だ。例えば、そうだな奴がこの辺りを移動しているなら、何か異変が起きているはずだ。そういった事は分かるか?」
思いの外真剣だった。呆れてしまった事は後で謝ろう。
「うーん、この辺りの事がニュースになるかなあ……」
優花は眉間に皺を寄せながら、スマホに指を走らせる。
すると、気になるものを見つけたのか、目を大きく開いた。
「あった、あった! ねえ見てこれ!」
何故か嬉しそうに笑みを浮かべ、俺達にスマホの画面を向けてくる。
「いやあ、ウチらも有名になったもんだね。鼻が高いわ」
別に有名になった訳でも、そもそもなんでお前が得意気になるんだという色々は、まあせっかく楽しそうだからと胸に仕舞い、そのニュース記事を読んでみる。
記事の内容は、昨日の夜中から妙な盗難事件が起こっている。という事だった。
基本的に盗難に遭っているのは自動車……なんだけど、タイヤや椅子、ワイパーみたいな部分はその場に散乱していて、簡単に言えば、外装を丸っと剥がされているような感じらしい。
「ジンリュウ、どう思う?」
「メタルドラスの仕業とみてまず間違い無いだろう」
凄いな、即答だ。
まあ分かってる時点で三件、こんなこと人には出来ないとは思うけど。
「メタルドラスは、高温と極度の低温に弱い。大気圏突入から自分を保護することにエネルギーを使ったばかりだ。その補給行為だろう」
「じゃあ逃げるついでに、拾い食いしてるって事か?」
「簡単に言えば、そういうことだな。そして、恐らくはより多くの金属を求めてさまよっているはずだ」
「優花、それ、どこで起こったかって分かるか?」
「ちょっと待ってね……あ、これ隣町の名前だ」
てことは、少なくとも隣町に行っていて、そこから金属の多い所……か。
「とりあえず、隣町まで行く? ここに居るよりは手掛かりあるんじゃないかな」
まあ、その通りではあるんだけど。だな……いやまあ、そうだよな。
「ユウカ、君の言うとおりだ。ここで立ち止まっていてもしょうがない」
マズい、ジンリュウも同調しだした……
「どうした、ソウタ。気分が悪そうだが」
「いや……大した事じゃないんだけど……」
「ホントだ。大丈夫? 蒼汰、無理そうなら、休んだ方いいよ?」
痛い。いや、体は平気なんだが、視線が。
優花の純粋に心配してくれる視線が痛い。自分の悩みが下らなすぎて。
「ホント、大した事じゃないんだ。ただ……」
「ただ?」
心配されるのは当然だし、出来ればそれは解いておきたいんだけど……
「ほら、バスないじゃん?」
蝉の声だけが辺りに響く。
痛い、視線が痛い。
しょうがないじゃないですか、午前中のバスは八時が一本くるのが最後。今は十時を過ぎている。
次は三時ですよ。それまで待たなきゃ自分の足で行くしかないわけで。隣町まで五キロですよ五キロ。無理だよ。
だから、その、可哀想にモノを見る目をやめて欲しい。悪かったから。
*
「ほら、もう少し登れば下り坂だから。頑張って!」
「ちょっと待って! 速い、優花速い!」
結局、俺達は自転車で隣町まで行くことになった──
──が、キツい! なんだこれは、登り坂が多すぎる。そして長い。
どうして優花はあんなに軽々坂を漕いでいけるんだ……
「弛んでるぞ、都会っ子! そんなんじゃ世界は救えないぞ!」
関係ないと思う。むしろ田舎にいる時間の方が長いんだけど。
「その通りだソウタ! これから戦う相手はこんなものでは済まないぞ!」
モチベを著しく削ぐのでジンリュウは黙っていて欲しい。
このように、鬼教官二人に叱咤されながら、俺はがむしゃらにペダルを回すのだった。
「死ぬ……マジで死ぬ」
とりあえず、隣町の図書館まで来てみた俺達。
この炎天下でひたすらに坂を登るのはキツかった。まだ呼吸がままならない。
「情けないなあ、男の子。ほらジュースあるよ」
「サンキュー……」
優花から受け取ったスポーツドリンクを一気に飲み込む。
少し落ち着いた所で気を取り直し、ジンリュウへと目を向ける。
「で、どう。なんか分かるか?」
「うむ、微かだがメタルドラスの気配を感じる。近くに鉄製の物が集まる場所はないか? もしかすると、そこに居るかも」
と、言われても……そんな所、あったかな。
「あっ、あそこは? 病院の近く。廃車、沢山置いてあったよね」
「ああ、あそこか! 確かに、車食べてるなら居るかもな」
流石に現在進行形の地元民の知識は頼りになる。
「やっぱり、あたしが居て良かったでしょ」
と、得意気な優花に、「ありがとうございます優花様」と敬ってみせる。
とはいえ……
「優花、お前はここで待っててくれないか?」
「え、どうして?」
「流石にスクラップ場は危ないし、いくなら、ジンリュウが付いてる俺だけの方がいいと思うんだ。もしもって事もあるかもだろ?」
それに、何故かなんとなく感じるんだ。何か、ヤバイ奴が居るって。でも、あまり心配もかけたくないから、これは黙っておく。
「何もなかったらすぐに戻ってくるよ。だから、待ってて欲しい」
「……分かった。じゃ、図書館で待ってるから。閉まんない内に、戻ってきてよね」
「ああ」
そのやり取りのあと、優花が図書館へと入っていくのを、俺達は見届けた。
「いい子、だな」
「俺もそう思うよ」
ジンリュウの言葉に同意しかない。
「じゃあ。行くか……」
「ああ、メタルドラスの元へ」
早めに、戻れればいいんだけど。