対ソ連情報活動
ドイツ軍情報部は東部戦線を手早く片付けるような特殊作戦を実施するための情報活動を強化した。
「ソ連軍の弱点をついて、東部戦線を安定させる」がドイツ軍の至上命題になる。
ソ連軍は戦前のトハチェフスキーの粛正以来、共産党により支配を受けている。
政治将校が各部隊に配置され、指揮官の動静、特に政治的信頼性を注意されている。
ならば、この監視システムに潜りこむ、ことができたら、貴重な情報がとれるだろう。
特に今は先のバグラチオン作戦の失敗を巡り粛正の嵐が吹き荒れている。
この混乱した時期を逃してはならない。
最近ドイツ軍の入手したバグラチオン作戦についての情報分析では、あのソ連軍の大攻勢は基本的に成功する確率の高いものであった。
米英からの膨大な支援で得た後方支援能力は、ソ連軍の大好きな大砲兵戦力と、大規模な戦術航空兵力の運用を可能としているからだ。
幸い、英米との関係冷却から、今まで以上の支援は考えられないとは言え、事態が沈静化して、蓄積された補給物資を投入されたら何が起きるかわかったもんじゃない。
様々な情報から判断して、ソ連軍の回復を待つまでもなく、彼らの脅威を除く必要があった。
そのために、ドイツ軍情報部の考えた次なる手は、「番犬をてなづける」作戦であった。
もともと以前からNKVDにはエージェントを獲得していたのである。
ただ当初は、まだ権限も小さな下級職員だったために、あまり良い情報源とされず、ドイツ側もスリーパーとして接触を控えていたのである。
しかし、独ソ戦開始以後規模を拡大したNKVDの中で、次第に権限を持つようになっていったのである。
彼はベリヤ長官のもと、主流派に属する中堅職員として地道な勤務を続けていた会計課のベテラン職員である。
この職についていることで組織内での資金の流れに通暁し、本来ならば知るよしも無いような秘密作戦について会計処理などから関わることが多かったのである。
そんなと思われるだろうが、いくらNKVDとて「役所」の一つである。
会計処理なしには、動けないのである。
例えば「ラーゲリー新設」の話が上がる。これについても彼は必要性について問い合わせれば、「どこそこに、ドイツ人捕虜何名収用」とかの報告が上がる。
また「暗号名○○のエージェントの報酬」などの請求が来て彼の部署にて処理される。
スパイの名前はわからずとも、請求してきた担当官から、どの方面向けの工作か、ぐらいは判明する。
また費用からその重要性も判断できる程度の経験もあったのだ。
このように直接的な作戦に関わる部署でなくても、間接的に情報収集が可能なのだ。
また彼自身、出身地グルジアの中に独自の情報網を持っていたので、同郷のスターリンやベリヤの情報にも近づきやすいと言う価値があった。
このエージェントは計り知れない価値のある情報を提供した為、後にスターリン体制が崩壊した後にはドイツ軍情報部が、秘密裏に一族まるごとドイツに亡命させて、ゲーレン機関で厚遇したとされている。
ドイツ軍情報部は、このようにして得たNKVDの情報から、釣り上げるべき工作官を特定して、さらに深く浸透する工作を実施した。
また以前からウクライナ独立派と行っている特殊作戦とも連携しての、新たな工作も始まった。
とにかく、東部戦線を片付けないと!
さあどうしようであります。




