ビスマルクの幸運
ビスマルクはその艦上にいた人達がみな死を覚悟しましたが!
戦後、ウィルヘルムスハーフェンで記念艦となったビスマルクでは数年ごとに、戦友会などのイベントが開かれている。
その時は、様々な海戦を経てきた時の話が色々出てくる。
その中でも誰かれなく、特に高射砲や艦橋にいて対空関係の任務についてた人達が、「死ぬかと思った」のが、先ほどから述べているブレスト空襲で、トンでもない大型爆弾が降ってきた時のことである。
先に述べたように2番機の投下したトールボーイは、投下と言うより投棄に近い状態だったが、爆弾そのものは正常に機能し、ドイツ側からは至近弾と見なされた。
この時の衝撃波は、ビスマルクを揺さぶり、一時的だが艦の電気系統をダウンさせたほどである。
このため、艦橋の各種装備も機能を失い、レーダーもダウン、一瞬であるが一切の反撃ができない状態にまで追い込まれた。
そこに再度爆撃侵入してくる1番機が見えると、皆が「次は殺られる」と感じたらしい。
爆撃手は一瞬と惑った後、思いきって投下ボタンを押した。
そして大型爆弾が落下していく 途中である。
落下中の弾体の安定のため、後部に装備されたフィンは、弾体をスピンさせるように働く、とその時に、1枚のフィンが脱落したのである。
これにより、弾道の乱れたトールボーイは奇妙な軌道を描いて落下、かなり離れた場所に落下した時点で炸裂したのである。
これによりランカスターの大型爆弾による攻撃は失敗に終わった。
艦橋には凄まじいほどの安堵感に溢れたと、当時の現場経験者は語り草にしたのである。
とは言え、ドイツ側は今回のイギリス軍がより多くの爆撃機を投入したりすれば、いつかは殺られてしまう、危険を目の当たりにしたのだ。
その危険を除くには、今のように敵のボマーコマンドの跳梁を食い止めなければならない。
それには、少なくとも英仏海峡あたりの制空権を確保、またはせめて航空優勢を確実にせねばならない。
また、過去ずっと言われている英米軍による大陸反攻の芽を摘まねばならない。
ここに至り、ドイツ軍は第2次英本土航空作戦を意図するようになる。
前回は英本土上陸作戦の前段の作戦だったが、今回は本土空襲、英仏海峡地区の航空優勢の確保が目的である。
また今回は長距離爆撃機の不足をある程度改善できる長距離の誘導弾も利用できる。
ただ問題は必要な航空兵力の集中にある。これをどっから融通するかとなると、やはり今は落ち着いている東部戦線となる。
しかしあまり大規模な引き抜きは、また兵力バランスを崩す危険がある。
こうなれば、「いっそのこと、東部戦線ケリつけるか」と言う、考えも浮かんできたのである。
さあ、どうしてくれよう、である。
ビスマルクの幸運は戦局に新たな展開を導きそうです




