日本の航空機増産にドイツから「神風」
イギリス軍のスエズ撤退により風通しの良くなった日本とドイツの「技術交流」は航空機生産の面で大きな影響を与えました。
ドイツ機の実機はそれまでも多種に渡って日本に持ち込まれて来たが、今回は「規格部品」「計測器」にポイントを当てて導入されたのである。
倉庫からランダムに取り出された日本製のボルト、ナットが計測され、輸入されたドイツ製部品との公差の違いを比較するだけで、各部品メーカーも従来の生産体制を改めざるを得なくなったのである。
ポイントは「アッベの定理」の活用である。
簡単に言うと、当時日本の現場で多用されていた、ノギスのように、くちばしがついた計測器は測定時に物を挟む力である測定力などの影響でどーしても誤差が多くなる。
それに対して、測定する物と目盛りが一直線に配置されているマイクロメーターのような計測器のほうが、良好な精度を発揮する、って定理。
これ、単純な理屈だが、まさに「桁違い」の精度の差を産み出す。
例えば、機関銃の弾を測るとすれば、ノギスなら口径7.62mmの弾を図れば、百分の2の値は少し違うかもしれない。
しかしマイクロで測れば百分の2なのか百分の19なのか位わかる。
もし、飛行機のような精密な物を作るのに、部品の測定値の誤差が10倍近い差があれば、「互換性」に大きく響く。
そして大事なことは、このマイクロメーターが「国産」されたのは、先の戦争の10数年前、である。
こいつは、現場で使う、実用的な計測器の点で米英に対して単純に比較して、10数年以上の差がすでにあったと言える。
一方、戦後の例だが、アメリカ海軍のグラマンF9F戦闘機が、無塗装の機体前部と、逆に機首の壊れた機体からグロッシーブルーの尾部を組み合わせて1機、「ブルーテイルフライ」と呼ばれたやつがいた。
これは地上攻撃の時、損傷受けた機体を「2個1」にしたことからできた機体だが、戦地でこれが簡単にできる位、部品ごとの寸法のばらつきが少ないことを示した例である。
一方、日本では航空機の量産を叫びつつ、素人を動員して組んだ機体は、凄まじい工作精度のばらつきを生んだケースがあったという。
機体ごとのばらつきもひどかったと聞いている。リベットを打った穴の位置が普通にずれていたりして、車輪の引き込みがスムーズに行かないなど末期的なケースまであったらしい。
イギリス軍のスエズ運河撤退は、このような悲惨な日本の航空機増産の現場を一気に改善する「神風」となったのである。
そして当時の我が国の航空機規格の昭和20年8月の全面改訂に結びついて、日本の戦時生産の品質向上、さらに戦後のJIS規格にも影響を及ぼしたのである。
この計測器の差、については、かって新明和工業伊丹工場で航空機整備の計測器を校正していた先輩諸氏から1997年くらいに聞いた話を元にしてます。
昔は大変だったんです。




