「スターリンの置き土産」顛末記
せこいスターリンはただでは、モスクワから逃げ出した訳ではない。
しっかり米英軍に「置き土産」をプレゼントしようとしていたのである。
戦争においては、ほんの少しの偶然が、連鎖して綿密に計算された作戦をぶち壊す例がある。
史実であった第二次大戦でも有数の規模の、空挺及び地上作戦「マーケットガーデン作戦」を失敗させた例では、もともと無理目な作戦計画、通じない通信機、悪天候、無視されていたドイツ軍機甲部隊の存在とかがあった。
それぞれの要素が絡み合い、大失敗に終わったが、この話でもやはり同様に失敗した「スターリンの置き土産」について述べたい。
いよいよモスクワ北部を窺う位置に、雪道に難渋しながらも、前進してきたアメリカ第3軍である。
彼らの前のソ連軍部隊は、幾重にも防御陣地を重ねたいわゆる縦深防御を行っている。
これを突破するために、アメリカ軍も優勢な空軍戦力を投入しているが悪天候に阻まれなかなか効果が出ない。
情報では、ソ連軍の補給列車が前線に補給しているのを、探知しているが、当時のこと、「全天候精密爆撃」など夢のまた夢、の話である。
したがって、鉄道での補給阻止のためには、中型爆撃機による集中爆撃を操車場に行うことにした。これならば比較的大きな目標であり、少々爆弾が外れても何らかの損害を与えれる可能性があったのである。
尚、ここで言う「中型爆撃機」はBー36の出現で格下げになったBー29のことであるから、それなりに打撃力が期待されたのである。
これにはイギリス空軍もリンカーン爆撃機を投入、昼は米空軍、夜はイギリス空軍としつこい攻撃で、ソ連軍に修理する間を与えないことも含まれた。
これに付随して、この操車場を中心にした列車阻止作戦も計画され、最新鋭ジェット戦闘爆撃機Fー84Bや、さらに改良されたD型が、昼間に投入されると共に、夜間はBー26Cなどが地道に列車を攻撃する作戦を行ったのである。
さてこの鉄道網の破壊による補給阻止作戦で、一本の貨物列車が、運行を阻止されて、待避線に置き去りにされたのである。
この待避線は、巧妙に対空偽装されたために、米軍やイギリス空軍の空襲は免れたが、この線路の前方は鉄橋を破壊された上、後方は、トンネルがリンカーンの投下したトールボーイでまるごとぶっ潰され、身動き取れない状態になり、後に前進してきた米軍に捕獲されてしまう。
ここに到着したアメリカ軍には、幸運にもロシア語に堪能な技術将校がおり、偽装された列車付近に書かれたロシア語の「警告」にいち早く気づいたのである。
「危険」「廃棄物」さらに「防護服なしに15m以内に近寄るな」そして 発送が「アルザマス16」になっていたのである。
当初は「化学兵器」と考えられ、急遽、化学部隊が動員されたが、調査した結果、耳慣れない「放射性廃棄物」と言うものであった。
この情報が、アメリカ本国の「マンハッタン計画」関連部門につたわるや、たちまち周囲は厳重に立ち入りが禁止され、この列車についての情報も厳重に秘匿された。
後にこの貨物列車に搭載されていたのは、ソ連の原爆開発の過程で得られた、様々な放射性廃棄物 であり、ソ連軍はこれを米英軍の侵攻を待ち、時期を見て、貨物列車を爆破して、危険な放射性廃棄物で一帯を汚染する計画だったことが判明した。
幸いなことに、貨物列車が散布に適した位置に運ばれる数時間前に前方の鉄橋が、度重なる空襲での打撃で崩落し、 翌日には後方のトンネルがトールボーイでぶっ壊されたために、撤収もできなくなったうちに前進してきた米軍に捕獲されたのである。
後にロスアラモス研究所で分析したところ、もしこの貨物列車が所定の位置において爆破されていたら、米英軍主力部隊の半数以上が、高濃度の放射性廃棄物にさらされ、多数の急性放射線被爆を招き、甚大な被害が出た上に、モスクワすらも風向きによれば甚大な被害を受けたと予測された。
尚、この貨物列車が爆破されなかったのは、当初計画された爆破地点が厳密に指示されていたために、命令違反を恐れた現地の隊員が、爆破しようとしなかったからだと言われている。
「スターリンの置き土産」は自国すら巻き込む大惨事を引き起こしかねなかったのであった。
どうなりますやら




