一目でわかるかっこ
心臓は早鐘を鳴らしながら、僕は小走りに待ち合わせ場所へと急ぐ。
相手を待たせちゃいけない!
そんな思いで早め早めに準備を進めてきたのに、出かける直前になって自分を着飾る事ばかりが気になってしまい、家を出るころにはすっかり待ち合わせの時間ギリギリになってしまった。
「薔薇騎士さんもう着いちゃってるかなぁ?」
待ち合わせ相手の名前は通称「薔薇騎士」。
もちろん本名ではない。
僕たちはたまたまゲームの上で仲良くなり、一緒にプレイ重ねて行くうちになんとなくリアルで会おうという話になって、こうしてオフ会をすることになった。
ふと、手元のスマホが振動し画面が表示される。
「ついたよ〜。もういる?」
端的な文章が可愛いスライムのスタンプと共に送られてきて僕の心をくすぐる。
なにせ現実で女の子と二人で遊ぶことなんて初めてのこと。
そう。実は、相手は女の子なのだ。
スカイプしながら一緒に狩りをしたこともあるからネカマってことも無い。
間違いなく可愛い女の子の声だった。
僕は素早くスマホに文字を走らせて「ごめん。あとちょっと!」と返信すると、すぐに返事が返ってきた。
「もう!早くルーラしてルーラ!」
ルーラとはゲーム上の移動魔法のことで、一瞬して好きな場所へと移動できる便利魔法だ。
僕はクスッと笑いながらスマホをポケットにしまうと、心の中でルーラと唱えて待ち合わせ場所へとダッシュした。
「はぁ、はぁ、やっと着いた・・・」
行き絶え絶えに目的地に辿り付き、待ち合わせ相手を探してみると、今更ながら気が付いた。
・・・どうやって相手を探せばいいんだ?
僕たちは互いに顔を知らず、ゲーム上の感覚だけで待ち合わせをしてしまったのである。
こうなっては大声で名前を叫ぶくらいしか探す方法は無いが、人の名前かすら怪しい薔薇騎士なんて言葉を連呼するような、そんな恥ずかしい真似はできない。
少し考えた僕は妙案を思い付き、彼女にどんな格好をしているか尋ねると、すぐに返信があった。
「一目でわかるかっこだよ!」
・・・一目でわかるかっこ?
最初は意図が分からずに頭にクエスチョンマークが浮かんだが、すぐに謎は解けた。
薔薇騎士さんはその名に恥じず、ゲーム内では常に薔薇柄の服を着ている。
つまり一目でわかるかっことは、彼女もまた薔薇柄の服を着ているということだ。
僕はヒントに頼りに再度注意深く見回すと、すぐに相手が見つかった。
薔薇柄のワンピースを着た僕と同い年くらいの女の子。
しかも、・・・かわいい!!
遠目からでも整った顔立ちとスタイルの良さが伺え、僕は小さくガッツポーズする。
今日は楽しくなりそうだ!
僕は恐る恐る近づいて声をかけようとした時、その足が止まった。
確かに、思った通り彼女は花柄の服を着ていた。
でも・・・
思った以上に騎士でもあることを、その左手の剣が語っていた。