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言いふらしちゃうから

最後にお知らせがあります。

詳しくは後書きの方で。

「ただいまー」


数十分後、リハーサルを終えたラズリが部屋へと戻って来る。

彼女が戻って来るまでの間、ラピスもコンクール衣装に着替え身を引き締めていた。


身に(まと)うは純黒のドレス────

ワンショルダーのドレスに、胸元には黒薔薇の飾りが施され、露出する英国譲りの白く華奢(きゃしゃ)な腕が際立って目立つ。

普段はツインテールな彼女の長髪は、ウェーブの掛かったポニーテールへと姿を変え、彼女の風情(ふぜい)を一層大人びて見せた。


「おぉー、お姉ちゃん綺麗!!」


瞳を輝かせ、無垢な少女が笑みを溢す。


「……そんなお世辞いらないから」


「お世辞なんかじゃないよ!お姉ちゃん凄く似合っているよ」


「…………」


ラズリの言葉に嘘偽りがないことをラピスは知っていた。

彼女が口にする言葉は、常に本心であることも分かっている。

だが────

その真っ直ぐさ故に、僅かな(ほころ)びを見出そうと彼女の心は卑屈になった。


目の前から飛んで来る槍に槍をぶつけて相殺させようなどという馬鹿な考え方はしない。

この身が救われる方法は多岐に存在する。

軌道を逸らす、盾を張る────

そうして、ラピスは妹から逃げ続けて来たのだ。


だが、その逃げ道が封殺された。

探られることのない”精神”という名の絶対領域内で繰り広げられた数多(あまた)の葛藤は、この時苛立ちへと変換されたのだ。


「……どうして……どうしてあんたは、自分の気持ちを真っ直ぐぶつけてくるの!!?」


それは彼女にとっても突然訪れた動悸(どうき)だった。

体内で血潮が沸騰し、思考は徐々に感情任せになる。

単調となった思考に冷静さを取り戻すほどの順応性はなく、ラピスの眼光は鋭さを増して行った。


「────ッ!??お、ねえ、ちゃん……?」


未だ上手く状況が飲み込めていないラズリは、諧謔(かいぎゃく)の笑みを浮かべる余裕すらなく、唖然とした心の在り様でいた。


「自分より優れている妹から期待される姉って何!?矛盾もいいところよ!!」


「……ち、違うよ。私は本気で────」


「それよ!!あんたがそれを本心で語っているのが余計(たち)が悪いんじゃない!!」


「…………」


心底に埋葬された積怨(せきねん)咆哮(ほうこう)となってラズリに浴びさせられる。

ラピスからの猛攻に彼女は口を固く結んだ。


少なくとも、こうして(わだかま)りを交わす以前から、お互い気付いている節はあったのだろう。


「────はぁ、私ちょっと外に出てくる」


譜面を握り締め、ラピスはそのまま部屋を出て行こうとした。

だが、そんな横を通り過ぎる彼女の手をラズリは反射的に掴んだ。


「待って!!私、今日はお姉ちゃんに伝えたいことが────」


今までにないほど姉の手を力強く握る。

そして、ラズリは勢い任せに何か思いを口にしようとした。


しかし、今度は実に間の悪いタイミングで部屋をノックする音が鳴り響いた。


「ラピス様、リハーサルの準備が整いましたので準備の方をお願いします」


ドアの向こう側から聞こえるのは、ラピスを呼ぶ女性スタッフの声。

途端にラズリの熱は急激に冷却され、ラピスの手を握る力もなくなっていた。

手を握られている感覚がなくなったラピスは、そのまま妹の掴む手を振り解き部屋を後にした。



 ◆◆◆ NEXT ◆◆◆



観客のいないホールにピアノの音色が鳴り響く。

ワンフレーズを弾き終えても拍手が起こるはずのない当たり前の情景。

しかし、空席と静寂だけが並ぶ会場内でリハーサルをするラピスの瞳は、惚気(のろけ)笑う大人たちの幻影を捉えていた。


緊張と不安が見せる幻────

ラピスは額に浮かぶ汗をそっと拭った。


その後スタッフが彼女のもとへと駆け寄り、一連の流れをお(さら)いする。

打ち合わせを終えたスタッフはラピスに一礼を済ませると、急ぎ足でホールを後にし、次の演奏者を呼びに向かう。


リハーサルを終えた彼女はそっと鍵盤蓋を下げ、ピアノを綺麗に整えていた。


そんな折、彼女の背後である舞台袖の影から称えるような拍手が送られた。

唐突な演出にラピスも一瞬身を震わせた。

そして、舞台袖の影より人影が形を帯びる。


「さっすがだね、ラピスさん」


その甲高い声にラピスは心当たりがあった。


「……まだ私に何か御用ですか、メルさん」


ロスタイム家令嬢────

強気な赤髪にその幼体からは身に包むドレス姿がませて見える、ロスタイム・ハーマリオン=ミーメルがラピスと相対する。

当然ながらメルの傍には、衣装ドレスを着た三津(みつ)双葉(ふたば)の姿もあった。


虫の居所の悪さも相俟(あいま)ってラピスは眉間に(しわ)を寄せ、警戒心を剥き出しにしているのに対し、メルは相変わらず不敵で隙のない演技で微笑を浮かべ、優雅に立ち振舞う。

そんな行き詰った空気の中、先に口を開いたのはメルの方だった。


「本番前に一つだけ謝っておこうと思って……」


切り出すメルの発言には皆目見当も付かず、ラピスは依然として警戒心を解くことはなかった。

だが、徐々にメルの表情から勝気な態度が粛清されて行く。

そして、彼女は深々とラピスに向かって頭を垂れた。


「さっきはあんな態度を取ってごめんなさい。少しだけ、悪乗りが過ぎたと反省しています」


「ごめんなさい」


メルに(なら)い、後ろの二人も深々と頭を垂れる。


「えっ……あ、いや、いいですよ別に。気にしてませんから」


突然の展開にラピスの思考は戸惑いを見せる。

引き()った笑みに身振り手振りを加え、彼女はその場の空気に流され嘘を口にした。


彼女に指摘されゆっくりと頭を上げるメルは、その童顔な容姿から溢れる可愛らしい小悪魔な笑みを浮かべていた。


「それで!ラピスさんに一つお願いがあるのですが、一緒に写真を撮って貰えませんか?」


「はい、いいですけど……」


「わーい、やった」


そこには無邪気な笑みではしゃぐ赤髪の少女の面影があった。

だがそれは、決して会場前で見せた彼女の一面が焼却された訳ではない。


慢心に浸り人を(さげす)む一面も、年宛(としさなが)らの無邪気な一面も────

全て(・・)ハーマリオン=ミーメルなのだと心底思い知ることになる。


“一緒に写真を撮ろう”と(のたま)った彼女の行動には食い違いがあった。


ラピスはそのままステージ上に残ると、メルは階段を下り一人観客席側へと歩を進める。

彼女の行動に誘発され、ラピスも観客席側に向かおうとすると、メルは観客席側から手に持つスマートフォンを構えた。

すると、少し戸惑うラピスの両側にメルの傍付きである三津と双葉が背後から並んだ。


”如何やら、一緒に写真を撮りたいのはメルではなく、彼女たちだったのだ”とラピスは認識した。

しかし、隣に並ぶ二人はラピスよりやや後ろに揃えて立ち、妙にもの静かで騒ぐ様子もない。


スマートフォンを構えるメルの指示により、3人はステージの先端中央に並ぶ。


「はーい、行きますよ。3・2・1────」


メルがシャッターを切るまでのカウントダウンを数え始める。

だが、そのカウントダウンが迫るにつれ、ラピスは妙な胸騒ぎがしていた。

そして、彼女の胸騒ぎは最悪な運命を引き寄せる────


「ふふ────」


カウントダウンがゼロになる直前、メルの口元が不敵な笑みを浮かべた。

その瞬間をラピスは逃さなかった。


彼女の眼にその笑みが焼き付くと全身が総毛立った。

だが、その冴え渡る勘も(・・・・・・・・)不透明な予測として(・・・・・・・・・)完結してしまった時点(・・・・・・・・・・)で手遅れだった(・・・・・・・)


「────────えっ?」


身体に張り巡らされた神経を通して衝撃が走る。

それは心理的な意味合いよりも、物理的意味合いの方が正解に近い。


撮影場所はステージの先端。

見下ろした先には観客席側の床が数メートルほどの高低差の先にある。


思考が停止していた時間はコンマ数秒────


気が付くとラピスは、足場のない空中(・・・・・・・)へと放り出されていた。


目視するまでもなく、背後に立った二人の少女に押し出されたのだと思考は経緯を整理する。

だが、そこから打開策まで結び付けるには余りにも時間が足りなかった。


思わずラピスは言葉を失う。

人間性を疑う。

自分の運命を呪う。


そして、彼女の身体は容赦なく床へと叩き付けられた────


「ぐうぅ────!!!!!」


苦痛の波がのたうち回る。

だが、耐えられる痛み故、彼女はゆっくりと立ち上がろうとした。

しかし、起き上がろうと床に手を付けた途端、全身の痛みとは別格の痛みが右手首に走った。


「!!!!!!!!!」


閉ざされた思考の中で生存本能だけが働き、ラピスは反射的に受け身を取ろうとした。

しかし、彼女の華奢な細腕一本では全身の体重を支えることはできず、彼女の右腕は()し掛かる全荷重を負担する羽目になってしまったのだ。


幸いなことに折れるまでには至らず、(ひね)る程度に留まったが、それでもこの後に控えるコンクールへの支障は絶大だった。


「ごめんね、ラピスさん。念には念を入れておこうと思って……」


悪辣(あくらつ)な笑みと高飛車な態度を憑依(ひょうい)させたメルが、ラピスの前で勝ち誇ったかのように仁王立ちをして見せる。


「それじゃあ、ごきげんようラピスさん……あ、そうだ。もし、私にやられたって言いふらした場合、その時は私も皆さんに言いふらしちゃうから。ラピスさんが────異能力者(インスレクター)だってこと。くふ」


「────ッ!!?」


その一言にラピスの背筋は凍った。

その脅迫が何を意味するのかを彼女は明確に知り過ぎてしまったが故だった。

ここまでこの小説を読んで下さりありがとうございます。

まだ作品としては今後もストーリー展開して行くわけですが、それにあたり1つお知らせがあります。


今一度自分でもこの小説を読み直して欠落しているところ、今後考えてるストーリーとの矛盾点等がいくつか見受けられました。

それを知ってしまって以降、どうしてもそちらの修正箇所の方が気になって先の話を書く手が度々止まってしまいます。


そのため、私もしばらく考えた結果、この作品は一旦打ち切りにします。

今後この作品が更新されることはありません


その代わり、この作品のリメイク版を新規で一から投稿しようと考えています。(←えっ、またかよw)

リメイク版の投稿は早くて来年の4月〜6月中を見込んでいます。

しばらくはこの作品も残しておきますが、リメイク版の投稿と同時にこちらは削除します。


誠に作者の勝手で、読者の皆様にはご迷惑をお掛けすると共に、ご理解のほどよろしくお願いします。

また、実に烏滸がましい考えではありますが、リメイク版を投稿した際には、また読みに来て下さくると嬉しいです。


以上です。長文失礼しましたm(_ _)m

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