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肥えた豚共の集まりなんです……

確かな歩みを持ってラピスが会場に向かって駆け出して行く。


その一方で、遠ざかる彼女の背中を見詰めていた斬鵺(きりや)たちの間では、不安や緊張、切なさが空気伝染していた。

ラピスに心配は掛けまいと気を張っていた彼らも、張り詰めた空気に押し負けた。


「う~ラピスちゃん大丈夫かな?なんか、私の方が緊張してきちゃったよ~」


「気持ちは分かるけど、俺ら一般人は参加できねぇーし……」


星蘭(せいら)が不安の眼差しで訴えて来る。

だが、斬鵺は自分たちの身分を俎上(そじょう)に乗せ、現実を言及する。


今回のピアノのコンクールは、()くまでセレブたちの交流の場で(もよお)される企画の一つであり、一般人が参加できる領域ではない。

そのことを彼らは重々承知していた。


“身分の差”という絶対的な壁────

異次元的な特殊能力を有する異能力者たちの集まりであっても、覆すことのできない価値(ステータス)

それこそが、彼らの心に緊張や不安を誘発させる要因の一つだった。


だが────


「いえ、参加できますよ」


そう言い放ったのは、ラピスの専属メイドであるマリンだった。

彼女は別段()(つくろ)った表情をすることもなく、その経緯(いきさつ)は何気ない一言のつもりだった。

だが、彼女の言葉を耳にした斬鵺たちは、一瞬思考を停止させる。


「えっ!?」


彼女の発言の内容を理解した者は、瞬きを繰り返しながら間延びした声を漏らす。

────しかしながら、この反応は必然とも言えるだろう。

()すれば、この後の彼らの反応も容易に想像が付く。


「できるの────!!?」


会場の入り口前で怒濤(どとう)の総ツッコミ────

敷地内で話し込むセレブたちの冷徹な視線を、彼らは一心に浴びることになる。


「…………」


冷静に聞く耳を持ったところでマリンからの説明がなされた。


「はい。確かに表向きは“一般人の参加は厳禁”などとされていますが、それは飽くまで大規模なマスコミを内に入れないための口実────その場に適した衣装を着ていれば何の問題もありません。現に先程、ミーメル嬢のお傍に居たお二人は、一般の方のようですし……」


「そんなので、警備とかは大丈夫なんですか?」


弥鶴(みつる)の指摘は、至極当然とも言える一般的な回答だ。

招かれたセレブと招かれざる客である一般人との区別を、来場時の着飾った衣装によって判断するなど、余りにも杜撰(ずさん)過ぎる話だ。

だが、そんな杜撰さを指摘す(・・・・・・・・・・)る以前(・・・)に、彼の視点そのものがマリンには失言に思えた。


「……おかしなことを聞きますね?どうしてわざわざ(・・・・・・・・)他の方のために警備が(・・・・・・・・・・)必要なんですか(・・・・・・・)?」


「ッ!?」


マリンからの指摘は、弥鶴の想像の枠を超えていた。

珍しく彼が不意を()かれたような表情を見せる。


それは、住む世界の境界に生まれる“価値観“という名の摩擦だ────


「……何か勘違いをされているようですが、今回の集まりは、ただの交流関係を築くための場なんかではありませんよ」


語り始めたマリンの声色が冷徹さを帯びる。

表情は人形のように無で在りながら、(たぎ)る感情は決して穏やかではなかった。


「“自分の企業がより優れている”と一方的な主張を押し付け、口先では謙遜(けんそん)を吐きながら見えないところで互いに足を蹴り合っている。だから、例え殺人事件が起きたとしても自分さえ生き残っていればそれでいいんです。高いお金を叩いて警備部隊を配置させるなどのボランティア精神なんてものも持ち合わせていません。会場でミスをしても“頑張れ”なんて慈悲は送られません。皆、ほくそ笑むばかりで、その不幸を甘い蜜だと喜び、手に持つワインと共に召し上がるのが大好きな、肥えた豚共の集まりなんです……」


「────」


マリンの瞳はまるで、無力な家畜を(さげす)むような、暗く濁った眼差しをしていた。

彼女の語り聞かせる声色に斬鵺たちは全身が総毛立つ。


「はぁ……当然のことながら私も今回の話は反対でした。ですが、ああ見えてお嬢様は非常に頑固ですので────“そんな堅物共を自分の演奏で魅了できれば、きっと旦那様も認めてくれる────”あの方は、それだけ必死なんです……」


そっと(まぶた)を閉じてマリンは何かの余韻に浸るように(たたず)む。

その心象は、風に溶け込んだかのように周囲の青葉を舞い上がらせる。


木々のざわめきが鳴り止むと、再び静寂が帰還する。

だが、そんな一時の静寂を切り捨てるように弥鶴が啖呵(たんか)を切った。


「マリンさん、ちょっと頼みがあるんだけど」


「はい、なんでしょうか?」


「あの別荘にパーティー用の衣装って……」


「ええ、勿論取り揃えてありますよ」


弥鶴の口頼みを見透かしたマリンは、彼の言葉を待たずに(さえぎ)り、最速の解を提示する。


「よし、決まりだな。俺たちもパーティーに参加しようぜ。いいだろ涼風(すずか)


弥鶴が片手で拳を作り、先走って騒ぎ立てる。

だが、そんな彼を寮長の涼風は止めようとはしなかった。


「そうね。私も黒崎さんの演奏を聴いてみたいし……」


「はいはーい、私も私も」


涼風に便乗する形で星蘭も口を揃える。


「では、戻り次第すぐに試着に移りましょうか」


「やった~、私ドレスとか着るの初めて!!」


マリンの提案により、斬鵺たちは直ぐ様別荘に戻ることとなった。

再び弥鶴の異能で飛ぶため、彼の周りに皆寄って(たか)る。

その場の空気は、先程の不安視する(よど)んだものではなく、何処か浮足立ったものへと摩り替っていた。


そんな一変した空気に、マリンは緩んだネクタイを締めるかのような一言を放った。


「ですが、一つお願いがあります」


やや声を張り上げて告げたマリンの一言に彼らは意識を向けた。


「お願い?」


「はい……もし会場内で騒動があったとしても、冷静さを欠いて惨めな醜態(しゅうたい)を晒すことだけは辞めて下さい。お嬢様の────()いては黒崎家の面子を潰す事態に発展し兼ねませんので」


「……わ、分かりました」


緩んだ空気は、冷徹な殺気に満ちたマリンの眼によって粛清された。

ここ最近は、とあるノベルゲーのシナリオの書き方を参考にしています。

あまり小説向きな書き方ではないかもしれませんねw

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