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私が2階に上がるまで耳を塞いでて!!

異能力者の間では、暗黙のルールが存在する。


それは、決して自分が異能力者であるということを他人に明かしてはならないことだ。

“口は禍の元”という言葉があるように、自らの口が()いた種が(やが)て茨となり、自らの居場所を喰い殺す羽目になるからだ。


だが、そのルールも知らずに口を割ってしまったのが斬鵺(きりや)()の人であるが、彼のようなケースは極稀である。

それだけ、今のこの世界において異能力者達の居場所は息を潜めて生活するほど窮屈なものなのだ。


また、それに伴う法律も存在する。


それは、異能力者同士でグループや組織を形成することを禁止するというものだ。

異能力者はその身一つで軍隊の持つ兵器一つに匹敵すると仮定し、それらが集中し、勢力拡大に繋がることを恐れての規律。


だが、その点で行けば今のTERCES(仮)(ティラシス)の行いは明らかに法に触れるものである。

だが、それでも彼らの目的は異能力者の保護を目的としている。

同類の苦悩は同類しか理解することができず、傷もまた同類にしか癒すことのできないと彼らは知っているからだ。

しかし、それはただの戯言であると言い包められる危険性の方が高い。


そのため、彼らはあまり人目に付かない場所で暮らしているのだ。


こういった経緯から斬鵺に任された仕事も異能力者を保護する一環として行われるものである。


天宮城(うぶしろ)君、何か質問あるかしら?」


パグカップに注いだコーヒーを飲み終えた涼風(すずか)が再度斬鵺に確認を促す。


「大丈夫だと思います」


「そう。待ち合わせ場所は書類に書いてあるように5時に海城駅だから、遅れないようにお願いね」


「分かりました」


二人の確認項目に全てチェックが入った。


涼風は使い終わった自分のマグカップを水洗いでよく(ゆす)いだ。


「そういえば涼風、さっき階段降りてくる時凄い音がしてたぞ。あれじゃあ階段が可哀そうだよ」


重ねて告げるが、口は禍の元────

電話に出なかったことに対する(ひが)みからか、弥鶴(みつる)は挑発的な口調で涼風を(あお)り、その挑発に彼女は洗い終えたマグカップを水切り籠に置く手前で動きを止めた。


「だから、もう少しダイエットした方が……」


弥鶴が最後まで言い切る直前、ダイニングに空気の波が白波を立てるかのように(うね)った刹那────

ダイニングの4枚窓の内1枚の窓ガラスが破裂音と共に粉砕され、ガラスの破片が庭へと飛び散った。

その一瞬の出来事にその場に居合わせた斬鵺は、息を殺し微動だにすら(はばから)れた。

台所から強い殺気が立ち込め、斬鵺の皮膚には思わず鳥肌が浮き出た。


そして、割れたガラスの方向には弥鶴が意気揚々と座っていたが、彼の姿はそこにはなく、少し視線は横に逸れ、何故かまだ割れていない他の(・・・・・・・・・・)窓ガラスの前(・・・・・・)に彼は立っていた。


「そう怒るなよ、冗談だから、な……」


そんな弥鶴の説得も殺気立つ彼女のもとに届くことはなく、間髪入れず再び空気の振動が肌を伝う。


そして、今度は残る3枚の窓ガラス全てが破片となって庭へと飛び散った────

同時にその強過ぎる烈風に弥鶴の頬は細い傷口を残す。


頬を伝う痛みを受け入れた弥鶴の表情は、笑いを浮かべながらも顔色が徐々に青く変色し始めた。

彼は、笑って誤魔化せる状況でないことを確認すると、次第に身の危険信号を示す汗が溢れ出した。


「今度は“転移”で移動できなかったようね」


まるで吹雪の中にいるかのような寒気を覚える冷徹な一句────

当事者ではない斬鵺も恐怖心を抑えることはできなった。


「待て、待て、これ以上異能は使うな!!ただでさえ建物が古いんだから……」


欠相を欠いた弥鶴は、自分で蒔い種である自覚のもと必死になって怒り心頭の涼風の説得を試みた。


「……そうね、これ以上は寮の貯金を圧迫することにもなるし…」


その一言に弥鶴は大きく安堵の溜め息をつき、今まで息をすることすら忘れていた斬鵺は、張り詰めていた緊張の糸からは解放され大きく息を吸った。


 ただし────


再び空気を圧迫するような声が響き渡る。

反射的に弥鶴の他、斬鵺も思わず身構える。


「後片付けはお願いね。まさか文句は言わないわよね」


(さげす)むような冷徹な瞳に感情のない無表情な顔立ちは正しく女帝の風格。


「全力でやらせて頂きます」


従順な犬が飼い主に吠えるかのように弥鶴は敬礼の仕草までして彼女にやる気をアピールした。


「はあ、じゃあ後はお願いね、私は少しベッドで横になるわ」


そう言って疲労度がピークを迎えた涼風は、少しふらつく足取りでダイニングを去ろうとした。

そして、ダイニングから廊下に敷居を(また)いで涼風が足を踏み出すと、再び廊下の床が悲鳴を上げる。

その一歩を踏み出したところで涼風は一度足を止め、一瞬の静寂な間が生まれた。


「……………さいでて…」


「えっ?」


細々と呟く涼風の言葉を聞き取ることの出来なかった二人は同じ反応を示す。


「だから!私が2階に上がるまで耳を塞いでて!!」


「は、はい……」


普段の冷静且つ清楚な姿勢をかなぐり捨て、羞恥心剥き出し状態の涼風は、頬と耳を朱色に染め、先程の冷徹な叱りではなく、幼子のように口先を(とが)らし頬を膨らませた愛らしい容姿で怒りを(あら)わにした。

タイトル長いので、勝手に略称で「ふだんまし」って呼んじゃってますw

みなさんもご自由に呼んで下さい

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