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俺には止める権限はないな

「いえ、全然。先輩もピアノ弾けるんですね」


ラピスは小さな拍手を送りながら感傷に浸る。


「姉貴の見様見真似だけどな。取り敢えず姉貴がしてきたことは全部やったけど、全部完敗だったな」


「へー、そうなんです────ッ!!」


ラピスはベッドから出ようと一度掛け布団を退けた。

だがその瞬間、彼女は唐突に口を結ぶ。

暗がりの部屋に淡いオレンジ色のランプが灯り、視界の開けた今、彼女は一度自分の有り様を見詰め直す。


全身ピンク色の寝巻姿に、シュシュが外れ無造作に跳ねた金色の髪────


「────はぅ!?」


言葉にならない小さな悲鳴を上げ、一瞬にしてラピスの頬が赤く染まる。

そして、直ぐ様彼女はベッドの上で体育座りをして身を(かが)め、弾けた髪を両手で押さえ付ける。


「せ、先輩!!」


「ん?」


「わ、わ、私…も、も、もしかして今日一日この格好でしたか?」


「うん、そうだよ」


「────(絶句)」


(やらかした────)


弥鶴からの迷いのない即答にラピスは絶句する。

その本能は、”今にも塵となってこの場から消滅したい”という願望に駆られた。


ラピスの頭を後悔や羞恥心なるものが支配する。

必死になって赤く染まった頬を無言で隠しながら、彼女は遂に現実逃避を始める。


エゴが許容される妄想の世界で沈黙の末、ラピスは一つの仮説を打ち立てた。


「あの、一つお聞きしたいんですけれど……先輩やマリンが私をこの格好に着替えさせたりという説は?」


「────ふふ、さーて、どうかなぁ?」


両手を交差させて二の腕を掴み、在りもしない胸元を宝のように隠す仕草を見せながら、恐る恐る尋ねるラピスを見て、弥鶴(みつる)は悪戯にも茶を濁した返答をする。


「はぁ~なんだ、それなら……」


(いや、よくない!全然よくない!!(むし)ろ悪化してる!!!それなら私、先輩に下着を見られてることになっちゃうじゃない!?いや、落ち着け私……そうよ、まだマリンという説が残っているじゃない ・ ・ ・ で、結局どれが正解なのよ!?私は今日一日パジャマのままだったの、ままじゃないの?先輩に見られちゃったの、見れられてないの、どっち、どっちなんですか神様!!!)


「うぅ────」


策士策に溺れる────

ラピスは自問自答を繰り返すが、徐々に自滅の一途を辿っているということは言うまでもない。


そんな乙女心全開のラピスに弥鶴はくすっと笑いながら声を掛ける。


「あの~お取込み中なところいいかな、ラピスちゃん?」


「はひ…な、なんでしょうか!?」


突然の弥鶴からの呼び出しにラピスは口が回らず裏返る。

さらには自分の自尊心までも傷付ける。

だが、そんな彼女に弥鶴は真剣な眼差しを向けた。


「どうしてラピスちゃんは、今度のコンクールに参加するの?」


「────ッ!!そ、それは……」


唐突にラピスは現実に引き戻される。

知恵熱で火照った体は急激に冷え、淡い乙女思考も自然消滅する。


「話を聞く限りじゃ、どうも強制って訳じゃなさそうだし、そんなに指を痛めてでも無理に参加する必要もないと思うけど」


「────」


非の打ち所のない弥鶴の冷静な分析にラピスは沈黙するしかなかった。

隙のない眉唾(まゆつば)な笑みと鋭い眼球が目前に立ち塞がる。


語るに差し当たり、素直な心情と自尊心を守るエゴが葛藤を始める。

だが、既に自分の弱さを朦朧(もうろう)とする意識の中で弥鶴に語ってしまった時点で、ラピスにとっては後の祭りだった。


「……今度のコンクールには、妹も参加するんです」


始めは弥鶴の目を見詰める自信はなく、それでもラピスはゆっくりと閉ざされた口を開いた。


「これは、私が自分に課した試練です。最高の舞台で私は最高の結果を残す────そして、私は今度こそ、下剋上を果たしてみせる、と!」


語る口は次第に饒舌(じょうぜつ)さを帯、活気付く────

結び目にはラピスも弥鶴の瞳を確かに見据え、その真剣さを訴える。


「そっか。そこまで強気に出られちゃ俺には止める権限はないな」


弥鶴は観念した様子でポケットに手を忍ばせ、ラピスの部屋を出て行こうとする。

そして、背中を向けたまま、彼はカッコつけの台詞を言い残す。


「でも、また何か吐き出したいことがあれば、また俺をここに呼んでくれ。神父みたいに助言はできないが、聞くことくらいなら俺にもできるからさ」


「────あ、ありがとうございます、先輩!」


弥鶴の背中が今のラピスには、これまで以上に頼もしく見えた。


最後の捨て台詞を言い終えた弥鶴は、お得意の”転移(いのう)”を使ってその場から退散する。


弥鶴が消え一人きりになったラピスは、腰を下ろしていたベッドから離れ、グランドピアノのもとへと足を運ぶ。

そして、彼女はそっと鍵盤に指を置き、夜の森へクラシックのメロディーを捧げた。

やばい、書き貯めがあと僅か……

どうしよう・・・

ちゃんと続きを書きましょうね(自問自答)

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