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その朝食俺が持って行くよ

 ◆◆◆ NEXT ◆◆◆



「パパ、ママ、見て見て!!私、お姉ちゃんより上なんだよ」


「よく頑張ったわね、偉い偉い」


ラピスに似た金色の髪をした幼い少女は、手に抱える金のトロフィー(・・・・・・・)と賞状を抱き、照明の照り付けるステージから誰もいなくなった観客席へ駆ける。

そして、そこで父や母だと(した)う人物に勢いよく抱き付いた。


その光景を銀のトロフィー(・・・・・・・)と賞状を抱く幼い姿のラピスは遠くから眺めていた。

すると、そんな隠れている彼女に父親らしき人物が気付く。

不意に目線だけが合うと、幼い姿のラピスは恐怖心を抱き萎縮(いしゅく)した。


革靴の足音を響かせ、ステージ場に残るラピスのもとに父親らしき人影が迫り来る。

彼女の目の前で足を止めた時には、照明で顔は完全に影で覆われていた。

そして、表情すら読み取れない顔付きのまま男は口を開いた。


「妹にも劣るとは姉として情けないな。お前は私の後継者としては相応しくない。これ以上私を落胆させるのであれば、今すぐこの家から出て行け!!」


その影の口から発せられた辛辣な一言に、ラピスは腕に抱き抱える銀のトロフィーを強く握り締めた。


彼女自身、今の心境をどう表現したらいいのか分からない────

確かに何処かが痛む────

だが、その凶器は酷く曖昧なものだった。


ナイフで心臓を一突きにされたような痛み────

底なし沼に落とされたような恐怖────

スクラップ置き場に捨てられた人形の孤独────


言えることはただ一つ────

その影の一言は、ラピスの心に大きなトラウマを(はら)ませてしまったのだという事実だ。


「はっ────!!!!!?」


そうしてラピスは恐怖に耐え切れず、呼吸を乱して夢の中から目覚める。

今彼女が見ていたものは、彼女の胸の内に刻まれたトラウマから来る心象風景────


幾度か瞬きを繰り返しては深呼吸をして呼吸を整える。


ラピスは、漆黒のグランドピアノが置かれたウッドハウスで寝泊まりをしていた。

そして、今彼女はそのグランドピアノの鍵盤に指を添え、座った状態で寝入ってしまったのだと振り替える。


寝不足を思わせるクマが目元に発現していたが、それでも彼女は練習を再開しようとした。

ところが、彼女の指は痙攣(けいれん)を起こしていた。

過度の練習に加え、先程のトラウマを呼び起こす悪夢が彼女の指を封じる。


ラピスはもう、歯を食いしばる気力すら薄れていた────



 ◆◆◆ NEXT ◆◆◆



楽しいゴールデンウィークは翌日になってもまだ続く。

そんな気分で今日を迎える人間が大多数を占めるだろう。


だが、ラピスの別荘を訪れているTERCES(仮)(ティラシス)のメンバーはそんな浮足立った気分ではいられなかった。

昨夜聞かされたラピスの事情を聴けば、部外者と言えど身が強張るというものだ。


「おはようございま~す」


寝癖の酷い髪を晒して斬鵺(きりや)が1階のフロアに降り立つ。

そして、まずは朝食を済ませようとする。


斬鵺が朝食に在り付ける頃には、既にメンバーの殆どが椅子に腰を下ろして朝食を口にしていた。

だが、朝から何処か空気が重かった。


それは、昨夜のラピスの話が尾を引いているというよりも、朝食の場にラピスの姿(・・・・・・・・・・)が見当たらない(・・・・・・・)ことの方が要因であった。


「おはようございます、斬鵺さん」


軽快な挨拶と共にメイドのマリンは斬鵺の朝食を配膳する。

配膳し終えたマリンは、一礼をしてその場から立ち去ろうとすると、ラピスの席が空席であることに気付いた。


「ん?変ですね、まだお嬢様の姿が見当たらないなんて……」


不安視する眼差しでマリンはラピスの空席を見詰めていた。


「すみません、私ちょっとお嬢様に朝食を届けてきますね。恐らくウッドハウスにいらっしゃるでしょうから」


そう言ってマリンは、エプロンの紐を解いて調理場で食卓カバーに包まれた皿を手に取る。

すると、その様子を見かけた弥鶴(みつる)が突然席を立った。


「マリンさん、その朝食俺が持って行くよ」


「えっ!?」


完全に不意を衝かれたマリンは、少し驚いた様子を見せる。


「で、ですが……」


「大丈夫、大丈夫。場所も分かるから」


そう言って弥鶴はマリンから強引に皿を取り上げ、別荘を抜け出す。

その様子をTERCES(仮)(ティラシス)のメンバーはそっと見守っていた。


「斬鵺さん……」


ふと斬鵺を呼ぶ声が彼の隣から聞こえて来る。

それは、ここに来てから余り口数の多くない兎雪(とゆき)からのものだった。


「大丈夫でしょうか、ラピスさん…」


「……今は弥鶴さんに任せるしかないな」


斬鵺はあるがままの事実を伝えることしかできなかった。

だが、それでも弥鶴とラピスを信じていることに変わりはなかった。



 ◆◆◆ NEXT ◆◆◆



相変わらず弥鶴の異能“転移”は便利なものだった。

扱いこそ難しいものの扱えてしまえればこれほど便利なものはなかった。


朝食の乗った皿を片手に、弥鶴は昨日訪れた森の中にあるウッドハウスへと降り立つ。


「ラピスちゃん、起きてる?」


弥鶴は三度戸を小突きノックをする。

今日は中からピアノの音が聴こえて来ない────


しばらくしても物音一つしないウッドハウス。

弥鶴は仕方なく返答を待たずに戸の取っ手を掴んで回した。

驚くことに鍵は掛かっておらず、彼はそのまま中へと侵入する。

そして、彼は一つ絶句────


部屋の片隅に配置されたベッドの上────

カーテンで閉め切られ朝日も(ろく)に入らない暗がりの部屋の中、壁に寄り掛かるようにしてラピスは体育座りをしていた。


「…………」


弥鶴が入って来ても別段驚くような反応を示さず、ただ虚ろな瞳でラピスは彼を凝視するだけだった。

いつもはツインテールに結ぶ彼女の自慢の金髪も、今はアフターケアの跡もなく乱雑に下ろしていた。


「………せん……ぱい……?」


「ちょっと、ラピスちゃん!?」


弥鶴は手に持つ皿をテーブルの上に置くと、急いでラピスのもとへと駆け寄った。

夢の中って、ある意味異世界といいますか、、、日常系作品でも完全に現実味を帯びている必要性がないので、表現の幅が一時的に増えるような感じがして書いててちょっと楽しかったですwww(←個人的な感想)

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