つまりは代理戦争ってわけか
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今日とて日は沈む。
斬鵺たちは、豪華な屋根の下で優雅な夕食の時を過ごしていた。
1階フロアの一角に用意された3席のテーブルにそれぞれ、涼風と弥鶴、千冬とラピス、斬鵺と兎雪と星蘭の組ごとに分かれ席に着き食事に在り付けていた。
夕食の料理を振るうのもメイドのマリンだった。
「ん~このスープ、超美味しい。後でマリンさんに調理法教えて貰おうかな…」
「もし、“企業秘密だ”って言われたら?」
「部屋で押し倒しでも、弱みを握ってでも引き摺り出す!!」
「最低だなお前!」
斬鵺たちのテーブルでは賑やか話声が聞こえる。
一方、涼風と弥鶴のテーブルでは、上品に食を嗜む二人に思わず目移りを起こす。
既に二十歳を過ぎている二人の席にのみシャンパンが注がれたグラスが用意されており、高級レストランで食事を嗜む大人なカップルの雰囲気を二人は醸し出しながら食事を楽しんでいた。
そんな中────
「……ピスさん…ラピスさん!」
「────ッ!」
相席する千冬の掛け声にラピスは全く持って反応できていなかった。
また、食事にも殆ど手を着けていない状態。
「どこか具合が悪いんですか?」
「あっ、うんうん、全然全然」
ラピスの覚束無い返答に遠くから弥鶴も視線を向ける。
「……あと、その指は?」
「────ッ、これは、その……」
千冬に指摘されたラピスは咄嗟に両手をテーブルの下へと隠す。
千冬が指摘する彼女の両手の指は、テーピングだらけの状態だった。
ラピスの座る席を中心に不穏な空気は徐々に周囲へと伝染し、気が付けばTERCES(仮)メンバー全員がラピスに視線を向けている構図が完成していた。
「…………」
唇の甘噛みを繰り返しながらラピスは俯いたままの沈黙を続ける。
そんな彼女を見かねて合いの手が差し伸べられる。
「お嬢様、今日はもうお休みになられた方がよろしいかと……丁度浴槽に湯を張り終えたところですので」
マリンはそっと一礼と共にラピスに助言を口にする。
「そうね……うん、そうする。ごめんねマリン、気を使わせちゃって。みんなもごめんさない……それじゃあ……」
そう言ってラピスは静かに席を立ち、脱衣場へと足を運んだ。
そんな彼女の背中をマリンも含めTERCES(仮)のメンバー全員はそっと見詰めていた。
ラピスが姿を消したところで、空気はまた一変する。
「えっと、マリンさん?でいいかな?」
「はい?」
ラピス専属のメイドであるマリンとの距離感を測りながら弥鶴は彼女に対して口を開く。
一変した空気に乗って、周囲のメンバーも視線を二人へと向ける。
「ちょっと聞きたいんだけど、ラピスちゃんがこのゴールデンウィークに別荘を訪れたのは、ただのバカンスって訳じゃないんでしょ?」
「……それを私の口から申せと…」
「ラピスちゃんから聞き出すよりは難しくないと踏んでのことなんだけど……」
テーブルの上に片肘を立て、不敵な笑みを浮かべながら弥鶴はマリンからの反応を待った。
そんな彼を前にマリンは笑顔で振舞うことを辞め、眉間に皺を寄せて一睨み利かせる。
「はぁ……そうですね、今後無神経にお嬢様と接触されても困りますので、事情だけでしたらお伝えしておきましょう」
半ば観念した様子でマリンは口を開くことにした。
その口から語られる内容に、一同息を呑んで耳を澄ませる。
「このゴールデンウィークの最終日に、一流企業のセレブ達が集まる交流会があります。その交流会の催し物として、ピアノの演奏を行うコンクールの場が用意されており、お嬢様はそれに参加を希望し、練習のためこの別荘を訪れた次第です」
(なるほど、だからピアノを弾いていたのか…)
「ですが────」
マリンの口調はやや重さを増した。
「ただのコンクールではありません。コンクールの参加者は皆、お嬢様のように一流企業や大富豪の後継者揃い。対してそれを見守るのは、今を収め先を見据える勝ち組の集まり────ここまで言えば、あとは何が言いたのか分かりますね」
そう言って、マリンは強引に話を振る。
だが、彼女の読み通り弥鶴はその後の話を上手く汲み取って来た。
「なるほどねぇ……つまりは代理戦争ってわけか」
「ええ」
代理戦争────
戦争の当事者たちは手を汚すことなくその代理者に戦争を委ね、その結果を持って当事者たちの勝敗や優劣を定める手法。
実に的を射ている比喩だった。
つまりはこのコンクールの結果次第でラピスは、実の親に花を添えることもできれば、泥を塗ることにもなる────
正に吉と出るか凶と出るかの大博打に出向こうとしていることを物語っていた。
新しい年号が先日発表されましたね
心機一転の気持ちで頑張っていきますo(`^´*)




