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拳銃じゃあ落雷を撃ち落とせないでしょ

兎雪(とゆき)が店内に入って1時間が経過した頃────


「ありがとうございました」


兎雪が紙袋を手に店内から姿を見せる。

彼女はふと安堵の溜め息を()いた。

そして、直ぐ様周囲を見渡し斬鵺(きりや)の姿を探した。


「兎雪」


彼女の名前を呼び大勢の人混みを掻き分け斬鵺が兎雪の視界に姿を見せる。


「はあ、結構時間掛かったみたいだけど、大丈夫か?」


「うっ、わ、私、一人で下着とか買うの今回が初めてで、取り敢えず言われた通り店員さんに聞いてみましたら、“じゃあ、まずは採寸してみましょうか?”と言われ、それから色々……こんなことなら、寮長さんや星蘭(せいら)さん達が空いている日を選んで一緒に来て貰えばよかった……ああっ、別に兄さんとの買い物が退屈だったとか、そういう訳ではなくてですね……」


「…………」


「…………うっ」


兎雪は頬を朱色に染めながら積もった話をするも、最後は自分で墓穴を掘り二人の間に妙な沈黙が生まれる。


そんな時だった────


突然、通路の天井に埋め込まれたダウンライトの照明が途絶えた。


「えっ、停電!?」


周囲の人間も突然のことに眉間に(しわ)を寄せ狼狽(うろた)える。


斬鵺と兎雪は通路際まで駆け寄り、吹き抜け状態の空間から1階フロアと3階フロアの様子を伺うも、状況はまるで同じだった。


「2階だけじゃなく、建物全階で停電が起きてるみたいですね?」


「ああ」


(でも、地震が起きたわけでもないのにこんな大型のショッピングモールが停電することなんてあるのか?)


斬鵺は妙に胸がざわついていた。


「取り敢えず下の階に降りるぞ!」


「……ッ!!」


斬鵺は無我夢中で兎雪の手を取り走り出そうとする。

だが、その瞬間────


「きゃあぁぁぁぁ────」


ざわつく店内を一瞬で()てつかせるほどの黄色い断末魔の叫びが1階フロアから聞こえて来た。

その悲鳴に誰もが注目し、斬鵺たちも移動の足を止め、もう一度1階フロアを野次馬の中を掻い潜り覗き見る。


広い店内が視界に映り込む中、一か所だけ異質な空気に包まれる場所があった。


「たくっ、いきなり停電になって驚くのも分かるけどよ、人にぶつかっておいて謝らねぇのはどうかと思うぞ?」


(とが)った金髪の頭に学生服を身に羽織る男子学生が一人。

その彼の目の前で倒れ込む一人の男性。

そのすぐ近くにいるのは、幼い少女を必死に抱きながら(おび)えて座り込む女性。

そして、その異質さを物語るかのように一定の距離を保ちながら円型に群がる野次馬たち。


「パパ!パパ!!!」


「ダメ!!ジッとしてて!!」


地に座り込む女性は腕に抱く少女の母親であり、そして、金髪の男子学生の目の前で倒れ込む男性は、少女の父親という関係なのが推測させる。

幼い少女は今にも母親の腕を掻い潜り父親のもとに駆け寄ろうとするが、母親はそれを決して許さなかった。


「────ッ!」


母親はじっと金髪の少年を睨み付ける。


「ちっ……その眼だよ。その目が気に食わねぇんだよ!!どいつも、こいつも、みんな同じ眼で睨みやがって!1」


逆上する少年は白い歯を(きし)ませ、やや前屈みの状態となり、前髪で目元に黒い影が堕ちる。

そのままポケットに手を忍ばせ、座り込む母親と少女のもとへと歩み寄ろうとした。

すると、二人との距離僅か1メートル圏内に少年が足を踏み入れたところで、突然店内に銃声音が鳴り響いた。


「……ッ」


金髪の少年は視線を少女と母親の方から周囲を囲む野次馬たちの方へと向ける。

店内に残る一般人たちは騒めきを増していく中、野次馬の群れの中から銃を構えた警備員たちが開いた道の中から現れ少年を八方に囲む。


「大人しく手を挙げろ、この異能力者(インスレクター)め!」


金髪の少年は大人しく指示に従い両手を上げるも、その表情は不敵な笑みを(にじ)ませていた。


「はあ、相手が異能力者だと判断した瞬間、大人だろうが、子供だろうが、容赦なく銃口を向けるなんて、物騒な世の中になったと怯えるべきか、国の軍事力が上がっていると喜ぶべきか……」


「黙れ!店内を停電にし、挙句の果てに一般人にも手を出すような野蛮な異能力者(インスレクター)風情が…」


一人の警備員が言葉で威圧する。


「ふん、でもまあ軍事力は上がっていたとしても、学習能力は向上してねぇみたいだな────ッ!!」


「────ッ!!」


金髪の少年は慢心の笑みと共に皮肉を吐き捨てると、瞬き一つでその瞳を赤く塗り替えた。

そして、何の躊躇(ためら)いもなく彼はその異能を発動させる。


目で捉えていられる時間はコンマ数秒の世界────

そのごく僅かな時間の中で、彼の身体から淡い輝きを帯びた稲妻が弧を描く。

それを警備員たちが視認した瞬間には、既に彼の異能”雷電”により彼らの身体は射抜かれていた────


「うわぁぁぁ────!!!!」


8人居る警備員たち目掛け一斉に落雷が落とされる。

そして、彼らは一斉に倒れ込み、その後は白目を向いたまま体を微動させる。

死に至ったとは言えずとも、限りなくその状態に近い感電の状態に彼らはされてしまった。

そして、それは事の発端とも言える彼の目の前に倒れる男性も同様の状態だった。


「単純な話、拳銃じゃあ落雷を撃ち落とせないでしょ」


金髪の少年は勝ち誇った表情で饒舌(じょうぜつ)に物事を語る。

倒れ込む警備員たちの姿に1階フロアに密集する周囲の野次馬たちは絶句する。

それは2階フロアから様子を伺う斬鵺たちも同じことだった。

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