そういう意味じゃねぇ!!
円卓を囲む彼らが座る席は予め決まっている。
まずは、ここTERCES(仮)の201号室の住人にしてTERCES(仮)創設メンバーの一人でもあることから、今はここの寮長を務める篠宮涼風。
そこから時計回りに順を追い、2番目の席は、101号室の住人であり、涼風と同じTERCES(仮)創設メンバーの一人でもある澤留弥鶴。
その隣の3番目の席は空席となっているが、その席は本来、実在するTERCES(仮)創設メンバー最後の一人である百鬼絳雅が座る席である。
部屋番号は102号室。
彼は滅多にここを訪れることはないが、出会うことがあれば紹介する機会もあるだろう。
そして、4番目の席には、202号室の住人にして斬鵺の幼馴染み、雲雀星蘭が座る。
折り返しを迎える5番目の席には、203号室の住人で斬鵺の一つ下の後輩、黒崎・マリーネ・ラピスの席。
隣の6番目の席は、204号室の住人で寮内最年少の湖町千冬が座る。
7番目の席は2つ目の空席となるが、103号室の住人の桐ケ崎響夜。
彼は現在中学2年生と義務教育を終えていないにも関わらず、部屋から一歩も外に出ないニート。
彼の部屋には配線がいくつも巡り、液晶画面や電子端末も数多持ち合わせ、最適なネット環境を完備している。
残るメンバーも僅かになってきたところで、8番目の席に座るのは、104号室の住人にして、この寮内ではツッコミ担当に徹する社畜労働者、天宮城斬鵺。
そして最後に、今日新しくこの寮で住まうことになった205号室の住人、柳楽兎雪。
この席の順番は、この寮を訪れた早い者順に位置付けられ、現在この9人がここTERCES(仮)で暮らしている。
◆◆◆ NEXT ◆◆◆
皆揃いも揃って星蘭が作った鍋料理を美味しそうに口へ頬張る。
彼女の作る料理はどれも絶品であると、寮生満場一致の太鼓判付きである。
千冬に関しては鍋に手が届かないため、隣に座るラピスの異能“念力”により、お椀へよそって貰っている。
「柳楽さん、鍋まで届く?」
涼風が隣に座る兎雪に優しく問い掛ける。
「大丈夫です……」
兎雪は些か強がって見せた。
椅子から立ち上がり、鍋に浸るお玉に手が触れる。
しかし、鍋の中身が見えないため具材を上手く掬うことができない。
必死に手を伸ばすが既に体は伸び切っていた。
結局、隣に座る斬鵺によそって貰うことになった。
お椀によそられた具材は、メインとなる大きめのロールキャベツにネギや白菜、砕けた豆腐にあっさりとした味付けの汁が盛られている。
「それでは、いただきます」
兎雪は両手を合わせ会釈する。
始めに箸で掴んだのはロールキャベツ。
前に垂れる前髪を耳に掛けながら優しく吐息を掛け冷ます。
汁が零れないよう左手を添え、やや大きめのロールキャベツにその小さな口がかぶりつく。
「………ァツ!」
キャベツを割った中から汁が溢れ、その暑さに思わず声を漏らす。
「…………」
他のメンバーの視線は自然と兎雪に向けられていた。
兎雪は一度ロールキャベツを嚙み切り、残りをお椀へと戻すと、暫く目を瞑り良く味わってから喉を鳴らす。
「どう、だった?」
料理を手掛けた星蘭は兎雪からの感想を心待ちにしていた。
「はい、とっても美味しいです!このロールキャベツ。少し大きくて、口の中に汁が溢れて来て、全部飲んじゃいました」
「────ッ!?ブ────ゲホ、ゲホ」
兎雪は文字通り頬が落ちそうなほどに満面笑みで料理の感想を口にする。
その感想は、良心的な心の持ち主であれば至って棘のないシンプルなものだった。
だが、思春期全力投球生活を送る男子学生であれば話は別だ。
それは斬鵺の敏感な男子センサーを無意識に刺激した。
結果、コップに注がれた緑茶を口に含んでいた斬鵺は、徐にそれを床へと吐き出し噎せ返っていた。
「あれれ斬鵺さん、今何想像してたんですか?もしかして、口内し……」
「それ以上言うなぁ!!ていうか、アンタだってしっかり想像してるじゃないですか!!」
「ちょっと何言ってるか分かんないですね」
「なんでだ!!嘘つけ!!」
弥鶴の安い挑発にも斬鵺は勢いよく立ち上がり過剰に反応してしまった。
残された女子メンバーは、二人の会話の内容に察しが付いている者、付いていない者と様々だった。
「はいはい分かったから、きーちゃんも下ネタで興奮しないの……」
「……どうしてお前はいつもド直球のストレートばっかなんだよ、せめてオブラートか何かに包んで話してくれ!頼むから俺の羞恥心剥き出しにして刺激するのやめて!!」
「ん?ちょっと待ってて…………はい、台所にアルミホイールあったから……」
「そういう意味じゃねぇ!!」
落胆する斬鵺は無意識のうちにそのアルミホイールを受け取っていた。
弥鶴と星蘭という事斬鵺を掻き回すことに対しては鋭すぎるほどの切れ味を誇る二大刃。
斬鵺も必死に反抗の刃を研ぐが、結局のところ手に負えず、自分から折れる形が続いている。
ある意味、この寮内で無双する二人のツッコミ役に回ることで、その足枷ほどの役割は担えているのかもしれない。
「包むんだった自分の部屋かトイレでしろよ」
「そんな使い方しませんよ!!あんたの思考回路は血気盛んな男子高校生のままですか!!ていうか……あああ、もう、何からツッコんでいいのか分かんねぇ!!」
「はは、俺はお前みたいな愉快な後輩が持てて嬉しいよ」
「少しはいじられるこっちの身にもなって下さいよ!!」
こうして兎雪の歓迎会は、酷いことに男子二人の下ネタトークで間を繋ぐことになった。
この後も醜い言い争いは続く。
だが、この賑やかさこそ今のTERCES(仮)の在り方なのだと知って貰いたい。
血の繋がりも持たない赤の他人同士────
唯一の繋がりは、嫌悪感を抱く人の視線しか集めない赤く濁った瞳のみ────
それでも彼らは、家族のように輪を囲み日常と非日常が織成すこの世界の時間を楽しむだろう。
それこそが、彼の屍が望んだ片翼の世界だった────
小説において笑いでマウント取るって難しいですよね、、、