ボクはキミのその夢を叶えるだけだ
この作品は、現在リメイク版を作成中です。
時期になりましたら削除されますので、予めご理解下さい。
子供の頃の夢を覚えているだろうか。
子供の頃に願ったこと、祈ったことを実現させてしまう者の信念とは、計り知れないものがある。
子供は無知であるが故に希望を信じられ、無知であるが故に絶望を知らない。
これから語るのは幼き頃の刹那の夢を抱き、その先に地獄を見た者も断章────
その少年は自らの夢に絶望した────
彼は憧れた────
お伽の国の幻想に────
彼は願った────
魔法の世界を────
彼は絶望した────
己が夢見た世界に────
少年が生まれた世界は、酷く吐き気がするほどに平穏な世界だった。
だが、少年の願いにより世界に終末の鐘が鳴り響いた。
彼は殺した────
己が生き残るために何人もの命を踏み台とし、幾つもの骸をその瞳に焼き付けた────
彼は呪った────
魔術師になりたいと思った自分自身を────
世界を救うためでも滅ぼすためでもなく、彼は戦い続けた。
例え、死ぬことのない不死の肉体をその身に宿し、世界に取り残された最後の孤独を味わおうと────
大地は炎に包まれ、空には雷鳴が轟く。
体に刻まれた傷口からは血潮が滴れ、右足を引き摺りながら歩くその姿は、正に“生きる屍”と呼ぶ他なかった。
“最恐”と呼ばれた魔術師はそのまま地面へと倒れ込み、水面に映る虚ろな瞳をした己の素顔を眺める事しか出来なかった。
徐々に視界は狭まり光という概念が身から切り離されていく。
だが、彼には“死”という概念は存在しない。
それこそが、“最恐”と恐れられる由縁だった。
傷は負う。
万物が死と呼ぶ状態に限りなく近づく事もある。
だが、その生が燃え尽きることはない。
あらゆる魔術師が探求した“不老不死”という存在に彼はなってしまった。
これが愛する者を護れず、犠牲の末繋ぎ止められた命で生き延びてしまった呪いに他ならない。
体に痛みはなく、静かに風化していくのを肌に感じた。
そんな戦う意志も生きる意味も持たない虚ろに近づく気配があった。
その気配の正体は、彼の視線の先にある水面上に映り込み、彼の頬を舌で舐め始めた。
その感触は肌に伝われど、その姿は視界の焦点が定まらず、あやふやな影として彼の前に立っていた。
だが、暫くして彼の意志に目前の影の正体を知りたいという欲求が働く。
彼の脳は再び活動を始め、視界の焦点が次第に定まる。
そして、彼がその瞳で見たものとは、真っ白な毛並みに9本の尾────
宝石のように輝く赤い瞳を宿した一匹の“白い子狐”だった。
「気が付いたかい?……やれやれ、キミは不老不死なんだから、こんなところで倒れているなんて不思議じゃないのかい?」
その子狐は、軽薄な態度で彼に語り掛ける。
「でも、まぁ、キミが生きているということはいいことだ。でないと、この世界を維持するための鍵を失うことになるからね」
子狐の口から零れる言葉は理解に苦しむものばかりだった。
人類では理解し得ない代物。
未だに大地へ平伏し続ける彼は、子狐の言葉を他人事のように聞き流すだけだった。
「キミが望んだ魔法の世界はどうだったかい?面白かった?楽しかった?辛かった?悲しかった?」
子狐に表情はなく、不気味なまでの真顔でありながら、その声調はどこか愉快犯のようであった。
「まぁ、キミがこの世界にどのような感情を抱こうと、ボクには関係のないことさ。ボクはボクで計画を進めるだけだ。キミはいつか口にしたね、“──の世界でありたい”と。全く、人間とは欲深い生き物だと改めて思い知らされたけど、今は良しとしよう。ボクはキミのその夢を叶えるだけだ」
その言葉を口にすると、子狐は彼の体に触れた。
すると、彼の肉体は淡い光を帯び始める。
そして、この世界から秒針が刻む音は消え、静止した虚構が生まれた。
大地を覆っていた炎も、天の唸りを示す雷鳴も平等に静止の海へと投げ出された。
淡い光を纏う彼の肉体下からは、強大な魔法陣が構築されて行った。
それは波動のようにこの世界へと広がり、この世界を再構築した。
否────
正確に定義するならば、これは再構築ではなく世界の上書きだ。
一つの宇宙に対し、同次元上に存在する無数の世界。
白紙と化した世界は、今再び色を変え生まれ変わろうとしていた。
「キミの祈り確かに聞き届けたよ、”最恐の魔術師”。キミは生きたいように生きればいい。それだけで、ボクの計画は順当に運ぶからね。キミの描いた日常がそこにあることを祈っているよ」
子狐がそう言い残すと、天壌は眩い刹那の逆行に包まれた────
そして、世界は新たに再定義された────
繰り返すが、これは一つの断章に過ぎない。
再定義された世界で、最恐魔術師が見たものは希望か、絶望か────
姿も声も完全にキュウべいしか思い浮かべられないんですよねw