Glory Island Fly Trait 2
また夜が来てしまった。
「あの兄ちゃん、昔仲良かったのか??」
暗い部屋にて。
床に直接横になるのが常識。
布団を掛けながら横にいるクラの顔を見る。
「・・・・・まぁ・・な。」
「オレらと違って良い人だな。なんでお前家出したんだよ??」
「言いたくない。」
「返答はえーな。」
「・・・アイツも原因の1つって・・・本人も分かってないだろうな。」
「オレにはもう家族が居ないからな。」
「死んだんだっけ??」
「あぁ。12のときに殺された!オレだけたまたま生き残れた。」
「それでどう生き残った??」
「お前と同じだよ。食べ物とかを盗みまくった!」
「・・・・・。」
「良いな、兄ちゃん居てくれて。」
「血は繋がってねーよ。」
「オレらは“何をしてもうまくいかねーんだな”。」
「人生そういうものなら・・・オレは死にたい。」
二人とも一度目を閉じた。
「お前、ヘリコプターなんて古いの乗ってたのかよ。」
「・・・・・子供のときの夢だったんだよ。“あるか分からない地上の世界へ行くこと”が。」
「まぁ確かめに行くにはヘリコプターしかねーか。でもオレもヘリコプターは好きだったな。」
そっか。
と一言だけ。
それから眠りについてしまったのだ。
「!!?」
飛び起きたソラ。
何かに驚いたような起き上がり方。
ため息を一度して
天井を見る。
いつの間にかもう朝・・・
珍しくまだ皆が寝てるだろう時間帯に起きた。
時計を見ると
“あの日”と同じ時間帯に起きた。
隣に寝てるクラを起こさないようにそっと外へ出る。
外に出たのは久しぶり。
引きこもっていたから。
基本バイトでしか外に出ない。
バイトもバイトでいつもうまくいかない。
怒られムカつき殴ってしまい
クビ!!
ってことが殆ど。
それ以外やることがない。。。
やりたいことがない。
だから
人生もう飽きた!
朝日を浴びて眩しいと目を凝らしたとき。
誰のか分からないヘリコプターに目が入った。
誰か置きっぱなしにしたのだろう。
「・・・・・。」
何を思ったのか
一度家へ戻った。
しかしすぐに出てくる。
右手に何かを持って。
ラッキーなことにドア鍵があいてるので
勝手にそのヘリコプターの操縦席に乗り、
あちこちいじりまくった。
そしてエンジンをかけて
右手に持っていたゴーグルを装着し、
両手でハンドルを握った。
空を飛んだ。
空っぽになってしまった自分
空しい自分
そんな彼が空へ。
初めてこの下らない町の景色を見た。
下らなくても
感動を思い出してしまった自分もいた。
あの頃の自分は今よりは輝いていて
夢を持ち、
立派に前を向いていた。
何をやっても新しい経験みたいで嬉しくて
今じゃその新しい経験さえ嫌になった。
だって過去の方がやっぱり輝いていたから。
今はどうだろう。。。
ソラは嬉しそう。
これが味わえなくなっているこの時代も嫌いだ。。。
8年前と同じ。
着地失敗。
と言っても少しヘリコプターを傷付いてしまっただけだ。
誰のか知らないけどまぁいいやと。
そのままヘリコプターに背を向け去ろうとした。
「人のヘリコプターに乗っといてひどいことするわね。」
振り返ったら女性が一人立っていた。
ポンポンとヘリを手で叩きながら「あーぁ」と一言。
そしてこちらを睨む。
「アナタ操縦下手ね!下から見てたよ!」
「悪かったな!傷直す金も持ってねー。さよなら。」
「お金がないなら働くまでよ!」
「オレなんてどこも雇って」
「ウチで雇ってあげる!丁度男の子欲しかったの!」
「はぁ??」
「よし、さっそく働くよ♪」
「やだよ。」
「やじゃない!」
腕を掴まれ
連れていかれた場所は。。。
「く、組立??」
「そうだよ、ここはヘリコプターの組立をやってるんだ。オレもここでお世話になってるんだ!」
「でも最近はヘリコプターみんな乗らなくなってきてるからねー。売上げは下がってばかり。」
「ってなんでお前がここにいる?!」
そう、建物に着いたときには既にいたカイがこの女性と仲良く喋っていた。
ここは組立て工場。
ヘリコプターを1から組み立てるのだ。
周りに組立て途中のものや完成品など
いろいろ並べられていた。
どうやら女性はここで働いているらしい。
「ここで寝泊まりさせてもらってたんだ!ソラん家は汚いからやだし。」
「でも良かったね、お兄ちゃんがずっと探してた子はこの子でしょ??」
「お兄ちゃん??」
ソラは二人の顔を交互に見る。
言われてみれば・・・
「似てるだろ??だってオレたち兄妹だからな。」
「妹いるって知らなかったの??」
驚いていた。
てっきり一人っ子なのだとずっと思っていたから。。。
一人暮らしだったカイ、そういえばあの頃もお嫁さんの紹介しかなかった。
「ヘリの修理を頼んだらソラの情報を聞いてよ、まさかここからこんなに近いところだとは!」
「そんなことよりヘリコプターを傷付けた分、しっかり働いてもらうわよ!!」
「傷付けた??・・・そんなにヘリ乗るの嫌だったのか、まさか壊すとは」
「壊してねーよ!!!」
「え??んじゃあ乗ったのか??そうか乗ったか!」
とソラの頭をポンポンと叩く、
嬉しい証拠なのだが
「いてーよ!!!」
よーく見たら首元にゴーグルをしてるソラ、懐かしいと微笑む。
「ヘリコプターのこと学びながら修理代稼げよ!そしたら大会にも出たくなるだろ。」
「だから・・・。」
黙った。
何故なら・・・
「楽しかったんだろ??」
「!!?」
「顔に出やすいな。」
そう、
操縦の出来は置いといて
楽しかったのだ。
図星だった。。。
「ほら学んでこいよ、お前ヘリコプターのことそんな知らないだろ!そんな操縦じゃ出場も難しいぜ!」
「ーーーだから大会に出るなんて」
「大会はともかく修理代よ!今日は一日居なさい!」
作業用のツナギを着せられて
部品だらけの中を歩く。
倉庫なために広い。
右に左に上に下
見渡す。
「君の操作じゃどのヘリでも壊すでしょうね、もうちょっと丁寧に扱えないの??」
「うるせーな。昔から何やっても不器用なんだよ。。。」
「見てた限り結構雑に扱ってるように見えたけど。。。あ、私はツキ!ツキお姉ちゃんって呼んでね♪」
「ツキおばちゃん。」
「まだ20だ!」
しばらく歩くとあきらかに未完成だろうヘリコプターが置いてあるところへ。
ツキがヘリに付いているカスを手で払い、
持っていたボートの挟んでいる紙にボールペンで何かを書いていた。
「まだプロペラが付いてないのよね~。まぁ君には別の簡単なところやらせるから安心して~。」
よそ見をしていたソラへ先程の紙が挟んであるボートで頭を叩いた。
「叩くな!!」
「よそ見するな!!
あなた本当に大会出たいの??お兄ちゃん真剣に出てほしいって願ってるのに。」
「・・・・・・・オレが大会出たからって何も変わんねーっつーの。
母さんにとってはオレの代わりなんているんだからよ。。。いらねーだろ、オレなんて。」
背を向けてやはり帰ろうとしたソラへ
ツキは腕を掴む。
「だから大会出ないとしても修理代が残ってるって言ったでしょう。
誤魔化そうとしたって無駄だよ。」
「・・・・・・・。」
半分誤魔化して帰ろうとしたのは
本当だった。
「うわ、細かいのがうじゃうじゃ。。。」
「このネジをこれに付けて、この本体が動かないようにするんだよ!
わたしだってこれやってるんだ!製造業ってやつだね!」
ひとつの机に
細かい部品が数えきれないほどある。
ネジを一、二個簡単に無くしてしまいそうなほど細かいのだ、気が狂う。
「眠くなってきた。」
「私も近くで作業するからサボれないからねー
はい、開始!!」
仕方無しに作業場の椅子に座り
部品をひとつひとつ手に取った。
言われた通りに同じ部品を重ねてネジを留める。
それだけの作業だ。
その近くでもうほぼ完成のヘリコプターへツキが行く。
運転席に乗り、ハンドルを握る。
「・・・・・・誰かいる!!?」
ツキが突然大声で叫んだ。
そして男性がひとりこちらへ。
「なんだい、ツキ??」
「これ作った責任者はあなた??」
「そうだけど!」
「んじゃあここに乗って!ハンドルを握って!」
その男に運転席へ乗らせ、
ハンドルを握らせた。
「どう??」
「どうって。。。」
「このハンドル、死亡事故に繋がるよ。」
「え。。。??」
「何年ここにいるのよ!?ハンドルが緩みすぎるでしょ!!初心者だって分かるよ!!
このヘリコプター、最初からやり直し!」
「えええぇぇぇ!!?」
「当たり前でしょ、人の命を乗せるんだから。」
しょんぼりとした顔で持ち場に戻っていった男性に
ツキが違うヘリにて作業を始める。
手付きが慣れている。
もしかしてプロなのか...??
「・・・・・なぁ、ひとつ質問して良いか??」
「はいどーぞ!」
「・・・・・・アンタ彼氏居ないだろ。」
「それはどういう意味ですか??」
「性格厳しそう。」
「ふふーん、ちゃんと居るもんねー!」
「物好き居たんだ。ま、世の中広いからな。」
「スパナ投げていい??」
という冗談?な雑談を混じえつつ、
二人は作業をすすめた。
「うち、ヘリ家族でさ!お兄ちゃんもホントはここで働く予定だったんだ。
ただ、お父さんがお兄ちゃん夫婦の授かり婚を認めてないみたいで。。。
確かに順番は逆だったかもしれないけど
いまだに奥さんとはラブラブだし、子供も愛せてるんだから良いじゃんね。」
「てことはここアンタの家族の会社か。」
「そういうこと!休憩入ろう!」
あっという間に一時間が過ぎていた。
ツキはコーヒーをいれ、ふたつのうちひとつをソラに渡す。
「・・・・・あなた不器用なんだね、何このネジの付け方。一つならまだしもたくさん。。。」
「うるせーな。昔から何をやってもうまくできねーんだよ。」
「でもちゃんと出来てるのだってある!ほらこれ。」
とちゃんと出来ている部品をひとつソラの掌に乗せてみた。
「これを目標にして頑張って作ってみてよ。言い訳ばかり並べてないで。」
「・・・・・。
お前らホント兄妹だな。」
「え??」
「何でもない。」
同じことを夕方まで繰り返しやらされた。
さすがに疲れたらしく身体を伸ばした。
「もう絶対こんな仕事やらねー。。。」
「ご苦労様!はい給料!」
と袋に入ったお金を手渡された。
「は??修理代は??」
「それのお釣!いらない??」
「いや、いるよ!!」
中身を覗いたら、予想以上の数が入っていた。
「!!?お前のとこ時給いくらだ!?」
「3000!」
「高っ!!?」
「そのくらいここは大変なとこなの。今日君は初めてだったからすごく簡単なとこやらせたけど、私の作業だったら出来なかったでしょ??」
「そ、そりゃ専門家だからだろ。」
「でも君ずっと私の作業見てたでしょ??」
「!!?」
図星だったのだ。
興味は無くなかったツキがやっていた組み立て。
確かに女子がやってることは珍しく、認めるぐらいにカッコいい。
もしかしたら自分がやりたかった仕事かもしれない。。。
「ん!ネジも最後のほうは完璧ね!
・・・・・大会出なよ。
ヘリコプター、飛ぶことが好きなんでしょ!」