第1話 気まぐれ。
「やぁ、やぁ。君は何処へ向かっているんだい?」
この時期にしては暖かい風が弾んだ声でぼくに尋ねる。
「さぁね」
フワフワと軽い足取りのまま、素っ気なくぼくは返事した。
だって、市松模様のタイルを白いとこだけ踏んで歩く「ぼくルール」で忙しかったんだ。
「何処へいくかなんて誰にもわからないさ、ぼく自身がコイツを持て余してるんだから当然さ」
どうやらまだぼくの後を付いてくる気らしい風は、
そっとぼくの背中に触れつつ不思議そうにぼくの言葉を反芻した。
「コイツ?コイツって君じゃないのかい」
ふふっ、馬鹿に真面目な風の声が可笑しくなってそう含み笑いをした。
「行き先なんか生まれた時から決まってる」
ぼくは風の言葉は無視して続けた、
「だから、」
一度だけ、背後にいるであろう気配だけの風に視線を寄越してやってから、
「途中の道筋くらいは好きに選ばなくちゃね」
もう一度前をむき直してぼくは強く発音した。
「なんなら僕と道行き、一緒するかい?」
風は少し驚いたように、一緒の間をあけて「かまわないかい?」と言った。
ぼくはまた可笑しくなった。
「好きにすればいいじゃないか、だってみんな誰もが道筋を選ぶ自由は持って生まれてきてる」
風の返事を待たずにまたぼくは続けた、
どうもぼくはお喋りが過ぎる性質のようだ。
「誰も君からそれを奪えはしない」
一息ついて、これで最後と言葉を選んだ。
「勿論、ぼくからもね」
風は、返事の言葉の替わりにそっとぼくの頭を撫でてくれた。
『風と道行き』081210