はぐれ雲その道を進み
進む道ってなんでしょうね。人生、道筋は人それぞれです。そんな題材のお話。
『はぐれ雲その道を進み』
長い黒髪を頭のてっぺんで束ねた女性は、俯き加減に私の隣を歩いている。
大学卒業も近くなってきた三年の初夏、グラウンド三つ分はあるような広いキャンパスの敷地内を後輩の樫田真津実と並んで歩いていた。
白い花柄のワンピースの上に、綿麻の薄いブラウンのベストを着た彼女の表情は明るいものではない。
肩口くらいで切りそろえた髪をガシガシと掻いて、少し気まずいという表情で歩く。
三番館と呼ばれる学び舎に続く道を歩いていく。
そろそろ授業が始まるだろう時間だ。
周囲には、教室に向かおうとする生徒で賑わっている。
「まあ、何さ。まだ二年だし、そんなに焦らなくてもいいと思うよ。」
「そうはいいますけど、私。高校だって不登校でしたし、この先ちゃんとやっていけるか不安で。」
不安そうに眉尻を下げて、その不安を訴えかけるような目で彼女はこちらを見てくる。
事の発端は、先日の授業らしい。
職業開発という授業で自分の適性と現在の就職状況などを勉強し、その日の午後に間が悪いことに人文地理学で資本主義経済の姿とこの先求められる人物像などを勉強したそうだ。
将来、という言葉に不登校だった彼女は強い不安を覚えたらしい。
授業が幾つか被っていた私——野々村冴子は不登校だったという事情も知っていたから何かと気にかけてきたつもりだった。
そんなわけで、彼女の不安が打ち明けられたというのが今の流れになる。
「まあ、ね・・・。」
「だって、私そんな人間になれませんし。だから、私っていらないのかなとか。」
「まあ、気持ちはわからないでもないか。私は私だし、なんで経済が求めるような人物にならなきゃいけないのかっていうのはあるね。」
日差しが途切れた。
校舎の中に入ったからだ。
授業は一緒の授業なので、真津実と並んで教室に入る。
丁度、その時にチャイムが鳴り響く。
カードリーダーに学生証を通して出席を切り、空いていた窓際の席に二人で陣取る。
まだ、講師は訪れていない。
「でもまあ、時代の流れって言うのもあるし、そこから完全に外れちゃうのもどうなのかなってのがあるのか。」
鞄からノートとプリントを取り出して、机の上に並べる。
「でもでも!!得意不得意っていうのは誰にだってありますよね。」
「そうだよね・・・。苦手だったらどうにもならないとは思うけどさ。」
鞄を机の横に掻けると、ぽんと彼女の肩を叩く。
「まあ、捨てる神もあれば拾う神もあるって。心配しなくても、運が巡ってくれば自分に合うような仕事が回ってくるんじゃないかな。」
「そうですかね・・・。」
「いきなりそう考えろっていわれても難しいだろうけどね。」
そう言って頷くと、彼女の顔も少しは明るいものとなった。
安心したところで、丁度講師が入ってくる。
プリントが前から回ってきたので、話を切り上げて授業の方に意識を戻す。
プリントの方に目を落とすと、急に背後でガタリと音が響いた。
「危なっ。遅刻するかと思った。」
肩に掛かるくらいの癖毛束ね、白いTシャツと黒いスパッツという動きやすそうな出で立ちの女性。
「あ、プリント?さえ、さ。それ頂戴。」
横から伸びてきた手が、私のプリントを奪い去ろうとする。
咄嗟に反応して、彼女の手の甲をぱしんと叩く。
「持ってくな、晴海。遅刻なんだから、素直に前から取って来い。」
「いやいや、開始から五分以内は遅刻とはいえないでしょ。」
「遅刻だ、バカタレ!」
宇佐美晴海は、私と同い年だ。
高校から一緒、ということは無いが大学ではゼミが一緒であったため顔を合わせるのは日常的だ。
弓道部に所属し、弓道だけは成績優秀のようだが。
眉間にでも手刀を叩き込んでやろうかとも思ったが、逃げるように前の机に置いてあるプリントを取りにいったのでその機会は逸したようだ。
「お疲れ。」
チャイムが鳴り響き、講師が解散を指示すると立ち上がった私に晴海が声をかけてくる。
反省している様子は全く見られない。
筆記用具をかき集めて筆箱に戻しつつ、私は彼女の方を睨んだ。
「あんたね。」
「あはは。仕方ないじゃない。ちょっと部室でだべってたら遅くなっちゃったんだもん。」
そういうところがダメだというのがなぜわからないのか。
隣で、一足先に道具をしまい終えた真津実は苦笑を浮かべている。
「あの。それじゃあ、野々村先輩。宇佐美先輩も、私、次の授業がありますから。
「ん。お疲れ。」
「あ。後でね。」
堅苦しく頭を下げる彼女に、軽く手を上げて挨拶する。
次の教室を目指して、真津実は足早に教室を去っていく。
「やれやれ。相変わらず堅苦しい娘だね。」
「あんたも、ちょっと見習えばいいのにね。」
「うん。いい娘だもんね。まあ、それはそれとしてさえさ。」
さりげなく毒づいても、晴海はさらりとそれを受け流してしまう。
相変わらずなマイペースさにため息が漏れる。
「三講は何か入ってる?」
「いや、別に。」
「じゃあ、ちょっと付き合ってよ。」
三時限目と昼休みに予定は入っていない。
四時限目には授業が入っているので、帰るわけにもいかない。
「まあ、いいけどさ。」
「おっけ。じゃ、いこう。」
プリントを手に、晴海はさっさと立ち上がる。
真面目に勉強する気があるのか、彼女は鞄などを持ち合わせていない。
常に彼女は、荷物を弓道部の部室に置いているのだ。
ため息一つに立ち上がり、入り口にあるカードリーダーに学生証を通す。
しっかりと、授業を出席したことがディスプレイに表示される。
「まつ、さ。」
学生証を抜きながら、声をかけてきた彼女の方に振り返る。
背後から手を伸ばしてきて、彼女もカードリーダーに学生証を通す。
「何かあったの?」
「何が?」
「さえとなんか話してたじゃん。ありゃ、悩み事だね。」
腕組みして、決め付けるように言って一人頷く。
今回ばかりは、的を射た推察力だ。
廊下に出て、二人で並んで歩く。
「鋭いね。あんたは、そういうところはさ。」
「んー。まあね。そうじゃなきゃ先輩は務まらないのよ。」
そんなところは、こいつなりに優しさを持っているのかもしれない。
階段を下って、校舎から出て行く道中で真津実から聞いた話しを語って聞かせる。
「そっか。まつも苦労してるわけだね。」
「そうそう。だから、私なりに考えて答えたつもりだけどさ。」
顔を上げて、空を見上げる。
青い空には、高々と太陽が昇っている。
一欠けらの白い雲が流れ、一瞬太陽を隠して過ぎ去っていく。
「これでよかったのかなって。ちゃんと、役に立てたのかなって。」
「・・・・・。」
晴海は、黙ってこちらを見つめている。
やがて、視線を話して頭の後ろに手を組んで、彼女もまた空を見上げた。
「うーん。そっか。まあ、さえ真面目だからね。」
「話してくれるってことは、それだけ信頼してくれてるってことじゃないかな。だから、応えてあげたいだけ。」
「とはいえね。私らも二十年そこらしか生きてないし。それに、なつにはなってあげられないからね。」
青空では時折、断片となった小さな雲が流れては過ぎていく。
自由って何だろう。
生きるって何だろう。
求められるような人物像があって、それであっても決してこう生きなくてはならないという“マニュアル”はない。
ある意味、不条理で無責任なこの世の中。
いけない、考えすぎかもしれない。
自分の思考が、あまりにナイーブでそして哲学的になりすぎていたことに慌てて、私は頭を振ってその意識を外に払う。
「大丈夫だって、言ってあげれればいいのにね。」
晴海はぽつりと呟いた。
「でも、確証は無い。無責任なことは、言えないじゃない。」
「そこが真面目だってさ。」
そんなものがあるなら、ほしい。
そう思う人々は幾らでもいるだろう。
私だってそうだ。
校舎影にあるベンチに二人並んで、特に意味もなく空を見上げ続けた。
「真面目だって言うけどさ。」
「ん?」
「それが、夢なんだよね。」
「ああ。」
晴海は、ただそういって頷いた。
高校生の頃だった。
憧れていた人がいた。
私の担任だった恩師には、沢山のことを教わったつもりだ。
そのお陰で、充実した高校生活を送れたと思っている。
どこか人とずれている、と自覚している自分だからこそ人と一緒にいて上手くいかないことがあったのだ。
自分で壁を作り上げてしまい、人を拒絶してしまうようなところがあった。
人間関係というものは難しいと感じたし、時には諦めてしまいたいと思ったこともあった。
そんな時、手を差し伸べてくれたのが担任の蓙村六実だった。
『上手くいかないこともあるって。焦らず、時には引きながら頑張ることも大切だよ。』
『野々村は、できてるんだけどさ。そのことを自分でわかってないだけなんだと思うよ。』
蓙村先生の言葉は、なんとなく今でも覚えている。
それにどれだけ救われたか。
そんな自分の体験を、知り得た知識を、今度は誰かに伝えたい。
それが、その人にとって幾らかの役に立てば。
憧れは夢となり、そうして大学に進んだのだ。
「いやあ、優しいね。男前だわ。」
おどけたような彼女の言葉に、意識は現在へと帰ってくる。
むっとなって、視線を彼女の方に向ける。
「からかってんの?」
「いやいや。褒めてますとも。」
ニコニコと調子のよい笑みを浮かべて晴海は言う。
そんなところが、彼女のよいところでもあるのかもしれない。
真津実のことを相談していたつもりが、いつの間にか私まで考えすぎていたようだ。
そして、彼女の明るい態度になんとなく救われた気がする。
あまり私がどうこう考えても余計なお世話だろう。
また手を差し伸べてほしいと願われれば、その時に助ければいいのだ。
「こいつ。」
「あいた。」
調子に乗っているのは明白なので、それでもとりあえず一撃叩き込んでおく。
手刀を眉間に叩き込んで、彼女を打ちのめす。
「いたい。いたいってば。」
眉間を押さえて、晴海は私に抗議する。
いちいち大げさだと、非難するような目でじっと見つめる。
「それよりも、これからどうする?」
「ん。ああ、考えてなかったな。」
昼には少し早い。
かといって、午後の授業を考えると帰るのもどうかと思う。
「んじゃさ。ちょっとゲームセンターでも行かない?」
「はあ?何を言うかと思えば。」
「面白いシューティングがあるんだよね。」
そういえば、晴海はゲームが好きだったか。
特に、ガンシューティングが趣味らしい。
大方、それなのだろう。
「何でさ、シューティング?」
「ほら、弓道やってるし。弓とか銃とか、飛び道具ってロマン感じない?」
「ごめん。理解できないわ。」
彼女の理解不能な理論に、私はただ頭を抱えるのだった。
「その昔、武家においては弓馬に長けるっていうくらい馬術と弓術に重きが置かれていて、特に弓には神聖な考え方があったわけでさ。」
校舎を出て近場のゲームセンターに向かう間、晴海は弓がどれほど素晴らしいかということを力説している。
隣を歩く私は、気の無い返事を返すばかりだ。
興味が無い、ということを見抜けないほど彼女の目も節穴ではないようだ。
「ねえ、ちょっと聞いてる?」
話を切り上げて、こちらに視線を向けてくる。
「あー。聞いてる聞いてる。」
「それ、聞いてないじゃん。」
懐疑的な視線を受け流し、見えてきた電飾の看板の方に視線を向ける。
「ほれ。ついたよ。」
左右に開く自動ドアの前に立ち、店内を指差す。
晴海は、店内を見回して件のゲームを探している。
それらしきもの前には、男が二人ほどたむろしている。
右手で銃を構える男の隣で、大げさに体を動かしてゲームに興じる男。
「先客いない?」
「あ!ほんとだ。おのれ・・・。」
先客を前に、晴海は拳を握り締める。
待つのが得意、という性分ではないだろう。
とはいえ、男たちも直ぐに終わる気配は無い。
「やっべ。やられた!」
「まだやるのか!?」
テンションの高い男が硬貨を再び投入すると、隣に立っていた男が叫んだ。
あまりあちらの男は乗り気ではないのだろう。
いや、それ以前に・・・。
黒いジャケットを着た、テンションの高い方に近寄って後ろから拳骨を頭に向かって振り下ろす。
「いって!!」
「おい、コラ菱木。何やってんの。」
同じ大学に属し、しかも同じく教職課程を履修する菱木一人。
その隣にいる白いパーカーの男は覚えにないが・・・。
「おお!野々村か!」
「あんた、授業じゃなかったっけ?」
教職の必修が、この時間であるはずだ。
去年、私はしっかりと履修したので単位は修得しているが、こいつはそうではなかったはず。
「ふっ。野々村。男にはな、わかっていても戦わなきゃいけないときがあるんだよ。」
「つまりはサボりでしょ。」
話している間にも、ゲームは始まっている。
その間に、晴海はコントローラをこっそり強奪してもう一人の男に声をかける。
「溝口。詰めて詰めて。」
「お、おい。宇佐美。いいのかよ。」
晴海は、菱木と一緒にいた男を押しのけてプレイに乱入する。
「ん・・・?」
先ほど、晴海が男のことを溝口と呼んだことを思い出してそちらに視線を向ける。
二人は、まるで違和感無くゲームに没頭している。
「晴海、知り合い?」
「ん?ああ!貴様!いつの間に俺のガンコンを!!」
「というか、今の今まで気がついていなかったお前に驚くよ。」
晴海に声をかけたところで、漸く気がついた菱木に鬱陶しげに視線を向ける。
「まあね。同じ弓道部の溝口君。」
「お前が君付けっていうのも気味が悪いな。」
二人は、画面から決して眼を離すこと無く言った。
彼女と同じ弓道部の人間だったのか。
確かに、雰囲気からして晴海に振り回されるのはいつも通りです、という雰囲気だ。
「ほお。溝口や。お前にこんな彼女がいたとはな。」
「彼女じゃねえよ。」
「そうそう。ありえないから。」
溝口君の隣に回りこんで、菱木は彼の横腹を肘で突く。
話題に上げられた当人たちは、全力でそれを否定する。
全力で否定しつつも、プレイは続行し続ける晴海の根性は大したものだと思う。
そんなことを考えている場合ではなかったと、菱木の後ろに立って拳骨を落とす。
「いてえって!!」
「だから、あんたは授業でしょ?また単位落とすと、流石に後ないよ。」
にやりと菱木は不敵に笑った。
「一日の欠席くらいで、単位を落としてたまるか。」
「馬鹿じゃないの!」
懲りているという様子は無い。
もう一度くらい殴ってやった方がいいかと思ったが、その瞬間それを遮るように声が響いた。
「野々村先輩!」
振り上げていた手が止まる。
真津実がいつの間にか背後に立っている。
目には涙が溜まっている。
「ん・・・。真津実・・・。」
晴海たちも手を止めて、真津実の方を見ていた。
駅近くの通りにある喫茶店は、昼近くになればそれなりに客が入っている。
何とか席を確保できた私たちは、とりあえず各々席に着いた。
真津実はただ俯いている。
溝口君と菱木は、気まずそうに座っている。
頼んでいたコーヒーが運ばれてくる。
テーブルに置かれたカップからは、微かに湯気が立っている。
砂糖の袋を切って、コーヒーの中に入れる。
入れながら、真津実の様子を伺う。
「ほら、折角だしあったかい内に飲んじゃいなよ。」
パフェにスプーンを差し込む晴海は、彼女に紅茶を勧めつつそれを口に運ぶ。
彼女も、それを口に運ぶと少し落ち着いたように息を吐いた。
男陣はコーラにストローをさしている。
「ディベートって、難しいですね。」
ポツリと真津実は口を開く。
先ほどの授業で、討論があったようだ。
当然、引っ込み思案な彼女には難しい内容だったらしい。
結局、何もできなくて終わったようだ。
ただでさえ不安を持っていたところに、追い討ちでもかかったのだろうか。
彼女は、先ほどからスプーンで紅茶をかき回して鬱状態だ。
「ま、まあ。落ち込むなって。慣れだから。最初は、誰もがそんなものだ。」
気まずくなったのか、溝口君が口を開く。
「まあ、こいつみたいにでしゃばるのもどうかと思うしね。」
「俺か!?」
菱木が声を上げる。
こいつは、討論などが得意な方ではない。
寧ろ、勝手に一人で話を進めてしまうようなタイプだ。
「いえ、そんなことないですよ。私、人見知りが激しくて。それで、高校時代もクラスに馴染めずに不登校になって・・・。」
俯いたまま、ぽつぽつと昔話を始める。
「結局、そのことがずっと尾を引いてるんですよ。」
「そうか・・・。」
溝口君は長く息を吐いて、ソファの背もたれに深く腰を下ろした。
晴海も珍しく真面目な顔をして考え込んでいるようだ。
「まあ、他人と違う道を行くってのは大変だからね。」
「そうですよね。“普通”じゃありませんから・・・。」
晴海の言葉に、ため息混じりに真津実は頷く。
「でもなぁ。」
頬杖を突く晴海は、空中を見つめたままポツリと呟いた。
「絶対に“普通”でなければならないっていうことも無いと思うんだよね。」
「え?」
「生き方ってのは人それぞれじゃない?それが誰かと、皆と一緒である必要はないと思うし、一緒になるとは限らないわけじゃない。」
晴海が語るのを、菱木はただ頷いて聞いている。
真津実も、興味深そうに彼女の方へ視線を向けている。
「なるほどね。それは、確かにそうかもしれない。ただ、普通に学校行って、勉強して、学校出て就職して。そういう普通の道から外れるのは確かに大変だと思うよ。
でも、そこに道がないわけじゃないと思う。不安に思うかもしれないし、迷うかもしれないけどさ。」
向かいに座っている真津実の肩をぽんと叩く。
「でも、他よりちょっと険しいだけでそこに道は確かにある。だから、迷いながらでもいいから進んでいければいいんじゃない。」
「野々村先輩。宇佐美先輩・・・。」
「迷ったら、そうやって誰かに打ち明ければいいさ。助けられる代わりに、困っている奴を助けてやれればそれであいこだと思うしな。」
溝口君が言うと、真津実は漸く笑顔を見せた。
「はい。ありがとうございます。」
「お。やっと笑ったな。」
菱木の言うとおりに、私たちにもほっと安心感が宿る。
やっぱり、人は笑顔が一番だ。
「いやいや、優しいね。野々村先輩は。」
「あんたもね。」
からかうように晴海が言う。
彼女の方にじっと睨むような視線を向けるが、あははと笑って受け流される。
「よし。じゃあ、午後はどこ回る?」
「あんたは授業に行け!」
勝手に街の中を回る流れに持っていく菱木に向かって叫ぶ。
全く懲りている様子は無い。
「あ。もう、お昼終わりますよ。」
思い出したように時計を取り出して、真津実は言った。
「じゃあ、出るか。」
溝口君が立ち上がるのに続いて、皆続々と立ち上がっていく。
「で、溝口。奢り?」
「勝手に奢りにするなよ!」
晴海は溝口君にたかっている。
困ったものだと、後ろから手刀を叩き込む。
「こら。晴海。」
「はいはい。」
各々に会計を済ませて店を出る。
外は相変わらず晴れていた。
はぐれ雲だろうか。
小さな欠片が空を流れていく。
険しい道でも、そこに道はある。
それは、私自身に言い聞かせる言葉でもあるのかもしれない。
大学へ向かう道中、私はそんなことを思った。
終。
人生にマニュアルなんてない。その人の生き方を否定することはできないし、自分の生き様を悲観することはないと思います。進める道を、ただ進めばそれでいいと思う。そんな考えで書きました。駄文で申し訳ありません。読んでくださった方はありがとうございます。