表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/137

97 増税計画始動

加賀一向衆攻めの用意は整った、後は加賀がグダグダになるまで、経過を見るだけだ。

で、もう一つ最後の要素が待っている。


大殿の攻撃命令。


一向一揆が始まって以来、延々と敵対していた本願寺だが。上杉謙信死亡と、越後の後継者争いにより、切り札を失った。

本拠地である石山本願寺も、織田家との長期間の敵対行動で疲弊し、打つ手を失っている。もはや敗北は時間の問題だ。

それゆえに、加賀一向衆に引導を渡すには、大殿の判断が必要になるわけだ。


このまま、石山本願寺を降伏させて、加賀を弱体化させてから攻めるのか。

加賀を一気に押しつぶし、石山本願寺に決定打を与えて降伏させるのか。


どちらにしろ、加賀侵攻になる為、越前は手取川の敗戦から立ち直る必要がある。

大殿もそれを待っているのか、あるいは他に何か考えがあるのか…




まあ、戦力回復に関して、オレはなんの役にも立たない。

そういうわけで、現在我が越前内政団は国内賦役免除者の選定に駆けずり回っていたのですが


…甘く見ていました越前の復興速度。


近年の越前復興への回復速度は、どうやら異常だったらしい。

半数近い村々から、国内賦役免除の申し出が来た。他の村々も基本国内賦役免除に賛同しており、可能なら免除へと進みたい旨が報告されている。


この申請フィーバーの理由として、副官の中野勝豊君の提案で『国内賦役免除による増税』ではなく、『飢饉救済用の備蓄提供』と言う政策の中に『国内賦役免除』を入れた事で、越前農民からの圧倒的支援を呼んだらしい。

つまり、「国内賦役免除にするから増税。救済倉庫を建てるから減税」と言うのではなく「飢饉対策に救済倉庫を作る事で税が増えますが、代わりに国内賦役は免除になります」と言う形で理解を求めたのだ。

勝豊君。いつから君こんなヤリ手になったの?


確かに、近年賦役への意欲は減少傾向にある。賦役は肉体労働で重労働だ。その上、与えられるのは生きる為の食事と安い賃金でしかない。元々、荒廃した越前の民を生かす為の制度であった為、復興後の生活と比較すると苦役となり、復興すればするほど賦役に従事する意味がないのだ。

まあ、そうなる事を想定して、待遇改善はしなかったのだが、いい意味で効果があったな。


効果ありすぎた気もするけど。

今年の年貢徴収の作業量が怖いです。




そして、もう一人地獄を見る男がいた。


「三直殿。この数はどういう事ですか?」


メタボリーマンの不破 直光様である。


「どうと言われても、以前お話ししたように、共同救済倉を建てる予定の村ですが?」

「…この数ですか?」


報告される紙束を両手に抱えている。厳選したけど越前の約半分。絶望感しかないだろう。

当たり前だが、オレはこの計画が頓挫する事を望んではない。


「なに、これは最初に申し込んだ数であって、来年以降も増える予定です」

「無茶な…」


直光さんは顔面蒼白だ。確かに、数だけ見るとシャレにならない量に見えなくもない。

この膨大な数は、見方を変えると不可能な数ではないのだ。

よろしい。記録の大切さと言うヤツを教えてあげよう。


「直光様。こちらへ」


城の一室へ案内し、そこにある数枚の地図を取り出す。


「この地図は、一乗谷復興で使用した地図です」

「これがなにか?」


ああ、そうか。一乗谷お寺化計画は、殿と前田家重臣の一部しか知らないから、与力の不破家は知らないのか。


「一乗谷にある寺は、元々越前各所の寺の建材を再利用しています。そして、寺と言うのは元々、近隣の村々と関わり合いの深い場所。周囲の村にとって都合の良い場所にあります。つまり、この寺の跡地に倉を建て、“共同”救済倉とすればいいのです」


同時に、この時代の寺は防衛施設として、また避難場所としての高台などに建立されている事が多い。緊急時の避難所と、その際の食糧保存庫として申し分ない立地条件である。

それが災いして防衛力の高い寺という一揆の拠点が出来たりするのだが、それはまた別の話だ。

オレの言葉に、ポカンとする。直光様。


「直光様?」

「…ハッ!?いや、なんでもありません」


続いて、国内賦役の帳簿をだす。大まかではあるが、どこの地域がどれだけ国内賦役に人を出したかが記載されている。

どうでもいい話だが、これを使えば人別帳が作れるな。時間ないから後回しだけど。


「ここ数年で、越前の民は賦役による集団作業に習熟しています。倉の建設に従事させる為に、細かい指示をする必要はないでしょう。賦役の組み分けなどは彼らに任せればよいでしょう。後は、定期的に進行状況を見て回り修正するだけです」


手抜き工事をして損をするのは当の作業従事者である。また、国内賦役免除とはいえ、共同救済倉の維持に関しては、村の財産である以上賦役の対象だ。それも、近隣の村と共同だから、自分たちだけ手を抜く事はできない。


「どうでしょう?」

「わかった。早急に対応しよう」


オレの言葉と帳面と地図を食い入るように見ていた直光様が、納得するように大きくうなずく。

ぜひぜひ頑張ってください。

ちなみに、ここまでやってまだ初期段階。まあ、国内賦役免除の第一弾は越前九頭竜川流域の農村が主だ。そのほとんどは前田家に友好的だが、既存勢力の発言力が根強い。各種交渉が難航するのはわかりきっている。

とりあえず、痩せるほど越前を走り回ってくれ。


数日後、不破直光様から提案で、この共同救済倉を『氏倉うじくら』または『祖倉そくら』という名称が付いた。(以後、『氏祖倉』と呼称する)

寺の跡地にはその村の代々の墓が残っており、そこに倉を建てる事に抵抗をする者がいたためだ。

先祖の霊に救済倉を守護する意味を込めて祭り慰撫しようという趣旨らしい。

また各村の名士に、その家の死者を弔う際、この倉に納めた穀物の一部をふるまう特権を与える事で、各村の有力者を懐柔。その名士がそのまま共同倉設立の現場指揮官となる事で、各村の倉庫建築は始まった。


あれ?ただのメタボ親父とおもったけど、不破直光様って実はすごい人なんじゃないか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ