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95 与力

「この度は口添え、本当にありがとうございました」


そういって、オレが頭を下げる相手は不破ふわ 光治みつはる様。

佐々(さっさ) 成政なりまさ様と並んで、織田家から派遣された与力の一人だ。

殿の脳筋仲間の佐々様と違い、この人はちょっと影が薄い。いや、ちがうな。いつもいるんだけど目立たない。あれ?いっしょか?

でも、この人は越前でも重要人物の一人である。それも、いなくなっては困るレベルで重要な人間だ。

なにせ、尾張時代から織田家の対外交渉で活躍した人なのだ。近江の浅井家と同盟を結んだ時や、上洛する際の将軍となる足利あしかが 義秋よしあきの歓待役をこなしている。

戦闘能力特化が多い越前前田家で、決定的に不足している上流階級とのパイプ役&交渉役なわけだ。


会ってみてわかるのだけど、殿や佐々様とは雰囲気が違う。同じ人間なのか疑うレベル。結構いい年齢なんだけど、そこにいると雰囲気が和らぐ感じがする。

まあ、経歴見るとバリバリ戦場に出てバリバリ戦っているんだけどね。戦場の険悪な雰囲気の時とか、こういった存在が必要なのかもしれない。


さて、話がそれたが、オレがこの人に頭を下げているのは、今回の一乗寺問題についてだ。そもそも、一乗谷の『真乗寺(旧一乗寺)』に真言宗の高僧を呼ぶ際、その仲介を不破様にお願いしたのだ。真言宗の本山にツテのある人間なんて前田家に皆無である。オレだって天台宗だ。真言宗の本山につながりなんてない。

そこで、上流階級に人脈のある不破様に頼んで、京都にある真言宗山階派から阿闍梨という高位の僧侶が越前まで下向してもらったのだ。

しかも、その為の献金はすべて織田家持ちである。越前に来たばかりの頃に、これだけの事をしてくれたのだ。この人にオレが頭上がらないのはわかるだろう。

そこまでしてもらって、今回の一乗寺問題で阿闍梨の怒りを買ってしまった。当然、仲介した不破様にも真言宗からお小言が入っている。

今回の問題に関して、殿とは別に与力の不破様にも内容を話して理解をしてもらっている。

ちなみにこの人、すっごい聞き上手。

なんだか余計なことまでしゃべっちゃったような気がするけど…ま、いいか。


「ところで三直殿」

「はい」

「此度の件は、何か裏があるのではないですか?」

「は?」

「いや、真言宗の僧を呼ぶに当たり山階派さんかいはをとの要望だったので、知恵者と名高い三直殿の事、なにかあるのかと興味がわきましてな」

「いや、お手数をかけて申し訳ありません。見ての通り私は寺の出でして、こちらの世界にも縁があります。北陸に影響力の強い真言宗山階派の力を借りられれば良いと、愚考いたした次第です」

「なるほど、北陸は信心深い土地でございますからな」

「ええ、まったくもって頭の痛い問題です」


なんだろう。ほんわかしているけど、きちんと手は打っている。そんな雰囲気が見え隠れしている。外交官ってもっとキリッ!バリバリ!って切れ味鋭い人という雰囲気があるけど、こういうのもあるのだろう。




そもそも、この与力という役職にも意味がある。

何せ、与力は前田家の家臣ではない。織田家の中での立場は直臣として同じだ。ただ、前田家のみでは越前加賀を統治するのは手が足りないため、織田家から人を派遣しているだけだ。

支店に長期出張でやって来た本社の管理職とでも言えばいいのだろうか。支社長の命令は聞くけど、昇格罰則の権限は本社にある。あくまで、協力者という立場だ。

それ故に、与力としての重要な役割の一つが監視。

さっきも言ったように命令系統が違うから、前田家が怪しい動きをすれば、それを織田家に報告する事ができる。

まあ、ウチの殿が大殿を裏切るなんてありえないんだけどね。

正直ウチの殿が「謀反します」とか言い出したら「昨晩怪しい発光体に攫われませんでしたか?」と聞くレベルだ。

まあ、それでも疑わざるを得ないのが人という事か。

オレは下っ端でよかった。


とまあ、命令系統が違うから面倒くさいけど、協力会社として親密になるのはやぶさかではない。

佐々様は同じ脳筋シンパシーで殿との受けがよく、加賀の武力鎮圧などで(時たま呼んでもいないのに)協力してくれたりするのだが、不破様には、もう少し内政的な所で頼りにしている。

主にオレが!

不破様は隣国の長浜(旧今浜)の羽柴様、若狭の丹羽様ともなじみがあり、越前最大の経済圏である琵琶湖北東部と敦賀の問題調整として、何度も活躍しているのだ。

問題を事前に解決しているからか全然目立たないだけで、スッゴイ重要な役目を果たしているのだ。

ありがとう。本当にありがとう。

私ものすごくよくわかっていますから。

このご恩は一生忘れません。


「ところで、三直殿。すこし頼みたい事があるのですがよいですかな?」


・・・あんだって?


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