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91 光悦和尚

今回の投稿にあたり、読者の皆様にご迷惑をおかけしました。

改めてお詫び申し上げます。

天正六年三月。

突如、上杉家は北条討伐を取りやめた。なんの声明もないまま沈黙している。

そして、越後から不穏な噂が流れる。

越後の龍 上杉謙信死去。

もしこれが事実なら、織田家にとって最大の敵が消えた事になる。

噂の真偽は不明だが、不気味な沈黙を続ける上杉の次の動きを見る必要がある。


そして、もう一人。

オレにとって縁の深い僧職に別れを告げる事となった。




「ご無沙汰しております光悦様」

「久しいの。豊利」


布団の中で、やせ細った光悦和尚に挨拶をする。

手紙をもらって越前から駆け付けたが、オレにできることなどなかった。

辛そうに布団から起き上がるのを手伝う。その体は驚くほど軽くやせ細っていた。

そんな状況に、辛そうな顔をみじんもせず、ニコニコと笑いながら光悦和尚が口を開く。


「お前の活躍は聞いておったよ」

「お恥ずかしい話です」

「『越前の鳳雛』『前田の今士元』か。越後の龍も舌を巻いたであろう」

「いやいや、負けているんですけどね」

「伏竜鳳雛そのどちらかを得れば天下を握れる」

「できたらすごいですよ」

「…出来るだろう?」

「!」


光悦和尚の言葉と、その目にオレは返事を詰まらせた。

前世の歴史知識で天下を握る。織田、豊臣、徳川。その偉業を知っているが故に、殿にその功績をかすめ取らせる事は不可能な話ではなかった。


「お前なら出来るだろう。お前は天眼を得ておる」


和尚の確信している言葉に、オレは否定する事も誤魔化す事も出来なかった。


「それ故よ。伏竜鳳雛。しかし、その両者を手に入れながら、天下を取れなかった男がいる」


何もできず固まるオレから目をそらさず、細い腕を伸ばし、オレの手を握った。


「迷うな。それでよいのだ。だからこそ、ワシはお前を還俗させた。例え、織田の殿様が来ようとも、武田、上杉、誰であろうとワシは許しはせん。前田様だからこそ、お前を預けたのだ」


しわくちゃの顔の目を細め、抜けて隙間だらけの歯を見せて笑う。


「生きるという選択に正解などない。どれを選ぼうと、後悔するのだ。後悔しない人間などこの世におらん。ならば、どうするかわかっておろう。三直豊利。我が不肖の弟子よ。瑞鳥が天を舞う理由は一つ」


誰にも話した事のない苦悩を見透かした天下の名僧を前に、オレはただ涙を流して掴んだ手を握り続けた。


「舞うが良い。豊念…」




一カ月後。

尾張のある村で、一人の老僧が息を引き取った。数年前にできた新しい寺に来た老僧は、僅かな年月でも近隣の住民の心をつかみ。村のすべてがその死を悼んだと言われている。


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