88 敗戦処理
上杉家居城春日山城で、今回の大勝利の論功行賞が行われていた。
越中能登加賀を手に入れた上杉家の大躍進とも言える戦いで、上杉家家臣たちにはそれぞれ領土を与えられた。
「して加賀は?」
一通りの恩賞が与えられた後、直江信綱が残っている領土について聞く。
「一向宗にまかす」
謙信の言葉に、場が一瞬ざわつく。確かに同盟関係である一向衆を配慮するのはわかるが、加賀北部の広大な領地は魅力である。
ましてや、今回の織田撃退は上杉家の力によるもの。この勝利を盾に加賀を実質支配する事も可能であった。
「加賀は毒よ」
謙信の言葉に周囲の誰もがその言葉の意味を測れなかった。毒とは改宗の事か?一向宗に与する者は上杉家に中にはいない。あれだけ一向衆と戦い合った上杉家の家臣で、一向宗に傾倒する者が出るわけがない。
では毒とはなんだ?
「加賀は毒の坩堝。それも一向宗の撒いた毒。越後が食らうは下策故、一向宗に食らうてもらう」
謙信の考えをすべて理解したわけではない。だが実際問題、加賀を一向宗に渡しておくのは、そう悪い話でもない。越中能登にいた一向宗への慰撫と言う意味でなら、織田家に隣接する危険地帯を一向宗に押し付ける事でもある。
それ以上、異議を唱える者もなく越後上杉家の今回の戦いは終わりを告げた。
さて、敗戦の戦後処理である。
しかも、こっちは対上杉用の虎の子カード(一夜城)を使い切った上での戦後処理である。
もう泣きたい。
織田軍敗北により、越中能登加賀は上杉家の領土となった。とはいえ、加賀を南北に分断する手取川を越えたわけではない為、織田家にとって領土的な損害はない。
ただ、敗北した事実は全国に広がっている。
つまり、織田家が武田家に勝利したのはマグレ。上杉軍最強。最強の上杉家に隣接する事になった織田家は震えて滅ぼされるのを待つがよい。織田家滅亡までカウントダウン開始。
おう信長。今どんな気持ちだよ。と言う話だ。
越前と加賀南部はもともと反抗勢力の力が強く、地道にそういった勢力をつぶして沈静化していた状況だが、今回の敗戦で再び勢いを増そうとしている。
それに対して、前田利家は休む間もなく軍を率いて示威行為を繰り返し、反乱した場合は容赦なく叩き潰している。
この場合は一乗谷片道切符もナシだ。今の状況で、反乱者に甘い顔は出来ない。
まあ、武力的な問題はざっくりこんな感じで、楽しい楽しい内政的な問題である(虚ろな目)
まず九月の年貢である。
もう一度言おう『上杉軍は、手取川を越えたわけではないので領土的な損害はない』。
そして、地道な越前賦役の努力の結果、越前の石高は右肩上がりで回復している。
回復しちゃっているのだ。当然増加した分は年貢徴収作業に反映される。
一応、先の手取川の戦いにおいて、腹心の中野勝豊君と内政団の大半を越前に残して、年貢納入をさせている為、タイムオーバーというほどの状況ではない。
だが、作業としてそれはそれで激務&遅れが待っているわけだ。
去年温存したラストエリクサーはどこだ?おかしい、まだラスボス(全盛期の越後)戦じゃないのだけど…
そして、それだけではない。
軍事的な問題で、手取川の戦いで出た被害の確認と再編成という仕事が待っている。基本的にそれらの仕事はオレの管轄ではなく、各武将の仕事になるのだが、彼らの仕事量が増えれば、彼らの年貢徴収作業を圧迫する事になる。
越前に残していたが故に、内政団に被害はない。当然、繁忙期に入る各武将を支援する事になるわけだ。
なにせ、彼らの作業が遅れば、その後に統括するこっちの作業の遅れに直結する問題でもあるわけで、それを手伝う事は、すなわち将来の作業の軽減と、現在の作業量が増大する事を意味している。
軽減してないね。増える量を抑止しているだけで、どう見ても作業量は増大しているよね。
はははは…
そして、さらに他の問題ものしかかる。
戦争で激戦で敗戦。ここから導き出されるものは、自軍の被害が莫大であるという事実だ。
戦争はゼロサムゲームではない。個人戦闘のベストな決着は相手側の死亡だが、ベターな決着も存在する。
ベターな決着とは、つまり負傷による決着。
つまり、織田常備兵の戦傷者だ。
越前で行っている常備作業推薦者増大フラグである。しかも、先の戦いは激戦の末、判定敗北という状況だ。
それも、劣勢の中を押し返した激戦の負傷。各足軽頭からの推薦の数は膨大な数にのぼる。
まあ、そういう制度だからいいんだけどさ。
重大な問題とは、彼らの当座の賦役作業に関して問題はない。
対上杉を想定し、加賀に防衛施設を作る計画が追加されている。そこに割り振れば賦役対象という意味では何とかなる。
それに、負傷から回復するまでの数ヶ月の猶予がある。その間に常備作業者の編成をして各賦役に割り振るので時間的問題も今はない。
問題は5年後の農地提供だ。
…このペースで増加して行ったら農地足りるかな?そうでなくても加賀北部から上杉の支配下に入った現状で、新しい領土を手に入れるという事は上杉と戦う事を意味している。当然、楽な戦いではないだろう。こちらの被害も増すはずだ。
そしてその結果増える戦傷兵は・・・
アレ?コレって、やっちゃいけないタイプの自転車操業っていいませんかね?
待て待て待て。まだ破綻はしてないよね。まだ、越前加賀には土地がある。開拓できる余力もある…はず…だよね。
それを想定した農地の区画整理と、新田開発を計画して、足りない場合は、未開拓地の調査も必要になるのか?
だれがするの?
それを出来る人間って誰かいたっけ?
…オレ達の敗戦作業はまだまだこれからだ!!
前田家内政団の今後の活躍にご期待ください。
(作者:まだ続きます)




