表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/137

81 手取川~その1

手取川を渡った織田軍は、そこで驚愕の事実を知る。


七尾城陥落。

それも日付は九月十八日。五日も前にだ。その情報は上杉軍によって秘匿された。わざわざ降伏した七尾城を数日囲った上での情報封鎖。

七尾城支援の名目を失った織田軍は、軍事目的を失った。

戦う事も無く、織田軍は敗北したのである。


その報告に、手取川を渡った先で物資の取り纏めをしていたオレは本陣へと向かう。


いつからだ?

決まっている。去年の能登侵攻からだ。そこからすべてつながっているのだ。

去年の上杉の軍事行動で、否応なく織田家は上杉への対応が必要になった。

同時に、それは織田家が上杉に対してどう動くか見る機会でもあった。

能登に侵攻する上杉は、加賀前田軍が動かない事を確認するだけでいい。それによって、上杉に対しての織田家の戦略がわかる。つまり手取川で防戦し、積極的に戦おうとしない事が読み取れる

そして、織田家の目を撹乱させる。

オレが言ったことじゃないか『去年の収穫は対織田を想定していない』と。

つまり、『今年の収穫は対織田を想定している』

もちろん越後の年貢だけの話ではない。石山本願寺からの援助も、能登で畠山家の城を落とした際に徴収した米も、その後に北条と戦った事で得られる略奪もすべて含めての話だ。それだけ積み重ねなければ、これらの行動が説明できない。

これらによる収穫量を敵国である織田家は認識できない。越後の年貢は概算で出せるだろうが、本願寺からの援助も、能登での略奪量も織田家が把握する事はできない。

つまり、上杉の継続戦闘能力を織田家は推し量れない。

そして、それを逆手にとって能登を攻めるだけでいい。いったん引けば、上杉の侵略は終了であると誤魔化せるのだ。

そして、能登から上杉が引けば、織田は当然畠山家を支援する。上杉を撤退させた畠山家にはその価値ができる。その支援で、より強固な防衛を引こうとするのは当然の選択だ。

その結果、次の戦いで劣勢になった場合、畠山家が織田家に頼る事は確実だ。織田家も支援した以上、手を貸さないわけにはいかない。

去年、あのまま能登の畠山家を滅ぼしたところで、あるいは奇襲して織田家を攻めたところで手取川の防衛戦になる。待ち構えられた防衛線で、織田家を打ち破る事は難しい。

だが、この手段なら手取川で守るという織田家の戦略構想を崩すことができる。

織田家の外交関係、内政状況、戦略構想を完全に読み切られて手玉に取られた!!




「殿。お願いがございます」


本陣に入ってのすぐのオレの発言に、陣内の視線が集まる。


「二刻(四時間)の間、この地に留まり下さい」

「バカな!無駄な時間を費やすヒマなどないぞ」


与力の佐々様が声を荒げる。


「すでに、時間はありません。この長雨で手取川の水嵩は増し、大軍が渡る事は不可能といっていいでしょう。必ず上杉軍の追撃があります」


すでに、退路すら断たれている。輸送隊の足が遅く、最後まで川岸にいたからこそ気が付けた話だ。この時期の天候と手取川の氾濫まで想定していたのなら、正しく上杉謙信は軍神だ。こと“勝つ”事に関して神がかっている。

そして、それゆえに上杉追撃隊はもう目の前まで来ているはずだ。情報封鎖していたという事実が、それを保障している。

オレの言葉に、他の武将にも動揺が走る。しかし、黙っていられる情報ではない以上、ここから挽回しなければならない。

オレを見た殿は口を開く。


「トシ。策を言え」

「ハッ。二刻の間、上杉が攻めて来られない策がございます。そして、二刻の時をもって…」


オレは、懐から白紙を取り出し、略図を描き始めた。




二刻後、前田軍は撤退。それに合わせるように、わずか数キロ離れた松任城から上杉軍追撃部隊が出撃した。上杉軍は織田軍が撤退することを想定し、すぐ目の前まで追撃隊を用意していたのだ。

上杉軍は、不自然にとどまり前田軍の作った馬防柵を警戒したものの、特に何か細工があるわけでもなく、僅かな停滞の後に追撃は再開された。

長雨により氾濫した手取川に退路を断たれ、織田軍は絶体絶命の窮地に追いやられた。


しかし、その上杉軍追撃部隊の足は、手取川を前に止まった。




上杉軍追撃部隊が現れた事を確認して、オレは雨にぬれる図面から目を上げる。


「五日をもって我々は敗北した。だが僅か一夜。返させてもらうぞ」




氾濫する川を背に建つ城壁。そこに立つ櫓。そこに翻る織田木瓜の旗。

存在しないはずの砦がそこにあった。

そこに魔法のように湧き上がった砦を見て、勝利を確信していた上杉軍追撃部隊の足は止まらざるをえなかった。


手取川一夜城。

その戦いの始まりである。


上杉戦略の概略(作者の推測です)


去年の侵攻した時点で、上杉家は織田家の上杉戦略が手取川で待ち構える事である事を読み取る。

その後上杉は能登の略奪して撤退。結果、畠山家は上杉を撃退できる勢力であると認識される。ただ、上杉の侵攻が九月だったので、畠山家は年貢徴収ができず、織田家が支援しないと上杉を撤退させられる畠山家でいられない可能性が高い。


対上杉で織田と畠山が共同戦線を張り、畠山家を支援する。

支援の量が多いがゆえに畠山家への織田家の影響力が増す。


再度上杉侵攻。

昨年から延々と続く上杉の戦争の事もあり、上杉は短期戦略と誤解する。(実は畠山略奪から本願寺援助を加え長期戦する蓄えをドーピングしている)

まさかの長期戦&本気の上杉=畠山ピンチ

畠山家が織田家を頼る。



織田軍手取川を渡る。(援軍に行かないと織田家の評判が下落)


つまり、前回の上杉撤退した段階で、織田家が手取川を渡る事が確定しています。

これを読み取れという話である。主人公補正入れても無理です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ