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74 上杉対策

天正四年五月

上杉と織田との同盟破棄。

これで、上杉謙信が加賀一向衆と同盟を結んだ事が確定した。北陸ではその為にハチの巣をつついたように、騒がしくなっている。

そしてそれは、越前にも波及する。

石山本願寺を攻めていた織田軍の状況もよくない。毛利家も敵に回ったという情報が入り、もし現在上杉が加賀に進行した場合、織田家の援軍は期待できない。

小手先の策で一乗谷に越前&加賀一向宗を放り込んでいるが、基本的に一乗谷にいる坊主の行動を掣肘はしていない。一乗谷に来た一向宗の坊主は精力的に布教を続けている。

一乗谷にも府中の兵を引き連れて示威行為をしてけん制してもらったりしたが、どれだけ効果がある事やら。


そして、上杉への対策のために、オレ達は北の庄に呼ばれる。

評定の間では与力や家臣たちが集まって、今後の対応について話し合っている。


「この同盟の裏には、追放された公方様が一枚かんでいると思われます」

「くそっ。まだ反抗するとは、あの時に大殿が殺してさえいれば…」


京都を追われた室町幕府最後の将軍である足利あしかが 義昭よしあきだが、その権威を完全には失ってはいない。そして、上杉謙信は関東管領という室町幕府における関東管理の現場統括責任者という役職である。織田家に敵対するなら室町幕府復興はこれ以上ない大義名分である。

実際この人、余計な事をして織田家の天下統一を遅らせた暗君とされているが、そこまでダメ人間とは見えないんだよな。織田家に支配されながら反織田勢力をまとめ上げて包囲網作るとか、同じような事をしようとして殺された将軍の足利義輝より能力高いように思えるのだが。まあ、どうでもいいや。


「いまさら、義昭の事をとやかく言っても始まらん。今は上杉だ」

「おそらく、大殿は北条に手をまわしているはずです」

奥村様が地図を見ながら答える。敵の敵は味方理論は戦略の常識である。そうでなくても、関東管領の上杉謙信と、実質関東を支配する北条の関係はよくない。

「北条は動くか?」

「そこまでは…」

「武田の動きは?」

「先の長篠の戦い以後、修理助(柴田勝家)様や蒲生様が相対しております。同時に、それ故に武田が動けないと知って上杉が行動を起こしたのかと」

「動けぬなら問題ない。わしらは上杉の動向に注意するだけか…」


腕を組んだ殿が、オレを見る。


「トシ。どう思う?」

「大殿の外交に関しては、報告がない事にはなんともいえません。ただ、上杉が動くのは十月か十一月頃と思われます。織田家による加賀への侵攻が去年の八月。年を開けて加賀と同盟を結んだという事は、昨年の越後の収穫は対織田家を想定しておりません。となれば、上杉家が織田家を襲うには今年分の年貢を見積もる必要があります。故に、年貢を徴収した後となるでしょう」


そういう意味でも、常備兵は先進的すぎるだろ。戦争の運用スケジュールが一年単位と即日単位。まあ、ご利用は計画的にしないと、補給が途絶えてアボンなんだろうけど。大殿だって、そこまで馬鹿じゃないだろう。


「こちらの備蓄は?」

「現段階でも加賀の軍勢を二ヵ月養うだけの備蓄はあります。さらに今年の年貢は昨年より増加を見込んでおります。上杉が動く頃には十分対応できます」


悪いが、ウチの年貢徴収システムは最先端だと自負している。年貢の季節が日本一律である以上、よーいドンで年貢徴収をすればウチが勝つはずだ。(だよね!?)

ついでに、越後から織田家に攻め込むには、越中と加賀を移動する必要がある。向こうの動きを察知できる。


「しかし…」

「トシ?」

「上杉が来るのはここ1、2年である事は間違いありません」


上杉家だって馬鹿じゃない。越前の安定と加賀での収益が織田のバックアップで急速に回復に向かっているのはわかるだろう。加賀一向衆と同盟を結んだのならなおさらだ。

一乗谷お寺化計画の実質的最大被害者である一向宗が、越前の情報を加賀一向衆に送っている可能性は十分あるし、そこから越前の復興を察知できないはずがない。

となれば、時間がたてばたつほど越前が安定する事になり、それは上杉にとって望ましくないはずだ。

あれ?それが、今回の一向衆との同盟につながるのか?

一向宗が弱体化する事は、上杉と織田の双方にとって敵の弱体化だ。違う点は、織田は一向宗と同盟を結ぶことはできないが、上杉は一向宗と同盟を結ぶことが出来る。

上杉としては、敵であった一向宗を内部に抱え込むことになるが、織田という共通の敵がいる以上、一向宗が裏切る可能性は低い。

そしてその間に、能登越中加賀を手に入れればよいのだ。そうすれば、織田支援の越前加賀に対抗するだけのバックボーンを手に入れる事が出来る。

まあ、戦国大名的内政管理しかしていない上杉家が、オレの経験したデスマーチを無事に乗り越えられたらという話だがね。

ざっと見ても一年や二年では無理だろう。その間に織田家が甲斐信濃の武田を取る。そうなれば純粋戦力で上杉を上回る。

個人の強さによる上杉であるが故に、純粋に強さを上回れたらそれまでだ。

最悪でも二面作戦を強いて封じ込める事もできるだろう。


つまるところ、手取川で防戦する戦略に変更はない。

その辺を考えると、今のうちに準備はしておくか。

長浜の秀長さんに手紙を出さなくては…


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― 新着の感想 ―
[一言] 読んでて狼と香辛料みたいだなと。これもとても面白いですが、特徴的なヒロインがいるっておかず一品増えてるみたいなものだなぁと。
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