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69 人員捻出策

まず、よくよく考えてみよう。


うん、意味はわかる。琵琶湖南の目加田から尾張の津島までつなげた商業路。それに、敦賀から琵琶湖に道をつなげれば、琵琶湖で目加田を経由することで、琵琶湖水運を利用した日本海から太平洋へ抜けるルートができる。

当然、最大の恩恵を受けるのは琵琶湖水運の中継地点であり、主要街道中山道と交わる目加田の街。つまり、安土城の城下町だ。

この経済的な立地条件なら目加田は陸の堺となる可能性はある。そして、その利益は安土城の大殿に集約される。

これは、織田家の家督を譲った大殿が新しい支配体制の経済基盤を確立させた事につながる。ついでに、堺も大殿の支配下だ。

日野時代のオレの仕事(南近江の鎮静化と商業路設置)は、これを見越したうえで許可していたのか。そういう意味では、流石戦国の覇王と言えるだろう。

同時に、その基盤ってオレのデスマーチで吐いた血で出来ているんじゃないかと思ってしまうんだが…

不毛なので、深く考えるのは辞めよう。


さて、大殿からの命令を実現させる為、敦賀から琵琶湖までの道の整備方法を模索しよう。作業量的にはそうたいしたことではない。既存の道もあるし、距離的にも大したものではないのだ。

問題は労働リソース(賦役)の割り振りだ。

まず、一乗谷の普請から人を回す。

コレをすると、一乗谷に押し込める一向宗対策が滞る。結果、加賀一向宗が終わらない。これは前田加賀守の意味からしても急務であり、ここから人は裂けない。

次に、治水&新田開発の人を回す。

コレをすると、いつまでたっても集める年貢が健全化しない。それどころか、何か不作があれば越前一揆再勃発である。ここから人は裂けない。


…人を割く余裕なんてないじゃん。


そもそも、賦役の人員分配からして、微調整ができないのだ。

何せ、住民票も人別帳もない戦国時代の越前である。

賦役にやってくる住人を把握するために、各村の庄屋や豪族の力を借りているのだ。つまり、自分の村から来る賦役の人員の管理を庄屋に任せることで、村(庄屋)単位で作業をさせる。

だから、コノ村から何人、アノ村から何人という形で人員を引き抜くと、その人が本当に越前の住人なのかの判断すらできない。しかも命令系統はバラバラ。

かといって、庄屋単位の賦役を敦賀に向かわせることも難しい。

敦賀近辺の住人での賦役も考えたけど、そもそも、浅井朝倉討伐後、織田は敦賀近辺を確保し続け、その後の越前一揆で荒廃していない地域であり、賦役の意欲はお世辞にもよいとはいえない。

参加人員の多い九頭竜川付近の住人を向かわせるべきなのだが、移動時間のロスが発生する。そして、そのロスは賦役をする人間にとって逆エコヒイキとなる可能性があるのだ。

他人がしていない苦労を自分がしている。この状況を甘受させる方法がない。

食料や手当てを増やせば、今度は行かない人が不公平を感じるかもしれない。


いや、考えすぎなのかもしれないんだけどさ。カオスな国である越前を、何とか復興させようとしている段階で、一揆再発につながる不安要素は少しでも取り払っておく必要があるわけだ。そうでなくても、隣の加賀から不穏分子がやってくるのは目に見えている。

今は平和、安い税金、好景気、ゆとりある生活を民衆に与える事で、不満をそらすのが優先事項だ。

他国に賦役させて、それをエサに年貢率上げるのはあくまで石高が健全化してからという前提があってこそだ。今、それをするのは四公六民にした意味がなくなる。


今はまだ農閑期だ。だが、春が来れば田植え、秋になれば収穫だ。そうなれば、賦役をしている農民を故郷へ戻さなければならない。当然、遠くへ移動させればその移動時間はロスになり、それが敦賀と琵琶湖の道を後回しにした理由でもあるわけで・・・




・・・ん?

そうか、農民が農繁期で戻るなら、農民を使わなければいいのか。

織田家の常備兵と同じ発想で、専属の作業員として雇用する。ちなみに超安い給料。だが、役得なら提示できる。

5年作業に従事すれば越前加賀に農地をプレゼント。越前と加賀になら、開拓地を提供する余裕がある。戦乱続きの越前は人口は減っているし、第二次越前侵攻時に廃村となった村だってある。現在の加賀に至っては一揆という住民が敵であり、どう対応しても加賀の人の数は減る。

つまり、場所的余裕は十分ある。新規開拓ではなく廃棄農地の再利用なら手間は少なくて済む。その手間だって、雇用した常備賦作業員を当てればなんとでもなる。

そして、それを提供するのは5年後。ないない尽しの今ではない。5年もたてば、越前の年貢は安定している(はず)。

初期の人件費を安く上げて、増える人員には、増加する生産高を当て込んで対応すれば、寿命をすり減らして、お代わり要求する必要性も減る。

もちろんこの先ずっと継続的に募集するわけではない。3~5年くらいの期間限定。なにせ目的は敦賀からの道と、農繁期で作業に穴が開いた所のフォローだけだ。

越前や加賀の土地だって無限にあるわけでない以上、募集期間は限定させなければならないだろう。

そういう意味ではシビアに、考えないといけないのが統治者って事か。

ああ、そうなると不作とか来たらいっぺんに瓦解する危険があるわけだ。そうなると九頭竜川の治水工事の必要性が増すわけで…


…うわぁ。なんだかすごい事になっちゃたぞ。

さて、草案を改めて確認する。

よし、これはあれだな。M・A・R・U・N・A・G・E。


「勝豊く~…」


ギンッ!


はっ、殺気!?


「…なにか?」


絶対零度の視線を向ける勝豊君。説明しよう。年明けに第一子が無事出産され中野勝豊君は仕事中「一刻も早く帰りたいマン」になっているのだ!

しかも、若狭から渡されたサンプルをもとに、越前統括システムの構築をすでに勝豊君に丸投げしているので、勝豊君の仕事量は決して少なくない。


「…何デモナイデス。オ仕事ノ調子ハドウデスカ?」

「問題ありません」

「ソレハヨカッタ。頑張ッテクダサイ」


また、帰宅して銀千代の寝顔を見て寝て、起きて銀千代の寝顔見て出勤する日々が始まるのか…


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