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62 長篠の後で

「ベロベロバー」

「びえええええ!」

「いないない。ばあ。」

「びゃああああ!」

「あっちょんぷりけ」

「ばゃああああ!」

「…この子はいつかオレを殺すかもしれない」

「なんでですか。」


ピシャリ。


息子(生後1か月)の気持ちがわかりません。




天正三年五月

長篠の戦があった。

織田徳川連合軍大勝。

その報に、越前府中城も沸き返った。

そんな中、


「三直様に生気がない」

「時々奇声が聞こえる」

「いや、奇声はいつもの事だ」

「三直様を見ると、なんだか干し柿が食べたくなってくる」


など言われながら、幽鬼のように書類整理に追われる事1ヵ月。

殿が5000の兵を連れて帰ってきた。兵の数が少なかったので確認すると、大殿の本隊が越前一向一揆討伐にやってくるので、その先陣としてきたのだそうだ。

それを大義名分として、殿に強訴ごうそして有給をもらうと日野城に直行した。


直行した勢いのままに、家にダイナミックエントリーしたらちょうど授乳中。息子には大泣きされるわ、加奈さんには湯呑をぶつけられるわ、おまつ様と小姑の安様には(なんでいるの?)怒られるわと散々だったが、とりあえず、息子の銀千代とのファーストコンタクト完了。



「それにしても、三直様も名をあげましたな」

「は?」


銀千代は加奈さんの腕の中で眠っており(オレが抱きかかえると必ずハウリングを起こす。解せぬ)のんびりとしていると、おまつ様が聞いてきた。


「なんでも、千の兵で追撃する万の一向衆を撃破したとか」


尾ひれ付きすぎ。


「それは大げさすぎますよ。それに、蹴散らしたのは慶次郎様と蒲生様。私は河野で兵糧を数えていましたよ」

「あら。竹中様と赤壁にも劣らない策をめぐらしたと評判ですよ」


なんで、そんなに詳しいんですか?

犯人は賦秀君から賢秀さんルートらしい。お~い、賦秀君。自分の武勇を誇るのはいいけど、他の人巻き込まないでよ。


「私がしたのはせいぜい下準備ですよ。撤退も奇襲も竹中様と慶次郎様。本当にそれがしは河野で兵糧を数えていただけですよ」


寝ている銀千代の頬を指で突っつく。おおう、プルプルしている。むずがるので名残惜しいがやめる。


「それに府中での戦なぞ、このたびの織田と武田の戦いに比べれば小さな戦。影に隠れる程度の功績でしょう」

「あら、そうでしょうか。大殿は武田と戦う前に、府中での勝利を伝え大きく士気を上げたと言っていましたよ」


信長さん。あんた、なにしてくれやがりますの?

まあ、撤退戦で無傷で来た前田、明智、羽柴に、一揆を蹴散らしてきた蒲生がいるのだ。その功績を高くして士気を上げるのは、正しいと言えば正しい。勝てたとはいえ相手はあの武田だったのだ。


「三直殿。私たちはいつごろ加賀に?」

「まず、越前ですね。大殿の本隊が討伐してからになるでしょう。あとは、加賀をどこまで攻めるかですが…」

「…長島の話を聞きました。血が流れますね」

「ええ、加賀はおそらく長島以上になるでしょう」


オレの言葉に、辛そうな顔をするおまつ様。


「こればかりは、どうしようもありません」


加賀一向宗は、越前のようなにわか一向宗ではない。筋金入りだ。小手先の離間の計が効果を発揮する事はないだろう。

越前の策は、そもそも加賀一向宗と戦い続けた朝倉家の民だからできた話だ。武家に支配されることを知っており、百姓の国としての弊害が目に見え、かつて敵だった一向宗に反感を持つという下地があって可能だった話だ。

だが、一向宗に支配されて100年近く経つ加賀は、すでに一向宗に支配されて生きているものたちの国だ。そこから一向宗を排除するのは、生半可なことでは出来ない。


「出来るだけの事はしますがね」


息子に指を握られる至福の時を味わう。


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