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61 慟哭

新章突入とネタ回です

三直 豊利が、ここ府中城にいてはいけない要因が三つある。


一つ目、

撤退反転攻撃により府中城を手に入れた織田家前田軍ではあるが、大きな問題を抱えていた。

府中城から先は当然一向宗の勢力圏であり、つまり最前線である。


で、ここで前田家による越前侵攻を思い出してもらいたい。

西の海側ルートで北上し、府中前で待機、別働隊が東ルートを北上し、先行した別動隊が東ルートを南下して挟撃する。

そう、東ルートの敵はまだ掃討されていないのだ。

もし、綿密な連携が取れるなら、今庄と木の芽峠の兵を府中城の南に配備し、北で一向宗再集結で府中城が完全包囲される。


まあ、ある程度の兵糧は運び込んでいるので、殿が来るまでの数か月を籠城する事は可能なはずだ。もっとも、一向宗の本隊がどれほど集まるかによってその辺は変わる。

つまり。ここは大変危険だ。



二つ目、

織田の対武田が確定し、三河・遠江方面では運命の対決をしているわけだ。

織田の総力を集結して当たるこの戦いに、もし大敗するようなことがあれば、織田の命運は終わる。そうなれば、越前の一向衆が活動を活発化させ、この府中になだれ込むのは明白である。

まあ、長篠の戦なら鉄砲の三段撃ちで勝てるのだが、歴史がどう変わったのかオレにも予想はつかない以上、絶対勝てるわけではない。

つまり、油断は危険だ。



そして三つ目、これが一番重要だ。


加奈さんが第一子出産。




こうして、オレのプロジェクト『プリズンブレイク』は発動された。



ドタドタドタ


「ぬおおおお!!」

「周りこめ!囲むんだ」


すでに廊下の先には人の気配がある。だが、オレの脱出経路は完璧だ。

横の戸板を蹴り飛ばす。雨戸の蝶番を外していた為、オレの一撃で即席の脱出路となった。そして、雨戸横の格子に密かに結びつけておいた縄を握る。その手には茶を含ませて濡らした手拭いがまかれている。滑り落ちるように館の外へ。


「し、しまった!?」


館の中から声がする。ククク。すでにルートは選定済み。準備は万端よ。館内で騒ぎをおこし、注目を集めた以上、館から出たオレを阻むものはない。


しかし、それは間違いであった。


ガッ!!


「ぐふっ!?」


曲がり角を曲がったところでオレは衝撃に襲われた。


「こ、これはサスマタ!?勝豊か!!」

「ここまでです。豊利様」

「勝豊。見逃せ。お前も父となる身なら、この気持ちわかろう」

「たしかに、我が身と思えば、その気持ち痛いほどよくわかります」

「な、なら!」

「しかし、それはそれ、これはこれ」

「き、貴様ー!!」


そして、前田慶次郎が部下とともに到着。


「あいや、中野勝豊お見事にござる」


かつては日野でその腕を競い合った仲(?)である慶次郎が豪奢な扇子を開いて、勝豊の技を誉める。


「ほれ、禿鸞殿を捕まえよ。なに、首から上さえあればそれで構わん」

「構うわああああ!!!」


いや、だってさ。もう俺の仕事はほとんどないのよ。兵糧管理は終わったし。捕虜の大半は故郷に戻ったし、敵は攻めてこないけど、掃討作戦もできないから危険なので、越前の石高調査とかもできないし、暇なのだよ。帰りたいのだよ。帰る必要性ならいくらでもあるのだよ。




「まあ、あきらめなされ。手紙なら日野に届けます故、さっさと書類整理をするのですな」


キセルで煙草をふかしながら慶次郎が見張る中、オレの当面の仕事は府中城に残った資料の整理である。

府中城では当然物資の管理と年貢の徴収なんかを行っていた為、このあたり近辺の年貢記録やらが残っているのだ。そこから、このあたりの出来高を調べるのは立派な仕事であるのだが…


前にも話したと思うけど、公式記録方法って戦国時代にないのよ。

次に歴史のおさらいね。越前って朝倉が滅んだ後、織田に従った前波、それを一揆で倒した富田。その後のっとった一向宗が支配していた。

うん。そうなんだ。日野よりもやばいんだ。

前波は元々朝倉の家臣なので朝倉方式使っているけど、どうも富田さんは脳筋だったらしく、オレ流を使用。そして、一向宗は(笑)…


ウフフフフフ。すご~い。富田さん時代の帳面の最後の一桁が全部ゼロだ。こんな偶然ってあるんだ…って、そんなわけあるかぁぁぁ!ただの、丼勘定じゃねぇかぁぁぁ!!!!!


もういいよ、やめようよ。帳面統合化計画なんてしないから。もう、一から作ろうよ~。

終わらないよ~。

オレを日野へ行かせてくれ…





どうでもよい話だが、後に中野勝豊宛に『その槍さばき見事。大手柄ナリ』なる感状が発見されている。この日に府中城で戦闘があったという記録は見つかっていない。


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