44 大殿にばれた
評定の間に散らばる地図をツギハギしながら、奥村様と蒲生さんと、すでに燃え尽き気味な殿と一緒に、調べていく。
あの後、こっちが引くくらい目加田と津島の商人から情報がやってきた。
この地図どう見ても機密情報です。本当にありがとうございました。
どうやって、これを手に入れたの!?日野城にある地図より精巧だったりして、蒲生さんから血の気が引いていたりしたんだけど!?
さらに、目加田と津島を移動する行商人達が紹介状片手にやって来た。中には両方の町から紹介状もらっている人もいて、困惑している姿が笑えた。
そんなに緊張しないでいいからね。
そんな彼らの話を聞いて、正確な地図を元に、情報を書き込んでいく。
まあ、当然ともいえば当然だが、日野城から甲賀に抜ける山岳地帯が、一番の難所である。
あいにく、土木事業の知識なんてほとんどないので、できる事と言えば、道を広げる。道を増やす程度だ。
で、日野城前田家の家臣団を各難所に派遣する為に人員配備。個人的には城の改修など土木経験のある人を重点的において、必要資材はどうするか?過去の城の改修で使用した資材から予想量を割り出して…
小姓がやってきて殿に手紙を渡す。中を読んで一瞬顔をしかめた後、オレの方を向いた。
「トシ。書状だ。」
あのね。見てれば忙しいってわかっていますよね?
「大殿からだ。」
Oh…
謁見の間に入ると、大殿とは別に知らないオッサンがいた。
とりあえず、作法に乗っ取って礼をすると、大殿から声がかかる。
「饅頭。お前、面白い事しているらしいな?」
え?この人何言っているの?
金を渡して、やれって言ったのアンタじゃん。
顔を上げると、笑みを浮かべながら一枚の書状を手に持ってヒラヒラしている。
「津島からの手紙じゃ。ワシを脅しているようじゃ。」
ヒョイと投げられた書状を見ると、その中には『街道作成にもっと津島商人を使うよう圧力かけて頂戴』的な事が書かれていた。
「目加田と津島に金を出させる算段をつけたか。どうやった?」
別に変な事はしていない。
値段交渉となるように、利益となる情報を提供したに過ぎない。
コチラの資金は限られているわけで(正確には寿命と引き換えでお代わり可)、少しでも良くするために、どこかから利益を見つけるしかない。
で、目を付けたのが人足に払った給金だ。お金が手に入れば食事をするし遊ぶ場所があれば遊ぶ。作業場近くにそういった場所があれば、給料がそのままそちらに流れる構図が出来上がる。
人足は楽しい職場が提供される。商人は短期とはいえ商売のネタが手に入る。こっちの支払い額に影響なく値引きしてもらえる。まさに三者お得な状況だ。
ついでに、商業路予定地からあたりをつけて、将来商業路の休憩場所になる可能性を教えただけだ。これだって、工事の人足の休憩場所とほぼイコールなので、こちらの手間は最小限でいい。
そうしていたら有力参加者の商人から「商業路開通の為に資金(物資)を提供しましょう」的な話が来ただけである。先行投資という奴なのだろう。早く街道設置が出来れば、長期利益を求める人はその分時間経過で利益が出る。先に良い場所を確保しておけば、後からくる商売敵に対して有利になると見ているのだろう。
その辺を踏まえて、最終的に安いほうを使う。どうやって値段を下げるかは商人が考えてくれる。
なにせ、インフラを整えるのがオレのお仕事。そこから利益を集めるのは向こうのお仕事。
その利益から領民が豊かになる事がコチラの目的だ。
商人の経費の回収方法やそのリスクまでは、知った事ではない。
「ぷっ。はははははは。聞いたか五郎左。両天秤にかけて口先だけで、あいつらに金を出させたらしいぞ。」
「さすが、ホウスウですな。」
誰の事ですか?オレの法名は豊念ですよ?
「納得したわ、津島が青くなるはずだ。」
まあ日野の難所を重点的に解決しようとしている以上、距離の問題から目加田の方が有利だ。津島としては黙っていられないのだろう。だが、工事が津島に近づけば立場は逆転する。まあ、その間にこちらが目加田と仲良くなるのを警戒したのか?
「五郎左。津島とのやり取りはお前がしろ。饅頭。後の事は五郎左の指示に従え。又左には、ワシから書状を書く。目加田とは今まで通りお前がやり取りをしろ。」
「ハッ」
え?どういう事?商業路作成はお役御免。このおっさんに全部丸投げしてイイの?ヤッター。