43 甲賀の実利
伊勢志摩の北畠の居城に再びやってきた。
実利で、甲賀の里の問題を解決させるためである。
で、再び評定の間なのだが、なんだか雰囲気が違う。
前に来た時は、睨まれて、威圧されたのだが、今回はなんか警戒されている。
「日野前田家家臣 三直豊利です。」
「う、うむ。」
上座の北畠具豊も、せわしなく扇子で仰いで落ち着きがない。
あれ?オレ前回なんか変なことしたっけ?
「まず。前回の援軍の件、誠にありがとうございました。」
「お、おう。」
え?なんで、引いているの?
「つきまして…」
おれが、横に置いた木箱を手に取ると、周囲が反応する。
ザワッ。
え?これ別に爆弾とかじゃないよ。お礼の品だよ。なんで、みんな身構えているの?
「…大殿より預かりました。褒美の半分でございます。」
箱を開けると、大殿よりもらった黄金の半分が納められている。周囲の家臣団の眉間に皺が寄り思案顔になる。
あの?何か、内部でありましたか?
「うむ。」
「それと…」
「!?」
コチラの反応にいちいちリアクションを取ってくれる北畠の人達。少し楽しくなってきた。
芸人気質とでもいうのか?
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おかしい。変だ。
「商業路は甲賀の里を抜ける形で、通っております。そこに金を渡し、道を整えます。」
言っていることはわかる。100歩譲って金を渡して言う事をきかせるのはわかる。だが、なぜその金をお前が出す?
甲賀はオレの支配地だ。オレが主だ。オレが命令すればいいだけの話だ。あいつらは従う。従わなければ殺すだけだ。
それでいいはずだ。
それでいいはずだった。
「さらに、商業路の維持管理と、護衛に甲賀の人員を割きます。その費用は、各村で支払います。」
「バカな。なぜ、我々がそんな費用を出さねばならん。商人から取ればよいではないか。」
「より通りやすい道、より安全な道を商人は求めております。つまり、それらの努力を怠らなかった場所にはより多くの商人が来ます。商人が来れば、宿に泊まり、人を雇い、商いをする。その利益で彼らの費用を賄える。それらを怠る者にまで『我々』の利益を分配する必要があるのですか?」
自分勝手な要求をしてくる家臣達。主君の役目はその意見の取捨選択だ。そう教えられてきた。そう学んできた。
お前はオレを利用するし、オレはお前を利用する。そして、どれを利用するか決めるのはオレだと。
なぜ、コイツはオレに利用されようとする!?なぜこいつは自分の利益をオレに差し出す?
「この金を甲賀にどのように分配するかは、北畠様にお任せいたします。すべての村に均等に分け、それぞれで盛り立てるのもよろしいですし、手を挙げた者達に分けて使わせて、競わせるのもよろしいかと思います。」
お前がやればすべてお前の物だ。大殿の命令であるのだから、オレに断る力はない。
なぜ、こいつはオレに利益を提供する!?
先の筒井の援軍もそうだ。
北畠家は何も失わなかった。筒井軍は前田軍が蹴散らした。北畠は合流し上野城を囲んだだけだ。出陣して死傷者皆無。使用した物資に関しても、日野より提供された量のほんの一部だ。
家臣のだれからも文句は出なかった。オレの失敗を願う家臣どもは皆苦虫をかみつぶした顔だ。織田側の家臣だってそうだ。これにどんな裏があるかと警戒していた。
その結果がこれだ。
更に恩賞が分けられ、更に利益が出る。
「おお、こういってみるのもよいですな。『道は一つの村で始まり終わるわけではない、隣村と協力すれば、より良くならないだろうか?』と。そうすれば、かの甲賀の里も何か変わるやもしれませぬぞ。」
「…」
ああ、変わるだろう。元独立勢力の合議制で、まとまりのない甲賀の里を、この莫大な利益で釣ればまとめる事ができるだろう。そのまま、盛んな商業路を持つものが、最大の力を持つ事になる。その為の初期投資の選択権はこちらにある。掌の上で、甲賀の里の力関係を一本化させられるだろう。
それも自主的に。当然、彼らから文句が出る事はない。
なぜ、それを俺に話す。お前がすれば甲賀はお前の物だ。あの父上なら、喜んでそれをさせるだろう。
「…いかがか?」
変だ。絶対に変だ。
取捨選択をするのはオレなのに、捨てる選択はなく、取る選択肢だけが無数に提供されている。