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41 目加田の座

甘かった。

正直、甘く見ていたわ。

商人の貪欲さを。


米商人に話をつけた際、雑談レベルで行商人を紹介してよと話をしたら――



空気が変わった。



いや、ホントに、空気が変わったよ。商人さんの表情は変わってないのに、存在感が変わった。ガチモードにスイッチ切り替わっている。え、何この切り替わり。この商人さん後二回くらい変身残していそうな勢いだよ。「この商品の代金は53貫です。」とか言うのか?


そのまま帰る事すら許されず(目配せで出口に番頭がスタンバった!?)。奥に通され、お茶出し、菓子出し。至れり尽くせり。

1刻後、籠に乗せられ運ばれた先で通された部屋には、正装した人たちがズラリ勢揃いでガチモードである。

ラウンドワン。ファイト。とか言ったら、今すぐバトルロワイヤルしそう。


一番上座にいる老人が、軽く頭を下げて挨拶をする。


「目加田の座の主をしております。」


あ、ヤバイ。これは呑まれたら終わる。光琳和尚の玉砂利正座説教モードレベルだ。

目をつぶり、大きく息を吸う。ここは岐阜城。ここは大殿の謁見前。

心の中で言い聞かせるように、息を吐く。

目を開く。


「はじめまして。日野前田家家臣 三直豊利です。」

「さて、長島まで、道を広げると聞きましたが。」

「左様。岐阜の大殿から指示を受けている。」


周囲で息をのむ音が聞こえる。


「何故に?」

「日野と甲賀は、その地所故に貧しい。だが、貧しさの元となる地所に目をむけた話。目加田より長島への道を切り開けば、美濃尾張を縦断することなく海に出る。」

「10年はかかりますぞ。」

「否。最前に難所の改善を行う。その後、順次不便を改善させる。不完全であろうと道は道。通れぬ道理はない。」


****************



ふむ。雰囲気が変わった。


流石に、流されてはいけないとわかる程度の頭はあるようだ。


だが、まだ甘い。いや、若いというべきか。

才はある。10年も鍛えれば店を持たせるくらいにはなるだろう。

しかし、経験の差は才では補えん。


早々に、底が見えたわ。

フム、難所を先に改修し、その後で他の場所に手を付ける。悪くない。費用は抑えられるし、商業路開通と同時に工事できる。

交易と工事の同時進行で、二度美味い汁をすすれるわけか。


よしよし。米商人はよくやった。この段階で、食い込むことができれば…


「この話は津島にも通す。目加田のみの話でないからな。それゆえ、必要なものは、お前たちが必要と思うものだ。こちらが用意する以上の物を用意するなら、それを使う。」


…こやつ。今なんと言った?

その言葉の意味を理解する。


こやつ。勝てぬとわかり、その身を投げ出しおった!?

それだけならただの愚行。だが、身を投げ出した先は津島商人との間。


一匹の強者に貪り食われるならそれだけだ。だが、二匹の強者が奪い合えば、こぼれる量は増える。さらに、強者がお互いを傷つけあえば、こぼれる量はさらに増える。


は、ははははは。

見誤ったわ。こいつは商人にしてはならん。間違いなく身代を潰す。

こいつは、奪う側では凡夫。だが、与える側で利益を奪う天稟を持っておる。

我ら奪う側からすれば甘露にして天敵。

才無き者には天敵、しかし才持つものなら正しく甘露。


己の身を賞品とし、津島の商人と鎬を削らせ、その上で利益をよこせというか。


面白い!


****************



「して、こちらの支援として何を望まれますか?」


座の主が身を乗り出して聞く。もう、食い尽くす気満々である。

うん、ごめん。まだ何にも決まってないんだ。

とはいえ、そうとは言えないわけで、そうなると独占による弊害が出るから…そうか。


「…この話は津島にも通す。目加田のみの話でないからな。それゆえ、必要なものは、お前たちが必要と思うものだ。こちらが用意する以上の物を用意するなら、それを使う。」


競合させて、入り札制度で行ってみようか。

最初、コチラの言っている意味を理解しかねたのか、一瞬きょとんとしたが、その内容を理解し始めたのか、困惑する周囲とは別に、目加田の座の主がニタリと笑う。



ああ、やっぱこの爺さん。まだ変身残していたわ。


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