39 後始末と褒美
黄金には魔力がある。
箱を開けて、中にギッシリ詰まった黄金がキラリと光ったのを目にした時、本当に生唾飲んだよ。
筒井が人質を出して降伏し、殿は岐阜に呼ばれた。
重臣一同はまだ越前。蒲生さんは伊賀上野城解体を頑張っており、北畠勢は伊勢志摩に帰還済みだ。
つまり、
日野城城代 三直豊利である。
全然うれしくないです。
なんでかって?今回の件の後始末が終わってないのです。
今回の罠の為に、大和と伊賀方面の砦や付け城の兵糧を北畠に提供したのですが、元に戻す作業が待っているわけです。
ここで、今回の作戦で秘密裏に暗躍した状況が重要になってくる。
つまり、オレが秘密裏に兵糧輸送したので、その後始末が出来るのはオレだけ。
城代とかで悦に浸っている余裕がないです。
日野城の備蓄からこれら砦に物資を送るとなると、日野城の備蓄が足りなくなる。となれば、購入するしかないのだが、そのための資金をどこから捻出するか。
しかも、これって安く売った米を高く買い戻す計算になるんだよね。ああ、忌まわしき損失。しかも、確保する量を考えると荒子城の比ではない。
数年がかりの購入計画を立てるか。とりあえず、日野城の古米を砦に送るようにして当座をしのいで、次の年貢から積み立てて…収入が…経費を抑えられるところは…
越前に行った兵が戻ってこなければ経費削減に…
「三直様。」
はっ!?
危うく帳面のダークサイドにはまりそうになった所で、小姓に声をかけられて我を取り戻す。
殿が帰ってきたらしい。出迎えに行こうと部屋を出ると、廊下の向こうから殿が歩いてくる。
顔色真っ青。脇に大事そうに木箱を抱えている。
無言のまま評定の間へ進む。他の武将が出払っているため、オレと殿だけだ。
オレの前に木箱を置くと、一瞬ためらった後、意を決してふたを開ける。
中には、ぎっしり詰まった金板が並んでいた。
…なにこれ?
「お、おお、大殿、から、大殿から…」
殿。テンパりすぎ。
「お、おち、おちつ、おち…落ち着け。」
いや、ちゃうねん。あのね。心臓がバクバクいうレベルじゃなくて、逆に、鼓動止まったんじゃないかって感じのショックなのよ。ショックで心臓止まるって実感できるよ。
いや、もう二人して箱を覗き込んで時間止まっているよ。
「殿。白湯をお持ち…」
バタン!ドタドタドタ!!
小姓が白湯を持ってきた瞬間、殿は箱を閉め、その上に座りこみ、オレは小姓との間に入り、まるで視線を遮るように両手をバタバタと振る。
小姓の目が点。
そりゃそうだ。木箱の上に座り込んだ殿に両手をばたつかせるハゲの家臣A。
これで事態を認識できたら、お前今から軍師だよ。
「あの…」
「さ、白湯。白湯だな。うん。そこに置いておいて。うん。」
「うむ。ようやった。大義であった。」
「…はあ」
困惑の表情を隠しきれない小姓。部屋の入り口から、その離れていく後姿を確認し、廊下の向こう側に見えなくなるまで監視。いなくなってから、いまだ、木箱の上に座る殿の方を向く。
なぜか無言でうなずき合う。
越前の治安維持支援に向かった重臣一同はまだ帰ってきていない。蒲生さんは上野城解体の指揮をしている。北畠の援軍はとうの昔に伊勢志摩に帰還済みである。
とりあえず、黄金が見えなくなったので、冷静さを取り戻す。
「どうしたんです?これ?」
「大殿から褒美としてもらった。」
「ほかに何か言っていませんでしたか?」
「大殿から、書状ももらった。」
「書状はどれです?」
「…忘れた。」
「あんたアホですか?」
「無茶いうな。これを見た後だぞ!!」
なぜかすごい説得力を感じた。
殿と一緒に岐阜に行った小姓が、書状を持ってきたのはすぐ後であった。
この黄金は、対筒井作戦の褒美と必要経費。
そして、筒井対策の条件であった、日野経由の商業路開通の経費の前渡分しだそうだ。
…え?商業路開通もオレがするの?