35 北畠具豊
殿と奥村様と協議をし、最終的に大殿の許可をもらって筒井対策を取る。
そして、その準備として、オレは伊勢志摩を支配する北畠具豊の元を訪れたのである。
前にも話したが、北畠当主の北畠具豊は、織田信長の次男である。
侵略したあげく、後付けで自分の息子を養子(強制)にして、支配するという力技で手に入れた土地である。
当然、その内情はピリピリである。荒子城とレベルが違う。
現段階で具豊は家督を相続していない。彼の義父にして、織田に降伏した北畠具教が当主なのだが、すでに形骸と化し具豊が我が物顔で統治している。
具豊君の選択肢に「慰撫」って言葉があるのか激しく疑問です。
敵意煽っているようにしか思えん。
まあ、他家の事なので、知らんけど。反乱だけは勘弁してくれよ。ここが反乱されると、長島の比ではない。
そんな旧臣連中がいる所に、織田家家臣として乗り込むわけだから、敵意がすごい。しかも、織田家の家臣は家臣で、オレに何かあれば大殿がやばいと、やっぱりピリピリ。
もう、荒子城が蠱毒の壺とかってレベルじゃないね。溶鉱炉だよ。未来から来た液体金属ロボットも溶けるくらいだよ。マッチョロボットがサムズアップで沈んでいくぞ。
評定の間へ通される。
あれだ、空気って重さがあるんだな。体感レベルで空気が重い。きっとここに、重力発生装置あるよ。たぶん、野菜王子とか頑張って修行しているに違いない。
と、ギャグを言って心の中の空気を和ませたくなるほど空気が重い。
「して、前田殿の配下の方が、何のようか?」
顔を上げた先にいるのが、大殿の次男にして、北畠の(実質)当主 北畠具豊である。
平伏から顔を上げる時に、床についた手の筋肉使ったよ。こんなの初めてだ。
****************
顔を上げる坊主頭を見て、苦虫をかみしめるように用件を聞く。
聞くまでもない。どうせ厄介事なのだ。
実家を放り出されて4年。こんな陰気な場所で、日々を過ごさねばならない自分の身を何度呪った事か。
「はっ。本日はお願いしたき事があってまいりました。」
ほら来た。あたりまえだ、用がなければ誰がこんなところに来るものか。その上、こちらの都合などまるで考えない、自分勝手な“お願い”と来たか。
「この件に関しは、大殿も合意された内容にございます。」
だろうな。手回しの良い事で。すでに断られる事はないと決まっているのだろう。ご威光のように振り回すそれが、虎の威を借る狐である事をわかっているのか?胸糞悪い。伊勢志摩にあっても、家臣どもの自分勝手な要求になんど、憤りを抑え込んだことか。
「その前に、これを…」
懐から取り出した書状を前に出す。
小姓を介して手に取ると、その中には、物資の一覧が記されていた。
「(そういう事か)」
父上が近江で浅井相手に大戦をするという話は聞いている。
その為に兵糧を出せという話か。そんな物自分でそろえろよ。どうせ、兵糧を出したところで、手柄はお前たちの物だ。おれはこの僻地で、オレの失態を喜ぶ家臣の目を気にしながら、生きていくしかないというのにな。
「で、これだけ用意すればいいのだな。」
どうせ、兵糧を出せば家臣どもは騒ぐのだ。かといって父上の命令を無視することなどできようはずもない。
その内容を察知した家臣どもが色めきだす。
つまり、この恰好のネタが、声を上げるだけの家臣どもを喜ばせるのだ。
どいつもこいつも…
「いえ、とりあえず。お納めください。」
「…は?」
坊主頭が、ニコリと笑った。