33 傾奇者
さて、突然話は変わるが、当家には問題児がいる。
「慶次郎様。お待ちください!!」
その者の名は、前田慶次郎利益。当主 前田利家の甥に当たり、家中でも重要人物である。
武勇に優れ、見目麗しく、礼法に詳しく、古書に精通する風流人。
で、何でそんな彼が米俵を担いで逃げ回り、そして、我が腹心の勝豊君がそれを追いかけまわしているのか。
まあ、ほとんど風物詩となりつつある。前田慶次郎事件簿のひとつだ。
もう、ここ最近の日野城の話題独り占め、喧嘩、大酒飲み、恐喝、盗み、危険走行(騎馬)、夜間の馬鹿騒ぎ。と、素敵すぎるDQN行為に、殿をはじめ重臣一同頭を抱えている状況である。
オレ?オレは楽しく見物しているよ。だって、当事者じゃないもん。
問題解決も後始末も殿と重臣達の仕事で、せいぜいチョロマカシた分の帳面の修正程度。当事者の勝豊君は大変だけど、オレの仕事は慰める程度です。
対岸の火事って、いいね。見ていて楽しい。聞いて可笑しい。
…そう思っていた時期もありました。
『ハゲて候』
お前、こんな事を頭に書かれたまま、公衆の面前で1日過ごしたことあるか?
あ?犯人?あいつに決まっているだろう!!
朝、登城したところで、その犯人に出会ったのだが、完全に油断していた。その時あの野郎。手に具足一式を持って、こういいやがった。
「三直殿。三直殿の具足を改めましたが、これでは、戦のときに思わぬ不覚を取りましょう。それがしが直しましたゆえ。着てみてくだされ。」
なんて、言うわけよ。
最初は、鎧を着るのを手伝いますとか言っていたけど、さすがに殿の甥っ子にそんな事をさせられない。自分で鎧一式をつけたわけ。うん。確かにオレの具足(元荒子城備品)って、足軽用+αの粗悪品だったわけだが、武士になるに当たって、いろいろ追加パーツをつけたりしたわけだ。その部分を、きれいに調整してくれたせいで、一見するときちんとした武士の鎧になっていたのよね。
オレは感激したよ。
「おお、これはすばらしい。慶次郎様。ありがとうございます。」
「いや、なに。立派な益荒男でございますな。では、どうぞ。」
ガポッ。
と、慶次郎は手に持った兜をかぶせた。
この時だな。間違いない。ってか、このとき以外にありえん。
兜の内側に墨を塗って置いたか。
なるほど、なるほど…
やってくれた喃、やってくれた喃、前田慶次郎利益!!
その行為。宣戦布告と判断する。当方に、復讐の用意あり。
覚・悟・完・了!!
帰ったら、加奈さんに爆笑された上に、その後怒られた。
つまり、もうあいつに容赦する必要はないということである。