30 意味わからん
元亀四年四月
大殿に相談するために、岐阜に来たのだが。
岐阜城はわきかえっていた。
なんでも武田信玄が死んだらしい。
そういえば武田の侵攻があったな。去年の12月あたりに、徳川がボロクソに負けたらしい。
第二次長島侵攻の後、3か月も殿の城主就任が遅れたのが、この武田のせい。そのおかげで、オレの結婚とか移転の準備ができたんだけど。普通なら、残務作業でオレは荒子城に居残りだったのよ。
まあ、そんなわけでアポナシ突撃できるような状況ではなく、正規の手順で面会を頼み、それまで、岐阜にとどまることになったのだ。
さて、前田利家は日野城主になった為、岐阜に屋敷はなくなっており、オレは蒲生さんの息子である蒲生 賦秀君の所に厄介になっている。
人質生活なんて、大変だろうといろいろお土産を持ってきたのだが。
…え、何このセレブ。
なんでも、人質になる時、織田信長にえらく気に入られ、そのまま信長の次女と結婚して、今に至るそうだ。オレ、漬物とか干物とかをお土産に持ってきちゃったよ。
これは後で奥様に…って、織田の姫様が炊事場で飯を作るわけがないじゃん!下女に渡しておこう。
なんていうか賦秀君。エリートオーラバリバリだね。本当にあのお父さんの息子なの?いやいや、お父さん馬鹿にしているわけじゃないのよ。美男子だし。ピシッとしているし。ハゲの小坊主じゃあ、役者どころか素材が違うって感じだ。
「おや。三直殿はどこかの寺にいたのですか?」
「は?ええ、確かに。それがしは寺の出ですが。」
「なるほど、所作が整っておられる。が、それは寺社の作法。武家の作法といささか違います。どれ、少し教授しましょう。」
とか、言うわけよ。なにこの完璧超人。もう壁ドンする心を恥ずかしいと思うレベルだわ。
間違いなく、この人はウチの殿より上にいるね。孫子を前に燃え尽きている殿と比べると、一目瞭然だね。殿の上位互換だね。頭もいいし、武勲も挙げているので腕も立つ。完璧ジャン。
冬姫様とも話したけど、きれいな人だったよ。陪臣のオレにも普通に声をかけてくれるし。「漬物をありがとう。」だって。食ったんかいあの土産!?
日野の話をしたり、手紙を渡したりしたせいで、結構な歓待を受けた。
ホント、ええ人や…
3日後。オレは大殿に呼ばれて、登城した。
「…」
オレの提出した書類を読んでいる。
『こんな事がしたい』『そうすると、こんな事ができる』『そのためにはこれが必要』を列挙しただけの簡単なものだ。
「…」
「…」
「…」
「…」
別にプレッシャーってわけじゃないが、発言もないとアクションとれないじゃん。
ずっと平伏している状態って腰に来るね。湿布とか誰か持ってなかったかな?冬姫様が手ずから張ってくれたりして。デヘヘヘ。いやいや、オレ新婚ジャン。加奈さんこれは浮気ではありません。医療行為です。
「饅頭。」
「ハッ」
声をかけられて頭を上げる。うわ、超睨んでいます。別に、大殿の娘にいかがわしい事を頼むわけではありませんよ。やましくない立派な医療行為ですよ。
「…」
「…」
「筒井じゃ。」
「は?」
「筒井をだまらせろ。潰してもいい。」
「はぁ?」
「それができたら、やってやる。」
「え?いや。あの…」
「やれ!」
「ははっ」
ごめんなさい。意味わかんないんですけど。