29 水利権
調停をしてわかったが、水利権の問題がここでは重い。
平地で豊饒な荒子城でも、確かに水問題があったが、それでも豊富な水源のせいで、そこまで死活問題に直結しなかった。
しかし、日野は山地。水源は限られ、さらにそこから得られる水量も限られている。わずかな差が、生死にかかわるのだ。
そもそも、日本の農業である稲作は大量の水を使う。有効に使うために様々な工夫がされてはいるが、使用する絶対的な水量は決まっているのだ。
結果、水利権のトラブル発生。荒子城では特に重要視していなかったため、荒子城勢力は新領地で半分パニックを起こしかけている。
ええ、ええ、そのフォローがぜ~んぶこっちに回ってくるんですよ。はっはっはっはっは
…笑えよ。
余りの多さに、地元民の蒲生さんに確認したが、その辺の問題は日常茶飯事で、刃傷沙汰になることも珍しくないらしい。
その時の対処法は?と聞くと、武力鎮圧すると、やがて争う体力すらなくなるのだそうだ。
修羅の国の発想だな。
流石に、この回答に殿もドン引きだ。
「…トシ。」
殿のすがるような目が向けられる。だが、無茶いうなよ。物資管理だってカツカツでやっているんだよ。治水(というか水資源増加)なんて知識全くないぞ。
「平地の開墾を奨励してみます?」
「いやいや、畑を増やしても水量が限られているのです。水がいきわたらなければ無駄になります。荒れ地を増やすだけです。」
蒲生さんの反論にグウの根も出ない。農地が増えても、水が足りないから稲作にならない。ただ荒れ地を増やすだけだ。酪農するにしても、何か特産物を作るにしても、そもそも米が作れない以上、他のもので補って生きているのだ。そんなものを模索して実践する余裕がない。
人手を増やして余裕を持たせようにも、自給できないのだ、逼迫するだけで問題が悪化するだけだ。
「いっそ稲作を捨てるか。」
周辺地図を取り出して確認する。
なんてことはない、ここに商業路を作ろうという話だ。
前にも話したが、日野城の北は京都と美濃尾張をつなぐ街道が通っている。では、その道につながるように日野から南回りで長島につなげる。
これの利点は、今まで美濃から尾張へ行かねば海路に行けなかったところを、伊勢への直通ルートにする事で、津島港に荷物を運べる計算になる。
さらにこの場合で注目する点は、琵琶湖の水運を利用できる点だ。目加田の町で荷を下ろし、そのまま日野を経由して長島に出て、そこで海路に連結する。
「それで、何とかなるのか?。」
「街道を設置しても、この近辺が難所である事は変わりません。人足。休憩場所。宿泊。人が足を止める場所はいくらでもある。それを使えば金がかかる。領民に金が落ちる。」
「金が入っても米は入ってこないだろう。米はどうする?」
「金で買えばいいんじゃないですか。それに、稲作は最低限にするだけで、0にするわけではありません。金で米が手に入るようになれば、米以外の物を奨励して育てさせる余裕も出てくるかもしれません。」
「悪くはないが、できるのか?」
「今の段階では、不可能でしょうね。」
これをするには大殿に相談しないとだめだな。