24 嫁登場
さて、先にも話したが、オレは武士ではない。
こんな時代、誰でも武士を名乗ることができる。しかし、武士としての社会地位を手に入れるには、名乗るだけではだめなのだ。
当たり前である。信用問題ってものがあるのだから。信用できると認めてもらって初めて、武士として忠誠を求められるわけだ。
そういう意味では、三直家を認めるというのは、ものすごい褒美である。とはいえ、これだけでは片手落ち、名前が付いただけで実績はない。そこで、今回の奥村家との婚姻になったわけか。
そうなると、三直は奥村の分家ってククリになるのか?いや、殿からは縁続きなだけで、関係はないって言われているし、家臣内での友好的同盟って話か?
パチッ
「…」
「…」
で、目の前に俺の嫁(予定)がいる。
涙目で碁盤を見ている。
オレの結婚が決まってから数日後。オレの元にスゴイ格好の女の子がやってきた。槍を持って鉢巻き姿。今日はなんか訓練とか予定していたっけ?
これが、オレの嫁(仮)の奥村 加奈さんらしい。なんか槍を持ってきて「一手勝負をお願いします。」と言ってきたので、即座に「お断りします」と答えてあげた。
「女相手に逃げるのですか?」
…お前ね。
オレの今の状況見て言っているの?
伊勢長島を相手に、オレは半年かけて暗躍し、致命傷ともいえる大打撃を与えた。
半年かかったんだ。
その間の仕事は全部勝蔵君達に任せたんだけど、当然全部できるわけはない。長島に悟られるわけにはいかなかったので、荒子城には一切帰れなかったから、貯まった仕事の量は半端ではないのだ。
分かるかい、期限切れの書類に、詫び状添えて手続きするストレスってすごいのよ。責任を大殿に丸投げしたいけど、まだ、長島侵攻始まってないからそうもいかないし。
そんな中、アポナシ突撃の脳筋発言である。カチンと来るのもわかってもらえるだろう。
よろしい。ならば戦争だ。
「わかりました。では、そこにある盤を取ってください。」
「はい?」
「碁笥(ごけ:碁石入れ)を出して。」
「は?いえ。あの」
「私は今、お役目中です。その上で、勝負をつける方法です。それとも、逃げるのですか?」
同じ言葉で返す。向こうもカチンと来たようだ。
「逃げません。い、いいですとも。受けましょう。」
というわけで、素人相手に大人げなく勝ちをおさめました。
「…ず、ずるいです。」
「何がですか?」
「私は、碁などした事がないのに卑怯です。」
「ほう。私は槍など学んだ事がありません。そんな相手に、槍で勝負を挑むのは卑怯ではないのですか?」
「や、槍は武家のたしなみです。」
「囲碁も武将のたしなみですよ。」
「う~う~」
なにか、涙目でうなっている。というか、言い訳が出てこないのだろう。
あのね、オレまだ仕事しているの。今も仕事しているの、昨日も仕事しているの、そして明日も仕事しているんだよ。
「ちなみに、何しに来たんですか?」
「しょ、勝負です!」
「では、勝負はつきましたね。」
「ま、まだです。」
「はい?」
「あなたの言うとおり、囲碁で勝負はしました。では、次は私の言うとおり槍で勝負してもらいます。」
呆れて顔を見ると、どうだと言わんばかりの満面顔。
「わかりました。」
「では!」
「まいりました。私の負けです。これで一勝一敗ですね。お疲れ様でした。」
「…」
しばし呆けていた加奈さん。やがて顔を真っ赤にして「う~う~」うなり始めた。
「ずるいです。ずるいです。ずるいです。」
流石に、ここまで騒がれると、温厚なオレだって切れる。
よろしい。お前に我が主君である前田利家様を意識改革させた奥義『論理説教精神矯正』の術を味あわせてやろう。
ゆっくりと、加奈さんの方を向いて座り直し。
いざ!!
泣かれました。ごめんなさい。
よ、よもや我が奥義が初見で返されるとは!?
とりあえず、涙を拭いて、鼻をかませ、謝り倒して家に帰ってもらった。
ところで、オレ衝撃の事実を知ったんだけど。
奥村 加奈さん
14才
違う!!違うんだ!!これは罠だ!誰かがオレを嵌めようとしているんだ!!
『犯人は殿』と書いて、布団をかぶって寝ることにしよう。
豊利、オレは疲れているんだよ…




