18 長島暗躍~その1
独立勢力というものがある。
戦国時代、勢力として権勢を誇れるのは何も武士だけではない。
「力こそが正義!良い時代になったものだ」である。
つまり、ヒャッハーだな。大規模なヒャッハー集団が勢力として確立されている。それを大名家と呼んだり、あるいは忍の里と呼ぶわけだ。
忍者と呼ばれて思いつくのが黒装束を着て、「闇に隠れて生きる」的な物だが、この世界でそういうことできる奴は少ない(多分)。
この時代の忍者って山賊とか狩人の集団に近い。
ようは、マタギの隠密能力とか、山賊が野生で鍛えた足で駈け抜けるとか。実際見てみるとそれほどすごいわけじゃない。
甲賀とか伊賀って、水はけの悪い僻地にある。つまり、農業ができなくて、野山で生活するしかないってだけの人達なわけで、日常でそういう生活をしていれば、局地戦に強くなるという寸法だ。
その局地戦特化を売りにする傭兵集団なわけだ。
「つまり、我々は比叡山での暴挙に対し、怨敵織田信長に仏罰を与えんとしているわけです。」
黒い法衣を着て、板の間でオレが話す相手は、甲賀忍者の五十三家の一つ。美濃部家の頭領である。
まあ、五十三家と言っているが、一家の内容は荒子城より悪い。オレが代官する一向宗の村よりましな程度だ。まあ、そんな家が五三個以上あるのだろう。集まれば、一大勢力だな。
まあ、つたない変装(?)をしてオレがここに来ているのは、理由がある。
「つきましては、長島と連携を取りたい。ツテをお借りしたい。もちろん、ただとは申しません。」
と、金の入った袋を前に出す。
「ほう、一向宗と手を組むと。」
「派は違えど、仏敵を罰するに手を携えるのは、やぶさかではございません。」
そこで、にやりと笑う。
「とはいえ、長島がそう思うかは分からないわけです。うちの宗派にも、頭の固い者がおりますゆえ、事前に話の分かる者を調べておく必要があるというわけです。」
発言内容を、あえて曖昧にさせる。相手が勝手に誤解してくれるからだ。
「して返事はどちらに?」
「尾張荒子の光悦和尚の元に持って行っていただければ、問題ありません。」
「はて、あの辺りに寺なぞありましたか?」
「寺をあずかる僧の名が、光琳和尚と言えばわかりますか?」
「光琳殿はなくなられたと!?」
「…織田の目は鋭いですからな。」
そう言って意味ありげに目を細めて笑う。後は光悦和尚の前世(?)の確認をすれば、天台宗の蜂起は真実味を増す。
そして、本願寺(一向宗)と比叡山(天台宗)は、仲が悪い。別宗派で京都にも近く、京都の取り合い…ではなく、教徒の取り合いなんぞをしていたわけだ。
オレの「相手は慎重に選ばなければ」というスタンスで、怪しまれることはないだろう。タイムリミットは半年。下準備には十分である。
さて、ここが次の家か。
はいどうも、美濃部家の“ほう”からきました~。少しお話イイですか?
いや、ちゃんと紹介状はあるからね。
そんな感じで、4ヶ月もすると、オレは甲賀で歓迎されるようになる。そりゃ、津島の支援を受けて天台宗の一揆を画策する人間。そして何より金払いが良い。
まさに、上客という奴だ。
そんな人が週1で通ってくれば、どこだって歓迎しようというものだ。
こうして、甲賀からの情報が集まり、長島についてわかってくる。
別に、それは長島の城の構造と機密情報ではない。
オレが調べたのは人間関係。
人間3人もいれば派閥ができるというけれど、そのとおりで、莫大な人数を抱える一向宗の内情も派閥で形成されている。
大きく分けて、長島には二つの勢力がある。古くから寺社の力が強い地元密着の地元勢力。もうひとつが、一向宗本拠地である石山本願寺から派遣された勢力。
本部から来たエリートと、地元密着のたたき上げ。当然その間には溝がある。
坊主と言えども、霞から金銀兵糧を出せるわけでもなく、勢力を維持する為の基盤がある。
地元派は長島の経済圏を基盤とし、石山からの本部組は近畿から海路による補給を基盤としているので、歩み寄りもない。住み分けて終了だ。
そこを狙う。