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129 茶番劇の破綻

天正九年三月


加賀前田軍は織田与力の軍勢をもって越中魚津城へ進軍を開始。

上杉家もこの動きを察知していたが、昨年に甲斐武田家が滅んだ事で、甲斐を統治する柴田勝家にも対応する必要があり、越中に出陣した戦力はそう多くはない。

軍神上杉謙信なら加賀前田家を速攻で撃破した後、とって帰って甲斐の柴田家を攻撃するとかウルトラCが出来そうだが、そんな化け物が越後にいないと祈ろう。


あれから、兵糧準備と並行作業で行った直江兼続との密談は大筋で合意されてた。

与力の軍勢で魚津城を囲み、越前加賀本隊が上杉景勝と対陣。双方の本隊が消極的に戦闘を一ヵ月ほどくりかえす。五月に入り兵糧が乏しく田植えが必要な上杉軍は越後へ撤退。それを見て、魚津城が降伏。あとは、魚津城の捕虜の助命返還を含む形で降伏勧告が越後へ向かう。

上杉家は加賀能登越中を差し出す事で越後安堵。上杉景勝は本拠地越後を守りきった名声を手に入れ、さらに大国織田家に二年に渡り戦い続けた事実を元に、上杉家の名と血を守る。

一月と持たず滅ぼされた甲斐武田家に比べれば、十分な実績と言えるだろう。

すでに安土の大殿とも話はついており、明文化こそされていないが、越後上杉家降伏の許可は下りている。

もちろん、ここで手のひら返すこともできるのだが、それをやったら越後は間違いなく地獄と化すだろう。




天正九年四月

予定通りに越中魚津城を囲む。堅城魚津城には上杉軍先遣隊の斉藤朝信や上条政繁などの宿将が入り、その後方天神山城に上杉景勝の後詰めが陣を張った。

前田軍は進軍当初から魚津城を積極的に攻める事はなく、上杉の後詰めが来ると、あっさりと包囲を解いて対陣。魚津城からは、口合戦とも言うべき罵詈雑言が飛ぶが、前田利家は動く事はなかった。

その理由は明らかだ、能登の佐々軍の到着を待っているのだ。今ある加賀の軍勢でも数で勝り有利に戦えるが、あえて万全の態勢を整える事を優先する。その隙のない戦い方に、上杉軍の歴戦の武将達も手をこまねいて見ている事しかできなかった。




天正九年四月二十四日

能登佐々軍到着。三日後の二十七日に、魚津城攻撃を開始する事が戦評定によって決まる。




オレは本陣で帳面片手に、今回の北陸侵攻の大詰めともいえる戦いの物資を取りまとめていた。予定ではあと一カ月ほどで終わる戦いだ。

もっとも、だからと言って一ヵ月分の備蓄だけで良いわけもなく、半年の戦闘が可能なだけの物資を用意している。

実際問題、北陸前田家といっても無限に物資があるわけではない。越前加賀が急速に復興を遂げているとはいえ、能登の侵攻とその後の支援に、石動山合戦、二年に渡る越中侵攻に、上杉家への秘密裏の援助が加わり、この戦いで北陸前田家の備蓄も底をつくからだ。

まあ、底をついたとしても、織田家に支援要請する事も可能だし、その為に甲斐武田討伐の点数稼ぎもしている。

それに、使ったのはあくまで今の備蓄分だ。上杉援助はもう終わっているし、能登越中に関しても、これ以上の支援は必要としない為、今後は余計な支出はない予定だ。

次の九月の収穫で備蓄はできるし、越前加賀の復興分に、新しく手に入れる越中分が入る為、使った分の補充も予定より早く回復するだろう。

危ない橋もわたったが、すべてが予定通りだ。

オレは安堵の息を吐く。

これで…




西暦1581年(天正9年)四月二十五日

羽柴秀吉からの知らせが届いた。

本陣にもたらされたその手紙を読んで前田利家が膝から崩れ落ちる。



明智光秀謀反。本能寺にて織田信長死去。

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