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126 石動山騒動~その3

石動山の乱。


後にそう呼ばれる能登霊山の蜂起は、石動山の思惑おもわくとはかけ離れて進行していた。

万全を期して攻めかかった七尾城では予想外の反撃を食らい。数日で落ちると見ていた攻城戦は、予定日数を過ぎても落ちる気配すらなく、逆に被害を出し続けている。

それどころか、蜂起後僅か3日後に越中に向かっていた織田軍が能登に帰還。最初は誰もがその報告を誤報だと断じていたが、現実は非情である。

進軍してくる万の兵を前に、石動山は混乱した。

急遽、七尾城攻略をあきらめて石動山に戻ろうとするも、初動の遅れと混乱からその行動は遅く織田軍に捕捉。さらに、追撃に城を出た七尾城の兵に挟撃される形で、甚大な被害を出した。




「…ふー」


ため息を一つついて佐々成政は、送られてきた書状を畳む。

それは、越前一乗谷の真言宗『真乗寺』からの手紙であった。その中に書かれている事は、石動山の助命嘆願ではなく、同じ真言宗の石動山を弾劾する内容だ。

これで、石動山の蜂起による影響力は衰える。宗教で最も恐ろしいのは全国規模の影響力だ。一向一揆を見れば、敵対した織田家がどれだけ苦労したかわかると言えよう。

だが、これで北陸真言宗は一枚岩ではなくなった。石動山の蜂起は、仏教の一大宗派真言宗の総意ではなく、北陸真言宗石動山の意見でしかなくなる。

北陸石動山の蜂起が、宗教的に飛び火する可能性は格段に落ちるのだ。

手紙に書かれている日付を見る。これが書かれたのは、石動山が蜂起してからだ。自分たちが能登に帰る時でも、石動山を包囲してからでもない。

それが何を意味しているのか。

これだけ整えられれば、成政にだって嫌でもわかる。

加賀一向一揆の愚を避けるために、手を打っているのだ。一乗谷を差配していた男の名は…


「…久しぶりだ」

「?」

「何もかもてのひらの上のいくさというのは…」


困惑する利長に笑って見せて、成政は石動山へ引導を渡すべく、使者となる部下を呼んだ。




守山城跡の陣で、オレは暇を持て余していた。

なんという事はない、物資の取り纏めに関して最初こそハードであったが、一通り終わってしまえば、他に作業があるわけでもない。

前田本陣では、周辺地域への偵察と、越後上杉の動向を探るために斥候が放たれている。越中平野を見下ろす守山城を失った今、越後上杉は防衛線を下げる必要がある。

前田軍はそこを見極めて進軍する予定だ。


だが、問題はそこではないのだ。

今回の守山城落城は、上杉家と織田家との茶番劇。オレが間を取り持ったこの関係を、上杉が飲んだ事を意味している。

要は、この『出来レース』でどこまで向こうが妥協したかを見極めるのだ。


9月の年貢の季節を終え、越後にも余力が出来てきた。しかし、武田家亡き後、越後上杉家だけでは、織田家に対抗する事はできない。その為に必要なのは時間だ。

しかし、安易な時間稼ぎはできない。その時間が、甲斐を手に入れた柴田家が体勢を立て直す時間になるからだ。

越後上杉家は絶妙なバランスを保つ必要がある。


それを見極めるのが、今回の石動山蜂起だ。今回の守山城攻略の停止は、石動山をいつ蜂起させるかと言うタイミングで決まってくる。そしてそのタイミングを決めるのは石動山でも織田家でもなく上杉家だ。

つまり、やろうと思えば上杉家は守山城が攻撃されるよりも早く、石動山を蜂起させることもできる。そうすれば、わざわざ守山城を放棄する必要もない。

もしも、上杉家がまだ織田家に対抗する意思を持っているなら、肥沃な越中平野を見下ろす守山城は絶対に保持する必要がある。それを手放したという事は、上杉家は織田家に降る方向に傾いているという事だ。


後は、双方の妥協点を探すだけだ。




天正八年十二月

越前より織田家与力の不破直光、金森長近らが能登佐々軍に合流。

それを待って佐々成政は石動山攻撃を開始。

すでに政治的にも戦力的にも孤立している石動山に、圧倒的戦力差を覆す事はできず、完膚なきまでに叩き潰された。

北陸の比叡山とも呼ばれるこの凄惨な戦いにより石動山は壊滅。3百を超える僧房のほとんどが消失し、多くの文献が消え、修行場の霊山としての機能を失った。


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