125 石動山騒動~その2
越中の前田軍本陣に次々と伝令が飛び込み、能登石動山蜂起の続報がもたらされている。
そんな前田家本陣には、城攻めをやめた佐々成政に前田利長が集まっている。
「石動山の勢力は約6000。七尾城には1000程度だ。急いで戻る必要がある」
一定の報告が集まったところで、佐々成政が口を開く。自分の本拠地での反乱だが、驚くほど落ち着いていた。それは、もちろん今後の対応まで事前に話しているからだ。
茶番のように、オレは既に決まっている事を口にする。
「佐々様と、利長様は能登へ向かってください。兵糧に武具はここに置いて行って結構。ここでは早さこそが重要となります」
「兵糧に武器を!?」
前田利長様が驚きの声を上げる。ああ、そういえば殿や加賀の重臣、佐々様や長様には話したが、利長様はいなかったな。まあ、加賀と能登だけでの話だったし仕方がない。他にも、今回の話を知らない前田家(&佐々家)の武将もいる。彼等への説明を省く必要もあるからここで話しておこう。
「左様。兵糧に関しては越中の城から提供させます。すでに伝令は出ており、準備をしているでしょう」
石動山の蜂起が予定されている段階で、こちらも準備を整えていた。一刻も早く軍勢を能登へと戻す為に、まず足の遅くなる原因の兵糧と武具を捨てさせる。
置いて行く分の兵糧に関しては、能登と越中から提供する。その為に、越中から能登への間にある城に十分な備蓄を用意してある。なにせ、城の蔵に米を入れるという年貢徴収作業をやったのはオレだ。同時並行作業はいつもの事でなれている(ハイライトの消えた目)。
もちろん、能登へ戻る兵数も概算が出されている。守山城攻略で減りこそすれ増える事はないのだから、どれだけ食料を用意すればいいのか算出するのは簡単だ。
「兵の武具は?能登と越前の兵は一万を超える。その武具は?」
「加賀ではここ二年の間、武具を買い集めておりました。その武具を能登でお受取り下さい」
「二年って、え?加賀を取ってからずっと?」
呆けたように聞き返す利長様。
そういえば、利長様と戦場に立ったのは初めてだな。まあ、他の人の目もあるからなれなれしくできないが、後で教えてやるよ。経費で使った分は回収するよう計画は立てるものなのだよ。
今回の決戦の為に、越前軍が加賀を通って越中に入っている。その行軍に合わせて、加賀の国境にある城に、買い集めた武具を集めておく。軍勢が武具を運ぶ事は不自然な事ではないから、その移送に疑問を持たれる事もない。途中で運ぶ武具の数の増減を認識できるのは、実際に作業をした越前内政官でオレの元副官でもあった中野勝豊と、今回の戦の備蓄管理統括者であるオレだけだ。
ついでに、貴重で高価な鉄砲に関しては、すでに能登七尾城にある。弾薬に関しても“十分以上に”七尾城に運んである。七尾城防衛だけを想定しての話ではない。
そして、今回あえて佐々軍は守山城を囲むだけで城を攻めるのは最小限にした。当然、兵としての疲労も少ない。
見る人が見れば、あの猛将佐々成政が消極的すぎて不自然に見えるだろう。まあ、見えたところでどうしようもないんだがな。
冬の北陸だが、そこも対策をとっている。なにせ、常備賦役者を能登、そして越中に呼び寄せているのだ。つまり、加賀から能登までの道と、能登から越中への道の補強と拡張だ。
そもそも、常備賦役者を設立する理由となった敦賀から琵琶湖までの整備に始まり、越前から加賀への街道の整備と、常備賦役者は道路の拡張整備にかけて熟達している。
大事な事なのでもう一度言うが、年貢徴収と同時並行作業はいつもの事で慣れているからな(空虚に笑う口元)。
もちろん、積雪による悪路であることは避けられないが、その行程は十分楽になる。
常備賦役者による半年の突貫工事の施工後初めての冬だ。その効果を実感するのは、能登から越中に向かう佐々軍が初めてだろう。
少なくとも、石動山に能登の反織田勢力、上杉勢がその事実を知る事はない。
「利長。呆けている時間はないぞ。急いで準備せよ」
「…は、はい!」
殿の言葉に利長様が慌てて返事をする。
どうでもいい話だが、越前軍(利長軍)と合流してから、殿の張り切りっぷりがハンパない。まあ、息子の利長と一緒に戦うのはこれが初めてだからとおもわれる。向こうだって初陣じゃないのに…
なんというか、大物ぶろうとデンと構えている姿に違和感を覚えたのは、些細な問題だ。
まあ、頼れるお父さんを演技しているのだろう。
「よいか。くれぐれも、能登では内蔵助(佐々様)の言う事を聞くんだぞ」
殿。台無しです。
「守山城から上杉勢が引きます」
能登への帰還を始める織田軍の動きに合わせるように、煙を上げる守山城から上杉の軍勢が撤退している。
石動山蜂起により前田軍は守山城の包囲を解いて兵を引いている。しかし、それまでの猛攻ですでに守山城の施設はあらかた破壊されていた。歴戦の上杉家の武将たちは、このまま、この場所を確保し続けるのは難しいとかんがえたのだろう。
「奥村。どうする?」
「このまま見逃して、守山城に入りましょう」
「見逃すのか?」
「はい。上杉軍が逃げる先は越後。追撃した結果、上杉家の援軍と鉢合わせする可能性があります。このまま見逃せば、援軍は敗走する兵を収容して帰還するでしょう」
さらに、地図を広げて守山城の位置を確認する。
「守山城の城郭は壊れたといっても、その立地は防衛に適した高台です。万が一、上杉家が守山城を奪還しようとするなら、我々が守山城に入る事で挫く事が出来ます」
「そうか。よし、上杉軍が引き次第、陣を移す。周囲の警戒。それと、退いた上杉軍の動向などの斥候も忘れるな」
「「はっ」」
頭を下げる家臣一同。
で、オレは物資の守山城跡への搬入と、ついでに能登越前軍の置いて行った兵糧と武具の取り纏めがあるんですね。
わかります。