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124 石動山騒動~その1

天正八年十一月


佐々様率いる能登軍の再編成が完了した。越前からの補充兵で補ったとはいえ、能登侵攻で出た被害から、わずか半年足らずで回復である。

誰かのデスマーチによる血と涙と慟哭については、目を向けないようにしよう(トラウマ)。


こうして能登佐々軍7000は、越中への進軍を開始。後に残るのは、長連龍様の七尾城の1500ほどの兵である。

同時に、越前から前田利長率いる5000の援軍が越中に向かう。

越前加賀能登の連合軍。いくら堅城守山城といえども、今回は守りきるのは難しいだろう。

同盟者であった武田家が滅んだ事で、上杉景勝も簡単には越後を離れる事が出来ない状況だ。直江信綱に河田長親かわだ ながちかといった重鎮を援軍に差し向けようとしているものの、今回の兵力差からすれば援軍が到着するまで守山城が持ちこたえる事すら難しかった。

先の武田家滅亡と相まって、上杉側の士気もそう高くはない。




能登軍と越前軍の合流を待って、守山城攻撃は開始された。

越後からの援軍は間に合わず。すでに守山城は包囲されている。たとえ、援軍が現れても守山城に入ることは簡単ではない。さらには、越後からの援軍を警戒するように能登佐々軍は、城攻めに加わらずに、包囲したまま周囲を警戒している。

圧倒的な攻撃を前に、2日目の夜には正門を破壊。周囲の櫓や城壁にも甚大な被害が出ていた。あと数日と持たずに、守山城は落ちるだろう。

上杉側に逃げ場はない。


そこに、緊急を知らせる伝令が入る。


『石動山蜂起』


青天の霹靂ともいえる能登仏教界の反乱に、しかし、前田家本陣の混乱はなかった。


「そうか。内蔵助と利長に伝令を送れ。城攻めをやめて、包囲を解けとな」


前田利家の落ち着いた声が飛ぶ。

そんな中、本陣で帳面に記載していた一人の将は、小さく安堵の溜息を吐いた。


************


石動山から出陣した反織田勢力は、一路七尾城へ向かっていた。潜伏時に情報を集め、城の防備はせいぜい1000を超える程度。

城を預かる長連龍は、そもそも寺の僧侶で戦の経験は未熟である。堅城七尾城の防衛戦と言っても、残っている者に武勇にひいでた者はいない。

それでも、5000もの兵が七尾城を囲む。七尾城の改修は聞いている。軍神上杉謙信でも力攻めをしなかった能登の名城だ。石動山は七尾城の壮健さは理解している。

油断なく、一気に押しつぶす…


…はずだった。




手柄を求めて進む兵は、城から射かけられる矢の数にニヤリと笑う。

余りにも少ない応戦。この程度の抵抗なら、一番槍の手柄だって夢ではない。

先を争うように飛び出し城門に向けて突き進む。


「ようまいられた!」


突如戦場に響き渡る大声に、先頭を走る男はハッと顔を上げた。

向かおうとした城門の上で、豪奢な傘を肩に担いだ大男がこちらを見下ろしている。


「だが残念だな。同じハゲ頭でもコチラの頭の方が十枚ばかり上のようだぞ」


そういうと、手に持ったキセルを軍配のように振る。


ドドドドーーーン!!


それを合図に、七尾城に耳をつんざく轟音が響き渡った。




バタバタと倒れる敵兵を見下ろしながら穀蔵院(仮名)は、続けてキセルを横に振る。

七尾城に再び轟音が響くと、突然の事態に足が止まった敵兵が再び倒れていく。

二隊に分けた鉄砲隊が、城門に群がる敵兵に左右から銃弾を浴びせかけたのだ。


「まったく、ウチの禿げ頭は戦場をつまらなくすることにかけて天才だな」


火縄銃による圧倒的威力を前に、穀蔵院はつまらなそうにつぶやく。

七尾城には三直の手で700丁もの鉄砲が納められていたのだ。それも、鉄砲だけではない。使いきれないほどの大量の弾薬も一緒にだ。

能登への支援で、越前加賀から送られる物資に紛れて、前田家の持つ鉄砲が密かに運び込まれていたのだ。城の改修に両国からの資材を運び入れていた七尾城では、その動きを不自然に思う者は誰もいなかった。


敵から反撃のように撃ち込まれる矢弾を、肩に担いだ鉄傘ではじくと、城門の上から飛び降りる。

城門の内側で防衛のために待機している足軽を集めた。


「出るぞ!城門を開けよ!」

「え?城門を?」


長連龍配下の足軽が疑問の声を上げる。まだ敵を一撃しただけである。足が止まったとはいえ、その先にはまだ圧倒的な数の敵。ここで打って手でも常識的に勝てるとは思えなかった。


「案ずるな。相手の出鼻をくじくだけだ。その間に、鉄砲隊に次の弾を込めるよう命じておけ。挑発につられた敵兵に再び浴びせかける」


鉄傘の部分をはずし、大槍にかえながら穀蔵院が周囲の足軽に笑って見せる。


「よいか、相手の数が多い。だからどうした。舌を出せ、笑ってやれ、屁をひってやれ。相手を散々馬鹿にして引き返す。どうだ?万軍の敵に啖呵をきれる剛の者はいないのか!!」


恐れを感じない大声が、七尾城正門の虎口に響き渡る。ある物は覚悟を決めるように槍を握り、あるものは空元気なのか、それでも笑みを浮かべている。鼓舞により覚悟を決めた足軽たちの先頭に立つと。ゆっくりと開く城門を見ながら小さくつぶやく。


「ほんとうに、つまらん勝ち戦にする天才だな」


城門の開いた先に見える圧倒的な数の敵を前に、慶次郎の口元には笑みが浮かんでいた。


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