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118 上杉外交

越中での会談を終えたあと、寄港した港で帰りの船に乗る。


「禿鸞殿。いつから真言宗に狙いを?」


慶次郎の言葉に、首を横に振る。


「可能性の一つとして用意しただけです。前田家が北陸を攻める以上、上杉家と事を構える可能性は十分にありました。その為に、上杉家と縁のある真言宗を確保しただけです。何もなかったとしても、一乗谷の重石としては役に立つ」

「ご慧眼ですな。しかし、上杉はこの件。乗りますかね?」

「乗るさ。乗るしか道がないからね」


現在の上杉家は詰んでいる。

越後の内情はもとより、外交面でも先がないのだ。周囲は敵だらけだ。

いつまでも上杉謙信の名前で周辺国を抑えられるわけがない。

それゆえに、強大な織田家に一矢報いて周囲に「さすが上杉家。侮りがたし」と思わせる必要がある。

たとえば、織田家の一大攻勢を挫くという名声とかね。


石動山を扇動しないで他に方法があるなら、それに越したことはない。だが、北陸を手に入れた上杉家は加賀を一向宗に任せていた。その為に、加賀を扇動するコネがない。越中では戦場から近すぎる上に警戒されている。その点、能登の石動山は、かつて上杉謙信が能登の畠山家を攻めた際に陣を敷いたゆかりのある場所だ。


「それに、上杉家はこっちの意向を意識しなければならない」

「というと?」

「前回と違い、送る支援を分けたからです。こちらが一方的に送る支援ですから、好きなときに打ち切れる」


越後上杉家の内情をオレはある程度察している。

それは去年送った2万石の米と、その動きによってだ。

上杉景勝はその米を有効に利用して後継者争いで勝利を収めた。

米を使ってしまったわけだ。

もし、上杉家に余裕があれば、その米を使うことなく確保するだろう。それをせずに使ったという事は、そうする余裕がないという事。

そして、その米の流れを追えば、上杉家の家臣達の流れも見えてくる。自分に味方する者に米を回す以上、敵対者と支援者の扱いは明確に分かれる。

そして、その使用量を見れば、上杉家の残った物資の量も見えてくる。

内紛を治める為に、越後豪族の取り纏めが必須であり、その為に越後に足りない米が分配される。

迅速に越後を取りまとめる必要があるからこそ、負けることの許されない内紛という状況であるからこそ、その為にばらまかれる米は最大量となる。

降ってわいた米を最大限利用するが故に、最大限の効果を求めるが故に、全力を出してしまう。

二万石の米ををどれだけ使ったかで、上杉家の内情を割り出し、その二万石がどう動いたかで、越後の豪族の状況を推察し、その二万石にどれだけ上乗せできたかで、上杉本家の備蓄を逆算する。

オレからすれば、上杉家の内情を推測するのは、そう難しい作業ではない。


上杉家のみを支援する事で、上杉家による越後の取り纏めが加速する。その根幹は前田家からの支援なのだ。それを失えば、周囲を敵に囲まれた上杉家に未来はない。武田家にとって上杉家が最後の同盟者であるように、上杉家にとっても武田家は最後の同盟者だ。

疲弊した越後が復興するまで、織田家の支援がなければまとまれない上杉家。そして時間をかけて、織田家に譲歩し続けて復興した頃には、周囲に味方はいなくなる。

後は、織田家の庇護を受けて越後を安全にする以外の選択肢がなくなるのだ。


「上杉家はもう詰んでいますか。では、石動山は?」

「あれは、能登のためです」


石動山を蜂起させる事には二つの意味がある。一つは、越後上杉家に華を持たせ、織田家に降伏しやすくする事。もう一つが、


「能登の反抗勢力をあぶりだします」


石動山は蜂起する以上、最大限の勢力を取り込み軍勢を率いるはずだ。能登の霊山として歴史は深い。当然、能登には縁の深い豪族も多い。そこから織田家に反感を持つ豪族を集めるのは容易なことだ。

上杉家だって、能登の織田家残存部隊で鎮圧されるような、しょぼい蜂起では、扇動するだけでは意味がない。出来る限りの支援をするだろう。

ありとあらゆる手を使って支援する。

能登と同じだ。ありとあらゆる手を使うがゆえに、こちらの望む手を打ってくれる。


「その話は叔父上(利家のこと)はご存知で」

「もちろん。奥村様とも協議の上です」

「それがしに話がなかった事は?」


慶次郎に話さなかった理由?もちろん。意趣返しである。

だが、それを正直に言うわけはない。


「だってほら、今回の同行者は、穀蔵院殿でしたからね」


目を細めて笑うオレの言葉に、慶次郎の口が「へ」の字に曲がる。

あれだけ引っ掻き回したんだ、これくらいは当然だろう?


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