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112 北陸侵攻計画

二手目の説明をしよう。


「能登侵攻は別働隊にまかせて、越中に加賀前田家本隊を向かわせます。これも能登を攻めると思わせて越中への奇襲です。目的は、上杉援軍を能登に向かわせないためです。準備をする時間は最小限、今ある兵力で越中に向かいます。越後に近い越中であれば、上杉軍も出てこざるをえません。そして、緊急の出陣である為、向こうも準備が不十分。いきなりの全面衝突はありません」


そもそも、そんなことしたら織田家と本気で戦う事になる。前田利家の首でも取ろうものなら、上杉家が許される事は絶対にない。

織田家の反感を買わないために、消極的戦闘で形だけでの防衛戦だ。当然、こちらも睨み合いが目的なので、それに付き合うだけで良い。籠城戦にでもなるだろう。


「睨み合いの間に越前から援軍を送り越中は膠着状態に持ち込みます。その間に、別働隊に援軍を合流させ能登を取る。やる事は加賀侵攻の時と同じです」

「同じ?」

「鳥越城で攻めてくる相手を釘付けにし、尾山御坊を囲んで、別働隊が加賀を鎮圧。向かう場所と規模は違いますが、やることは同じです」


その事実に気が付いた前田利家は唇を上げる。


「ハハハ。奥村。お前の加賀攻めの采配を盗まれているぞ」


加賀侵攻の時に采配を振るった奥村様が苦笑する。


「ならば、能登を攻める別働隊は少数精鋭で迅速に戦える者が良いでしょう」

「そうだな。別働隊は内蔵助(佐々成政)に頼むことにしよう。内蔵助なら、能登を任せても安心できる」


たしかに、織田家与力の佐々成政は歴戦の勇士だ。殿とも仲がいいし、裏切ることはない。先の加賀侵攻でも最大の激戦地である鳥飼城攻略をしたのが佐々様だ。

容赦がないともいえるが、能登の上杉派を完膚なきまでに叩き潰すのには問題ない。

能登はこれで良し、では第三手目に移りましょう。


「さて、長様。能登で仇を討つことが今回の作戦の始まりになります。であるがゆえに、討つ時期が重要になります。まだ、加賀は支配して日が浅い。不安定な加賀をそのままに、能登を攻めるのは下策です。そこで、もう一つ条件を付けます」

「条件?」


長様の言葉にうなずいて答える。


「本願寺一向宗の降伏です。織田家と一向宗の和睦をもって、加賀での後顧の憂いをなくします」


加賀一向衆を完封勝利で下したとはいえ、民衆に密接にかかわるのが宗教だ。潜在的な危険は残る。ましてや、今回の作戦は、加賀にいる前田軍と別働隊を、越中と能登に回す為、加賀に残る兵は、一時的とはいえ最小限まで落ちる。


「本願寺との講和は成りますか?」

「おそらく、本願寺はあと一年と持たないでしょう」


加賀一向衆が前田家に落とされた事。その際、上杉家が一向宗に援軍を出さなかった事で同盟は形骸化し、一向宗の織田家への切り札が消えた。まだ中国地方の毛利家が支持してはいるが、毛利家のみでは織田家に決定打を与える力はない。

織田家に敵対する事で、一向宗への弾圧は続いている。一乗谷に逃げてくる僧侶の数も、少なくない。決定打を持たない以上、それを盛り返す手段がない。

この状況で、徹底抗戦を続けても、一向宗本山が比叡山と同じ道をたどるだけだ。

卓越した外交能力をもってしても、織田家に敵対できる外部勢力がなくなっているのだ。せいぜい、中国地方の小豪族程度。そんなものを集めたところで烏合の衆だ。打つ手はない。


そして、石山本願寺が降伏すれば、加賀一向衆の大義名分も消える。北陸での威光も一乗谷にとってかわられて詰みだ。そして、一乗谷は前田家の管理下にある。

無理に反旗を翻しても、石山本願寺と一乗谷から破門でも言い渡されれば、宗教であるが故に、その支配土台を崩すことができる。強制する必要もない。それを匂わせる事で、こちらの顔色を窺わざるをえない一乗谷一向衆の上層部がしてくれる。


「長様。今回の策はすべて、長様の手腕にかかっております。人、金、物。遠慮なく申し出てください。最大限提供する用意があります」


オレの言葉に、神妙にうなずく長宗顒。


「それと、領土もじゃ」


口を挟んだ殿をいぶかしげに見る。それを見返しながら殿は言葉を続ける


「能登を取れば、能登は内蔵助に任せるよう大殿から言い付かっておる。それと同時に、長殿も能登に残れるように大殿の許可も得ておる。それを見越して調略の条件を結んでよい。その点に関しては、内蔵助にも譲歩するよう頼んでおるからな」

「わ、わざわざ、それがしの為に…」

「内蔵助一人で能登をまかせられるものか。長殿の力あっての能登よ。はげめよ」

「は、ハハッ…」


長様はその言葉に、目に涙をためて平伏する。


似合わない言葉使ってる。今のは大殿の真似だな。

ニヤニヤしていると、殿から刺すような視線を向けられるので、視線を逸らして誤魔化すとしよう。

場の雰囲気もいくらか和らいだようだ。


まだ話していない最後の四手目だけど、まあいいか。

どうせ、加賀前田家にはあまり関係がない話だ。

事前に連絡はするが、実際に動くのは大殿だ。上杉軍と相対した所で勝手に動いてくれるだろう。


越中での前田家と上杉家との対決は、決着を望まない消極戦闘である。当然、この戦いは長期戦が予測される。

そして、越中で上杉家が前田家と戦い続けるという事は、


甲斐武田家の最後の同盟者が動けなくなるという事だからだ。


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