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100 北前船に1人+1人

ザザーン ザザーン


船べりから水平線を眺める。転生前も転生後も変わらない海がそこにあった。

別に感慨に耽っているわけではない。

現実から逃避しているだけだ。


「ぷはぁ~」


隣で、煙管を吹かす傾奇者からな!!




安土から戻って、勝豊君に大殿から資金提供と、過剰な米のお買い上げ作業を丸投げする。内政団も使っていいからよろしくね。

こっちはこっちで、別の作業があるから後は頼むわ。

デスマーチじゃないよ。デスマーチは年貢徴収で“終わったからね”。これは、新しい仕事だよ。ほら、国内賦役の手間は半分になっているし、余裕はあるよね。

で、こっちはこっちの準備をして、越前から船に乗ったわけだ。


なんで、ここにいるんだよ!?

府中城城主 前田慶次郎利益!!


「いや、禿鸞殿が面白い格好をしているので気になりましてな」


確かに、オレは変わった格好をしている。黒い法衣に袈裟の坊主姿だ。それも、使い古されて擦り切れている衣装から、どう見ても食い詰めた坊主か修行僧だ。


「しかも、北前船に乗るわけですから、これは何かあるなと後をつけたわけですな。結果、船が出航してしまい取り残されてしまったわけですがな。いやはや一生の不覚。はははは」


嘘をつけ!出航するまで隠れていただけだろ。と言うか、フラフラ出歩いてもいいのかよ十万石の城主様。フットワーク軽すぎじゃねぇか!?


「ご安心めされい。府中は留守役が委細抜かりなくしてくれよう」


ご安心めされないよ!!

主に、100%、完全に、お前のせいでな!


「して、禿鸞殿。向かう先を越後と推察しましたがいかがです?」


顔を近づけ声を潜める。

…なんでコイツはこういう所で頭がいいんだ。体は大人。心はDQNの戦国トンデモ傾奇者なのに、こういった感性が一級品なのが始末に悪い。

オレの表情で察したのだろう。慶次郎は悪戯が成功したようにニヤリと笑う。


「なに、禿鸞殿のその恰好。向かうは敵地でござろう。加賀なら船は不要。能登越中に脅威はござらん。となれば残りは越後しかありますまい?」


ありませんよね~。

まあ、北に向かう段階で敵地確定なんですが、元々北陸は一向宗などの宗教勢力が強い。であるならば、旅行者や商人よりも僧侶の姿の方が怪しまれないと想定しての変装なんだ。

チンドン屋がついてすべて台無しにしてくれた。

おかしいな、内密に上杉景勝の家臣に接触する予定だったのに…


「いいですか。慶次郎様。私は内密に越後へ入るのです。面倒事は避けなければならないのです。いいですね?」

「ご安心めされよ。禿鸞殿。委細承知してござる」


大事な事なので、もう一度言いますが。

全然、ご安心めされません。




天正六年十二月

オレは越後到着早々、春日山城下の武家屋敷に通されていた。

ちなみに言っておくが、春日山城は上杉謙信の居城で、現在上杉景勝の居城。いわば上杉家の本拠地だ。

とはいえ、上杉家の内乱では前線にも近く、数ヶ月前に上杉景虎に攻撃されたらしい。城は落ちることなく、景虎は撤退したが、城下にはまだ戦乱の後が残っていた。


さて、見落とされているかもしれないからもう一度言おう。

『越後到着早々』

うん。これが何を意味しているか分かるだろう。


オレは言ったよな。確かに言ったよな。面倒事は避けろと言ったよな!内密に入るって言ったよな!委細承知ってお前も言ったよな!!

なんで、城下町に入った初日に、酒場で大喧嘩になって、上杉家家臣と殴り合いした挙句。


「こちらにおわそう方をどなたと心得る。『越前の今士元』三直豊利殿でござるぞ」


とか名乗っちゃうかな!?

あれか?印籠でも出す気か?お前が渡したのは引導だよ!!

思いっきりオウンゴールじゃねぇかよ。このまま捕まってサドンデス(突然の死)ってか!?


「どの道、上杉に話を通すのであれば問題ござらん。なに、もしもの時は禿鸞殿を抱えて越前まで戻って見せますよ」


脊髄で考えた事を大脳通さず神経にダイレクトに伝えて行動するのは辞めてくれませんか?

物事には順序ってものがあるんだよ。

この脳筋ニュータイプを誰か何とかしてくれ。

一応、景勝派にコネのある一向宗僧侶からの紹介状を用意していたので、それを上杉家の家臣に渡す事で、即捕縛&即処刑のコンボはなくなったようだ。

客人待遇で一室に通されている。そこで今回のジェットコースター交渉の責任追及をしているわけだ。

でっかい釘を刺しているつもりなんだけど。糠に刺さっているようにしか思えない…


「…しっ」


そんな感じに、突っかかるオレを笑ってスルーしていた慶次郎だが。突然目を左右に走らせ表情を改める。

左右には襖があり、その向こうには部屋があるようだ。そして、そこになにか気配を感じたのだろう。

どうやら、目的の人が来たらしい。


立場上オレよりも地位の高い慶次郎を前に出そうとしたが、当人はオレを押しとどめて、にやりと笑った。


あ、こいつ。絶対ロクでもない事を考えているな。


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