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殺人の救世主  作者: おじさん
とある殺人鬼が生まれた理由と少女の話
100/102

3-26

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―――


「…遅くね?」


「…もう、どれくらい経ったか、分からない…」


勢いよく意気込んだまでは良かったのだが、世の中はそうは上手くはいかないものであるようで、俺達はまだ牢屋の中に二人で佇んでいる。


別に何かが裏目に出たという訳でもないのだが、どうやら事が上手く運んでいるとは言えないらしい。


「まぁ、結構無茶な注文だったからな…。気長に待つとするかね」


もうどのくらい前だったか覚えてないが、随分と前に秀吉にあることを頼んだ。それが達成出来ていなければ、自分達はここから動くことは出来ないのがなんとも歯痒い。


しかし、そうでなければ動くだけ無駄なのも事実であり…情けない話だがこればっかりは彼を頼りにせざるを得ない。


「…眠く、なって、きた…かも」


傍らで座っている夏生が目をこすりながらか細い声でそう呟く。まだ幼い夏生にとっては、待ち時間が長いのは少し苦痛であるだろう。


それでも、待っている間に胸に抱き抱えている脇差しを片時も離すことはなかった。もしかしたら夏生は武人気質であるのかもしれないと苦笑する。


「ちょっとなら寝てもいいぞ。まだもう少しかかりそうだからな」


外の雰囲気と聞こえてくる音から察するに、目的が達成されるにはまだもう少し時間がかかるはずだ。逆に言えば、そう遠くない内には…刀を抜くことになるだろう。


「ん…だいじょ、ぶ。肝心な時に、寝てたら、ダメ…」


やはり眠そうではあるのだが、少し強がってみせている夏生。どうやらこの状況で自分だけが寝ることを自ら咎めているようだ。


目をこすりながらも、その目は意思を帯びた強い目をしていて…それは少なくとも齡十一の少女が見せる目ではなかった。


「…強いな、夏生は」


気付けば、そんな言葉を口にしていた。前に自分と夏生は似ているなどと宣ったが、それは愚かな間違いであったかもしれない。


「?? 陽の方が、絶対強い…よ?」


果たして、自分だったら…このように気丈に振る舞えただろうか。快楽に呑まれてしまう前の、何もかもに不満を抱いていた、あの時の自分であった場合、今こうして逃げ出さずにいられたと自信を持って言うことは出来ない。


「心の話だ。夏生は俺なんかよりもよっぽど強い」


「心…? …なら、それも、陽のおかげ…」


そう、何でもないように告げる彼女は、恐らく心の底からそう思っている。一切の猜疑無しに、自分の心と向き合っている。


それが彼女の強さであり…俺にはずっと無かったものなのかもしれない。では、それを見せられた自分もそれなりのことはしなくてはいけないのではないだろうか。


「夏生」


少しだけ彼女の顔を見つめた後、俺はおもむろに立ち上がり、夏生に手を差し伸べる。


その差し伸べられた手を、夏生は一切の戸惑いもなく握り締めた。


外では、多少ではあるが人々の声が騒がしくなっている。そして、微かにだが嗅ぎ慣れてしまったある臭いが感じ取れる。


…どうやら、上手くやってくれたようだ。この先はどう転んでも、あの日の再来となるだろう。


一つだけ違うことは…


「…さて、何人殺れるかな?」


あの日生まれた殺人鬼が、もう既に存在していることに他ならない。

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