『2人の秘密工房?』
「ただいまお母さんっ。…あれ?…買出し行ってたんだっけ」
「ねえ、マリオン?留守だったら悪いし、”エリーゼ”おばさんに挨拶も無しに」
「いいって、お母さん、帰って来たらきっと喜ぶし。ほら上がって」
いつになく久しぶりの来訪に浮き足立っているのか、マリオンは元気良く玄関で軽く詠唱をする。
ここの世界は魔物やその他の現生生物に襲われる心配は全く無い。
しかし、あたしを含む異世界に住む人々に古くから根強く染み付いた風習でもあり。
外出時には自らの私服や身に付ける物にも最低限なエンチャントを促す。
「よしっ、んじゃ上がってよ」
バシッと張り詰めていた風圧らしき物が弾ける軽い音が響き結界が解除される。
防御魔法が無効になり、身に付けていた黄色いブーツ同色の手袋を脱ぎ、戸棚に仕舞う。
え?今頭に被る”シルクハット”はって?
それはあたしがかぼちゃでもある証拠。
うん。多分世間一般に言われる”本体”と。
「ねえ、かぼちゃ。早く行こうよ」
未だ玄関に佇むあたしに痺れを切らしたのか、玄関から覗くリビングの角から水色ロングを揺らしひょっこりと顔を見せる。
「じ、じゃあお、お邪魔します。」
「誰も居ないよ?かぼちゃは本当。礼儀正しいんだから」
ふと、膨れているのか呆れているのかわからない表情のマリオン。
この世界での生活にもかなり慣れたのか。市内での小さなアパートだが、狭いなりにしっかりと整頓されている食器棚を抜ける。
多分彼女のきめ細かな性格なのだろう。
無駄の無い棚。母親にも似たその性格とは反対な父親は未だにあちら側の世界でギルドを束ねるツワモノなのだが。
だらしがないのは折り紙つきなのは有名でもある。
「ねえ、は〜や〜く〜し〜ろ〜。かぼちゃっ」
「あ、ゴメンね。マリオン」
リビングの脇。その奥にある狭い和室。
その和室を彼女なりの知恵や知識でちょっとした”魔法工房”と化した部屋。
あちら側の世界でも、同じように数々の魔道書を戸棚にギッシリ置き。常に新しい魔術研究は絶やさない彼女。
ふと、こちら側でも小さな魔法工房を開いていたのかと感心したあたしだった。
つづく。