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ラジコンウォーズ  作者: kazu
ニイタカヤマノボレ
9/27

零戦テスト飛行

同じ日の同じ時刻に、山口多聞率いる第二航空戦隊の所にも、同じ荷物が届いていた。場所は四国の松山だ。

「これだけの物を一人で組み立てるなんてできないな。一セットずつに分けて、仲間の所に送るか」

 山口はそう言うと、箱からパーツを取り分け始めた。そして、其々のパーツを送られてきた箱に詰めると、仲間の所に送るように準備を始めていた。

 山口の所は、南雲の所とは違って少し寂しい気がした。だが、沸々と湧いてくる闘志は、南雲の所には負けず劣らずであった。

 山口は、自営業者だった。自宅の敷地内に工場を建て、そこでは、精密機械での精密部品を加工する仕事をやっていたのだ。その為に、取引先などに発送する荷物もある。それらと一緒に、仲間達にパーツを送った。そして、それを知らせるメールも送信していた。

 山口自身も飛行機を飛ばしていた為に、一機分のパーツは残しておいた。その設計図を見た山口は、

「仕事で見る者とは全く違うな。それに、今まで組み立てたラジコンとは、精密さや精巧にできている所なんか、見ているだけで興奮するぞ。エンジンもデカいし、セル式でカッコイイな。まさに、飛ぶ芸術だな」

 と、絶賛が止まなかった。もちろん、プロポを見た時も同じだった。その時は、それに馴れる様にと、寝付くまでプロポを眺めては操作の練習をしていた程だった。

 山口のパソコンには、同じ戦隊の仲間からも同じ様な想いのメールが届いていた。それを見て、その日のうちに荷物が届いたことが確認できて、安心している山口の姿があった。

 仲間の下に早く荷物が届かない事には、大西が言っていた期日に間に合わないと心配していたからだ。


 そして有泉の所にも、山本からの荷物が届いていた。有泉は、仕事に行くのを一時間遅らせて、尚且つ、軽トラックを知り合いから借りての荷物受取をやっていた。

「こんなに荷物があるとは、新型の潜水艦が送られて来たのか。まあ、とにかく組み立てる事にしよう」

 荷物の多さに、四苦八苦しながらも載積をやっていた。

 その日の夕方、仕事を終えて荷物の箱を開けた有泉は、

「ほう、これほど精巧なパーツを組むには時間が掛かりそうだが、大西参謀の言っていた期日に間に合うかどうか」

 そう言って、首を傾げる程だった。

 ラジコンマニアにとって、これほど興奮する様な出来事は無いのだろう。目の前にある精密且つ、実物と同じ様な精巧に出来ているパーツは見た事が無いのだろう。市販には無い、手作りの一品一品に、焦る気持ちを抑えるのが精一杯だったに違いない。

 それを思わせる様に、その日から徹夜で組み立て作業を行う有泉だった。


 その日の夕方までには、大西の下に仲間からのメールが届いていた。全てのパーツが滞りなく届いている知らせだった。

「そうかそうか。後は、仲間達が機体を組み上げるのを待つだけだな。翌日は、誰もが飛ばす事だろう。何と言っても、モニター越しに操縦しないといけないからな。大きな破損が無い限りは、一通りのパーツの予備は一緒に送ったから心配はないが、早く慣れてくれよ」

 独り言を呟きながら、一つひとつメールに目を通していた。



 九日(日曜日)。早朝。

 朝靄が立ち込める中、とある河川敷に数台の車が停まっていた。

 時間は五時前である。それでも、夏の朝は日が登っている。

「目が冴えて眠れなかったよ」

「俺も、ですよ。早く飛ばしたくて、昨夜は機体に穴が開くんじゃないかって言う程見ていましたからね」

「岩本さんらしいや。と言いつつも、俺も同じでしたけどね」

 出来上がった機体を抱えて、そう言いながら自前の滑走路まで運んでいる岩本と西澤が、そんな会話をしていた。それを聞きながら、同じ様に自分の機体を車から引き出す杉野の姿もあった。

「一応、プロポの感度もチェックしてみましたが、これが又、抜群の感度を持っていましてね。モニターに映る画像も、とってもきれいに映っていましたよ」

 そう言いながら二人の所に歩み寄っていた。

そんな杉野の目の前では、プロポを手にした岩本が、機体の始動ボタンを押した。その瞬間、車のセルが回転した時のような音と共に、甲高い爆音が響き渡った。それと同時に、機体前方のプロペラが回転し始めたのだ。

「くうっ! たまりませんな」

「見ているだけで、武者震いが来ますね」

 目を丸くして機体を見ている岩本と西澤だった。そして、

「一番機、出動します!」

 との岩本の掛け声に、徐々に前進する零式艦上戦闘機の姿があった。翼長で1・5メートルはある機体。第一航空戦隊の鼠色の塗装が光っている。その機体が滑走路上を勢いよく走る。そして、遠ざかるプロペラの音と共に、機体が浮き上がった。

「無事、離陸成功ですね」

 西澤の言葉に、

「初めてだけど、モニター越しの離陸もいいですね。まあ、飛んだ後は、モニター画面には空しか映っていませんがね」

 ポータブルゲーム機のモニターを見ながら、岩本がそう言って笑っていた。その横でも、自分のプロポのモニターを見ながら、西澤が自分の飛行機を飛ばした。そして、その後に続けて、杉野も飛ばしていた。

 上空を舞う三機の零戦。大きな円を描いて三機が並ぶと、その列は、あの有名な『三角編隊飛行』へと変わっていった。

 岩本の機体の後ろに、西澤と杉野の機体が並ぶ。その光景は、おそらくは、あの台南空に居た時の三人を思わせていただろう。

「岩本隊長。飛行訓練は上々ですね」

 西澤が、プロポのマイク越しにそう言うと、慌てて耳にイヤホンを着けた岩本が、

「そ、そうだな。杉野はどうだ」

 と、慌てて答えていた。それを見ていた杉野は、

「ハハハ…… 岩本さん。緊張していませんか」

 と笑いながらそう言った。

 そこに居る三人は、まるで子供の頃の自分に戻ったかの様に、ワイワイと騒いでいた。

 その光景を、三人の居る河川敷に到着した南雲が、車の窓越しから見ていた。そして、その光景を携帯電話のカメラで写真に写すと、それを大西と山本に送っていた。

 その光景と同じ様な事が、その日の夕方には、山口率いる第二航空戦隊も味わっていた事は言うまでもないだろう。

 こうして作戦決行に向けての準備は、着々と進んでいった。


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