第一航空戦隊
八日(土曜日)早朝七時。
山形県米沢市にある宅配業者の営業所前には、一台の四トントラックが停車していた。そこでは三名の男性が、大きな段ボール箱を幾つもトラックに積んでいた。
「落とすなよ。大切なものだからな」
「はい。上積荷はしない方がいいですね」
「もちろんだろう。積荷をしなくても全て積める筈だ」
「これが最後の荷物ですよ」
「おう、それを積んだら行くぞ」
リーダー格の男がそう叫ぶと、残りの二人はトラックの運転席に乗り込んだ。そして営業所でサインを済ませたリーダー格の男も、運転席に乗り込んでいた。
「俺の会社に迎え」
リーダー格の男がそう言うと、
「了解! 南雲さんの会社だね」
そう言ってトラックを走らせた。
そこに居たのは、南雲忠一中将だった。そして残りの二人は、南雲航空戦隊、所謂、第一航空戦隊の隊員だったのだ。
「奥村。俺の会社の倉庫で組み立てを開始するぞ。他にも人員を呼んでおけ」
南雲の言葉に、
「解りました」
と言って、携帯電話を手にした。
奥村と言えば、海軍航空隊でも名を馳せた撃墜王『奥村武雄』である。撃墜記録は五十四機で、ラバウルの戦闘後には草鹿司令官から軍刀を貰っているほどだった。
「杉野。ゆっくり運転してもいいんだぞ。スピードを出し過ぎて、交通事故でも起こせば元も子もないからな」
南雲が、そう言って運転手に声を掛けたのが、第六航空隊に所属していた『杉野計雄』だった。真珠湾攻撃の時には居なかったが、その後のミッドウェ―開戦時には、赤城の艦載機に乗っていた。
「はい。任せて下さい」
そう答えた杉野だった。
三人の乗ったトラックが南雲の会社に到着すると、そこには二人の男性が待っていた。
「おお、岩本に西澤。ここに荷物を下ろすからな、手伝ってくれ」
との南雲の掛け声で、一斉に荷物が下ろされていった。
岩本徹三。大日本帝国海軍随一の撃墜王で『零戦虎徹』と言われたほどのパイロットだ。そして西澤広義はその次の撃墜王で、ラバウルでは米軍から魔王とまで言われ恐れられていた。
その二人が、荷物の箱を開けた時、
「こ、こりゃ凄い。これだけの機体を操縦するとなると」
と驚いていた。そして、その言葉の続きになる言葉を、南雲が答えていた。
「そうだ。草刈り機のエンジンを搭載する。それもセルモータ起動だからな、大西さんは頭が良いよ」
「草刈り機用のエンジン」
「燃料タンクだってあるんだぜ。二時間は飛べるらしい」
南雲の更なる言葉に、そこに居た男達は生唾を飲んでいた。
「は、早く組み立てましょうよ」
奥村の言葉に、
「そうだな。何時命令が下ってもいい様にしとかないとな」
と西澤が言うと、
「そうじゃないだろう。早く飛ばしたいんだろうが。正直に言えよ」
と、岩本が茶化す様に言った。すると、
「人の事、言えた義理ですか」
と笑って言うと、
「ハハハ…… バレバレだな」
と奥村が笑って言った。そんなやり取りを見ていた南雲も、
「まあ、早くやろうぜ。組立図はここにあるからな」
と言って、全ての荷物を下ろしていた。
「だけど去年から、俺達の名前が戦時中の人物になったんだが、その前はラジコン同好会の一員だったんだぜ。まあ、他の県にも仲間が増えたからいいけどさ。これからどうするよ」
奥村の不安げな言葉に、
「ミリタリーズに居る時は、俺達は南雲戦隊だ。そうでない時は、昔の様なラジコン同好会の仲間でいいんじゃねえの」
段ボール箱から部品を出しながら、岩本がそう言った。
「そうだよ。俺達も、他の県の連中の操縦を見て、自分の能力向上にも繋がるからね」
西澤もそう言って部品を出していた。
ここに居た者達は、十年来の友人達だった。南雲を筆頭に、飛行機ラジコン同好会を作っていたのだ。そこへ、南雲の古くからの親友だった男が、ミリタリーズの事を話してきたのである。
その親友というのは、ミリタリーズの海軍総司令官山本の父親で、ミリタリーズでは『東郷英機』を名乗っていた。
南雲は、その事は他の者達には伏せていた。
そんな南雲が、最後の箱を開けた時、そこに居た者達のざわめきが起こった。
「こ、これが今度使うプロポか。どうみてもポータブルゲーム機じゃないかよ」
そこにあった物は、子供達に人気のゲーム機だった。市販で売られているタッチペンを使ったゲーム機。それもLサイズの為に、搭載された二つのモニターも大き目だった。
「このモニターで、もしかしてカメラからの映像が映るのか」
奥村がそう叫ぶと、
「これが箱に入っていたから、恐らくそうだろう」
と言いながら西澤が箱から取り出した物は、袋に入った小型カメラだった。それを機体に搭載して、遠隔操作でゲーム機型のプロポに映像が映し出される仕組みなのだ。その上、十時キーを使えば、カメラの視界は360度回転可能である。他にも多数あるボタンで、ミサイルや機銃と言った武器の操作も可能なのだ。左の隅にある3Dスティックも付いている為に、機体の操作も容易にできる。
画期的な発想のプロポなのだ。
「これを持っていれば、近くに居る歩行者からは怪しまれる事が無いな。物陰に隠れて機体を操作しなくてもいいって訳だ」
岩本がそう言って喜んでいた。
「ここ、マイクになっているよ。これで仲間と連絡も取れるし、イヤホンを着ければ仲間の指示も聞こえる」
この中で一番若い杉野も、そう言って喜んでいた。
これだけの準備をやって、ミリタリーズがやろうとしている事は一体何なのだろうか?